「そろそろ、いい頃合か・・・実行に移すとしようか?」
彼の呟きを聞き、有能な彼の副官は、怪訝そうな顔をして視線を向けてよこす。
だが、彼女が言葉を発する前に、引出しから一枚の書類を出し、サインをする。
そして、大総統執務室の大きな革張りの椅子の背もたれを鳴らして、副官に向き直った。
「これを」
差し出された書類を見つめて、副官は端整な顔を心持ゆがめたようだった。
「大総統閣下」
「なんだね?」
「これは・・・本気で書かれた書類でしょうか?」
「・・・・・もちろんだとも」
彼女の鋭い視線に大総統は少々怯んだ様だったが、何とか威厳を崩さず命令を下した。
「関係各所に連絡をして、なるべく早く執り行うように」
「・・・・イエス・サー」
彼女が踵を返して立ち去った後、彼はホッとしたように軽く息を吐き出す。
そして、満足そうに微笑んだのだった。
『公約』・・・・・・T
彼の名は ロイ・マスタング
地位は 大総統
いろいろな混乱が続いた後、彼はとうとう念願のその座についていた。
もちろん、すぐに国政が落ち着くわけもなく、いろいろと問題を抱えてのスタートだったが・・・
その地位についてから、二年。
彼と彼の部下たちの努力のお陰で、国は徐々に落ち着いてきていた。
先ほどの副官・リザを始め、彼の有能な側近達は、良く自分を支えてきてくれたと思う。
敵の多い自分についてくることは、彼女・彼らとしても並大抵なことではなかったろう。
そんな部下たちに、感謝の気持ちもこめて、そろそろ『公約』を果たす時だろう。
「まぁ、満足するのは半数だけだろうが・・・・仕方ない」
他の者には、他に何か優遇措置を考えてやら無くてはならないだろう。
だが、とにかくこれは、まだ私が『大佐』だった頃からの部下たちとの『約束』なのだ。
なんとしても、果たしてやらなければ・・・・・
ある程度の反発を予想しながら、それを迎え撃つべく気合を入れる。
彼の副官がそれを見たら
『その気合は、別な所で見せてください!!』
と一括されることだろう。
それにしても、あんなにあっさり受け取ってくれるとは思わなかった
先ほどの副官の様子をおもいだし、首を傾げた。
『まぁ、私も威厳が出てきたと言うことかな?』
勝手な解釈をして、彼が悦に行っていた頃、彼女は『命令書』を見てため息を付いていた
「忘れたわけじゃなかったのね」
呆れたようにため息をまた一つ。
「・・・・・まったく、相変わらず無能なんだから」
毒を吐きつつ、彼女は電話をかけるべく歩みを進めた。
*****
「おやおや、お揃いでどうしたね?」
あの書類を副官に渡した次の日、
大総統執務室は『満員御礼』と札を下げたくなるほどの人数が入室していた。
そのメンバーを見ると、二グループに分かれている。
1グループは、ロイを大佐時代から支えてくれている、側近達。
もうひとつのグループは、リザとマリアを含めた女性将校達。
・・・・・しかも、その表情は怒気をはらんでいる。
男性のグループは、大総統に激励と感謝の意を伝えに来た者達。
女性のグループは、大総統に意見と苦情を言いに来た者達。
・・・・・どうやら、意見の違う者達が、偶然にも同じタイミングで入室してしまったらしい。
女性達に睨まれ、男性達は皆、激励どころかだらだらと冷や汗をかいている。
だが、それはロイにとって予想範囲内のことだ。この位で怯んではいられない。
いつも通りの余裕の笑みを浮かべ彼女達に微笑むと、副官に向き直った。
「ホークアイ大佐」
「はい、閣下。なんでしょう?」
「私は、関係各所に連絡しろと言わなかっただろうか?」
一応、じとっと睨んでは見るが、彼女には効き目が無いだろう・・・
「はい。ですから関係各所・・・・・この場合関係者は女性達になると判断しましたので、
早速、昨日の内に将校クラスの主だった者を集めて、意見をまとめさせていただきました」
クールな表情を崩さずに、リザはよどみなく答えると、横にいたロス中佐に合図を送る。
マリア・ロス中佐はそれに頷くと、一歩前にでて、宣言した。
「大総統閣下にご報告致します」
ハラリと、持っていた巻紙を大仰に広げると、その内容を読み上げる。
「閣下からの命令書を皆で検討した結果、私達『女性軍人』は、これを拒否することをご報告致します!」
尚、これは将校だけではなく、各将校達が自分の部下の女性達に緊急アンケートを取った結果です。
したがって、これは『全軍の女性の意見』とお考え下さい。
きりっとした表情で、そう言うとその紙を大総統の机に置く。
そしてまた、元の位置にカツッとかかとを鳴らして戻った。
その紙を見ると、
『私たちは、軍服を【ミニスカート】に変更することに、断固反対致します』
そう、大きく書かれている。
そして、その下には女性将校達の名が連名で記入されており、各印が押されていた。
『やはり、彼女達は一筋縄ではいかん・・・・だが。』
出世を望む本当の理由の隠れ蓑のために、吹聴した約束。
だが、部下達(男性のみ)は結構楽しみにしていたのを知っている。
最初は自分の側近達だけだったのだが、どこで聞いたのか、今では下士官達までもが
期待に胸躍らせているという。
『ここは、是非果たさなくては男がすたる!!』
それに・・・
『やっぱり、私も楽しみにしてたんだし』
結局の所、最大の理由はそこらしい。(まさに、外道である・・・笑)
ロイは、キリッと表情を引き締め、女性将校達を見た。
「諸君らはどうやら思い違いをしているらしい」
「思い違い・・・ですか?」
「昨日私が下した指示は、諸君らの意見を求めてのものではない」
立ち上がり、自分を睨みつける複数の瞳をぐるっと一瞥して、言い放つ。
「これは、大総統命令である」
「「「「・・・・・」」」」
以上、この議論はお終いだ。
そう言いながら、席につくと・・・
女性達は悔しそうに唇を噛み。
男性達は歓喜の声を上げた。
「よっ、大総統アメストリスいちっ!!」
「男前です、大総統!!」
「俺達はどこまでもついていきますぜ!!」
やんやの歓声に手を上げて答える。
その大騒ぎに、リザが表情を崩さぬまま、銃の安全装置に手をかけた。
流石にぴたりと歓声が止まり、大総統以下男性が全員氷ついた。その時・・・・
コンコン
聞こえてきたノックの音に、ロイはホッと息を吐いた。
この空気を変えるべく、すぐに入室を許可したのだが・・・
入ってきた人物を見て、ロイはまた凍りつく。
「閣下、失礼致します・・・・・・皆?・・・どうしたんですか?」
「エ、エルリック少将・・・・」
彼は入室した途端周りを見回すと、目を丸くして首を傾げた。
エドワードエルリック・22歳
地位は少将
言わずもがなの、鋼の錬金術師である。
彼が弟と自分の体を取り戻したのと、ロイが大総統の地位に昇ったのは、ほぼ同じ時期であった。
もともと元の体を取り戻すと言う目的のために手に入れた国家資格だ。
それゆえに、目的を達成した後は、すぐに返上するものと周りは考えていた。
だが、彼の行動は違った。
大総統の地位に昇ったものの、未だ敵も多く問題を抱えるロイを支えることを選んだのだ。
赤いコートを脱ぎ捨て、青い軍服をまとった彼は、今ロイの側近として側にいる。
年若いのに異例の地位についた彼へ風当たりはあったものの、
その切れ者ぶりに、今では「大総統の右腕」「懐刀」と恐れられるまでになっていた。
「君は確か視察のはずじゃ・・・・?」
ロイは内心の動揺を押し隠して、ポーカーフェイスで質問した。
今日、エドワードは視察でいないはずなのである。
この命令を下す時に、エドワードがいるのはまずいと判断したロイは、
わざわざ、彼が視察のため、数日間留守をする時を見計らって命令を出したのだ。
なぜなら、彼は愛しい愛しい自分の恋人なのだから。
自分がこんな命令を出したと知ったら、彼はどうするか?
以前のように激怒して、その辺のものをぶっ壊す・・・・・なら、まだました。
それなら、暴れたせいで、ある程度スッキリするらしく、機嫌の直りが早いのだ。
だが、この頃・・・大人になった彼は、前より理性的である。
しかも、軍に入って自分のそばにいるようになってから、リザに少し似てきたような?
(たぶん彼女に仕事を教わったせいだと思われる・・・)
クールな冷たい視線を浴びせられ、しばらく触らせてもらえないか・・・
もしくは、最悪の場合、呆れ顔で実家に帰ってしまうかも?!
『か、考えるだけで恐ろしい・・・・・・・』
もちろん、今バレなくても軍に彼がいる限りいずれはバレるはずである。
そんなことは百も承知だ。
だが・・・命令の施行以前に彼に撤回を求められれば、自分はやはり折れてしまうだろう。
ミニスカートの夢は消える。
その上、やはりエドは自分へ何らかの報復をするだろう。
命令を実行してもしなくても彼に怒られるなら、実行してから怒られた方が得である。
何しろ、『軍令』というものは、一度施行されると簡単に撤回できるものではないのだ。
『怒られる上にミニスカートを見れない』と
『怒られても、ミニスカートは見れる』
・・・・・なんだかんだ言って、彼は自分の事を愛してくれている。
怒らせても、後のフォロー次第で何とかなるだろう・・・・
色々と考えた結果、『やっちゃえば、こっちのもの!!(最低★)』という結果を導き出して、
エドのいない時にわざわざ、命令書を出したロイだったのだ。
それなのに、何故彼がここにいるのか?!
ロイは、目の前が暗くなるのを感じた。
「は。・・・実は相手方の不都合がありまして」
視察の後、その土地の実力者との懇談などがスケジュールに入っていた。
だがそちらの身内に突然の不幸があったとかで、以降の予定がキャンセルになってしまったのである。
泊まりでパーティやらなにやらがあったのが、全部無くなった為、即刻帰ってきたらしい。
「ところで、何の騒ぎなんです?」
「・・・・・」
「少将、私が説明いたします」
リザは事のあらましをエドに説明しだした。
2人のうしろで、女性達はホッとしたような表情を浮かべ。
男達は落胆の表情を浮かべている。
ここにいる者達は、ロイの側近達である。
つまり、大総統と若き少将の関係も知っている者ばかりなのだ。
エドはリザやマリアと仲が良いし、男性ではあるが、いつも女性達の味方をしてくれている。
しかも、自分の恋人が他の者のミニスカートを見たいがためにこんな命令を出したと知ったら、
やはり面白くはないはずである。
即刻、彼に異議を申し立てるものと推測できた。
そうなれば、大総統は命令を撤回せざるを得ないだろう。
ロイがエドにベタ惚れなのを知っているだけに、皆はそう確信していた。
だから、女性達はエドの出現を歓迎し。
男性達は、落胆の目で彼を見たのである。
「・・・そういえば、大総統がまだ大佐の頃、そんなことをおっしゃってましたね」
聞き終えた彼は、顎に手を当て、昔を思い出すように目を細めた。
物思いに耽る彼の顔を、その部屋に居る全員が固唾を飲んで見つめている。
特にロイとしては、次に彼の口から出される言葉を、神の審判を受けるような心地で待った。
そして、彼はニッコリと笑っていった。
「楽しみですね。いつから施行されるんです?」
『公約・T』終わり・・・Uに続く
軍服エドって・・・・・萌えv
エドに軍人になって欲しいわけじゃなくて、大人でしかも軍服のエドが書きたいってだけで書きました(苦笑)
同じように、大総統ロイも萌え〜vvv
エドはポニーテール、ロイはオールバック希望です!!(笑)
『これはありえんだろ!』 的な、ツッコミどころ満載な話ですが、ギャグって事で、見逃してください(^_^;)
みんなの階級、凄く迷いました・・・・・・