「は・・・・・・・?」
誰からともなく、まぬけな声がもれた。
思いがけない言葉に、一同はエドワードをただ呆然と見つめる。
そんな視線に、エドは戸惑ったように瞬きをして、皆の顔をぐるっと見回した。
「・・・・え?オレ、なんか変なこと・・・言った??」
『公約』・・・・・・U
仕事の時はそれなりの言葉遣いをするようになったエドだったが、
みんなの視線にとまどったように、以前のくだけた口調で問い掛けた。
困ったように首を傾げるエドに、最初に口を開いたのはハボックだった。
「いや・・・・・変って言うか・・・・意外?」
「意外?・・・・なんで?」
「大将は、絶対あっち側だと思ったから・・・」
そう、女性達の方を指差す。
「へ、なんで?」
「なんで・・・・って」
カリカリと頭を掻くハボックに、エドは悪戯っぽく笑った。
「だって、オレだって男だし?・・・・・見たいじゃん、ミニスカート?」
この言葉に、またもや一同は驚愕する。
「・・・・・前、この話が出たとき、散々呆れてたじゃないか?」
ロイが大佐時代、ロイとハボックがこの話で盛り上がっていたうしろで、エドは盛大に呆れていた。
「・・・・・あのさぁ、そんなのガキの頃の話だろ?オレ、もう二十二なんだけど?」
「そっか・・・・・そうだよな・・・・・もう、お前大人になったんだよな」
しみじみと言うハボックに、一同も心中で同じ気持ちだった。
エドワードが男性なのは、もちろん皆知っている。
彼が、もう成人しているのも、分かっている。
だが、少年時代から彼を知っているため、いまだ子供を見守るような気分がぬけていないのである。
しかも、彼はまだ『少年』と言える年齢からロイと付き合っているのを知っているから、
『エドが、女性に興味を持つ』など、誰も考えていなかったのだ。
・・・・・微妙な間に、エドはそのことに気付いたらしく、頬を引きつらせた。
「・・・・・まさか、皆・・・オレが 『そっち専門』 だとか・・・思ってたりした?」
「いや、まぁ・・・なんというか」
「言っとくけど、オレはちゃんと健康な男子!・・・・・女の方が良いに決まってんだろ?」
口ごもるハボックに、憮然と言い放つエド。
ハボックはエドから視線を外し、チラリとロイの顔色伺ってみると・・・やはり、固まっているようだ。
『大総統、御愁傷様っス・・・・』
ハボックは心の中で呟きながら、ポンとエドの肩を叩いた。
「ま、なんにしろ・・・お前もやっぱり同じ男だったんだな、嬉しいぜ?」
「いや・・・・でも、さっきから、後の視線が痛いんだけど・・・・・」
エドの言葉にハボックとエドは同時に、後をゆっくりと振り向くと
そこには、女性達の視線。
すると、突然マリアが、つかつかと近づいてきた。
エドの前に来て、ぴたりと止まる。
「少将・・・」
「え〜と、やっぱ、怒ってる・・・・・かな?」
エドは冷や汗をかきながら、自分の副官を見た。
軍に入った時、エドの希望で彼女に副官になってもらったのだ。
きりっとした顔で見つめていた彼女は、突然、柔らかい笑顔を浮かべエドの手をとった。
「中佐??」
「少将、私は嬉しいです!!」
「へ?」
「心配していたんですよ・・・あなたの将来を思うと」
「将来・・・・・?」
「勝手なんですが・・・以前護衛としてあなたにお会いしてから、私はあなたの事を弟のように思ってまいりました」
「・・・・ありがとう、嬉しい・・・」
彼女の思いがけない言葉に、エドは照れたように微笑んだ。
「だから、少し心配だったんです」
「何の心配・・・?」
「つまりね、前途有望なあなたが無能な上司に縛られたままで良いのか、私たちは心配だったのよ」
いつの間にか2人に近づいていたリザは、キッパリと言い放った。
彼女の言葉に、マリア以下女性幹部達はうんうんと頷く。
ロイはその言葉を聞き、顔を引きつらせる。
もちろん、ロイは今でも女性に大人気である。
甘いマスクに、洗練された雰囲気。
しかも、若くて独身の国家最高権力者である。
これでモテない訳がない。
しかし、彼を支える側近の女性達は、何故かロイの色香をものともしない、強者が揃ってしまった。
それが、リザの教育の賜物か、
有能なくせにサボリ癖のある上司のお守りをされせられて、ほとほと呆れたせいかは謎であるが(笑)
顔を引き攣らせたロイを無視して、、リザはさり気なくハボック達のもとからエドワードを奪還する。
そして、いつの間にやら、エドは女性達の輪の中に囲まれていた。
「嬉しいですわ、少将が女性に興味があるのが分かって!」
「どんな女性が、お好みですか?」
次々と出される女性達からの質問に、エドは戸惑いながらも返事を返す。
「えっと、やっぱり優しい人がいいかな?」
「じゃあ、女らしい人がタイプなんですね?」
「うん。・・・でも、ただ優しいだけじゃなくて、真がしっかりしてる人がいいな」
「以前少将がおっしゃっていた、少将のお母様のような方でしょうか?」
「うん。母さんみたいな人がいい・・・・って、オレ・・・マザコンかな・・・?」
「そんなことはありません!!・・・・では、年上もOKですか?」
「うん、オレ年上の女の人、好きだよ!」
皆親切にしてくれるし、そうエドはニッコリと笑うと、女性達は黄色い声を上げた。
それを見ていた男性陣がボソリとつぶやいた。
「どうやら、『俺達と同じ』ではないらしいぜ」
「だな・・・・・」
「ミニスカートが見たい・・・って内容は同じなのに、なんでこんなに待遇が違うんですか?」
「納得いかないですな・・・」
ロイを含め、男性全員の胸に湧き上がった言葉。
それは『理不尽』であった・・・・
リザとマリア以外の女性達は、色めきたって話を続ける。
「そうだとしたら、ミニスカート・・・悪くない案かもしれないですね?」
「そうね、まずは少将がその気にならないといけないですから」
「ええ、激務で外に出る時間は少将にはあまりありませんし、制服を変えるというのは有効かも」
「なら、ミニスカートだけでなく、ロングタイトに深いスリット入りとかもいいんじゃない?」
「なるほど、若い子は健康美で、私たちは色気でアピールと言う訳ね!?」
わいわいと、円陣を組んで相談していた彼女達は、リザとマリアを振り返った。
「大佐、中佐・・・」
目で訴える部下達を見て、リザは小さくため息を付いた。
「仕方ないわね。いいかしら、中佐?」
「ええ、私は少将のためになるなら、賛成させて頂きます」
「そうね、反対だった皆も『少将のため』と分かれば、賛成してくれるでしょうし・・・」
リザはそう言いながら女性達を見回すと、皆一緒に頷いた。
それに軽く頷くと、今度はエドワードに向き直る。
「少将、皆、あなたのためになるならこの案に賛同すると言っています」
「本当?いいの?・・・きっと皆(男性達)も喜ぶよ」
笑顔のエドにリザは微笑むと、以前の親しげな口調で、話し掛けた。
「ええ、でもあくまで私たちとしてはエドワード君のためなの。そこであなたに相談なんだけど・・」
「何?オレで出来ることだったら・・・」
「特典をつけてもらいたいわ」
「特典??」
「つまり、何かご褒美みたいな物が欲しいのよ」
「え??何が欲しいの?」
「希望者全員とデート」
「へ?!」
エドはポカンとした顔でリザを見つめた。
(後からガタンと音がしたのは、ロイが思わず立ち上がった為らしい・笑)
「え?え・・・・///」
「というのはさすがに無理でしょうから、定期的に食事会に出席してくれるってのはどうかしら?」
あなたと会食する機会が出来れば、皆喜ぶと思うわ?
そう、リザはニッコリと笑う。
他の女性将校達は、歓声を上げた。
「さすが、大佐!いい事おっしゃいますわ!!」
「ええ、それなら他の者も皆納得してくれるはずです!」
「少将、いかがですか?張り切って楽しい会をコーディネートさせていただきますわ!」
そんな彼女達に、エドはニッコリと笑った。
「うん、それぐらいなら構わないよ?」
「じゃ、決まりですね」
リザはそう微笑むと、キリリと顔を引き締めてロイのデスクの前に進み出た。
「大総統、お聞きの通りですので、こちらの書状は破棄させて頂きます」
大総統のデスクに置いたままの、先ほどの嘆願書を手に取ると持っていたファイルにしまった。
「関係各所への伝達は、これから早急に行います」
そう言って、退室しようとしたリザと女性達だったが、それを止める声がした。
「待ちたまえ、ホークアイ大佐」
「はい、なんでしょうか?」
「私の出した命令書をここへ」
「・・・・・・・はい」
リザが、ファイルの中から、例の命令書を取り出しロイに手渡す。
ロイはその書類を一瞥すると、おもむろに破り捨てた。
「「「あっ!!!」」」
男性も女性も入り混じった声があがる。
が、ロイは構わず破り捨てた命令書を灰皿に棄てると、パチンと指を鳴らした。
ボッと音を立てて、灰皿の中の書類はあっという間に黒い塵へと変わった。
「この命令は、なかったことに」
途端、部下達からブーイングの声があがる。
「そりゃないっスよ!!大総統!!」
「そうですよ!楽しみにしてあなたについて来たのに〜!」
そう男性達は嘆き、
「折角、私どもも決心したんですよ?!」
「少将との合コンはどうなるんですか〜!!」
女性達も戸惑いながらも噛み付いた。
そんな部下達を一瞥し、ロイは口を開く。
「やはり、この案は軍の為にはならないと判断したのだ」
規律を乱すような案は、やはり問題がある。
・・・よって、これはなかったことにする。
そう言って、ロイは不機嫌に椅子を回して、皆に背を向けた。
「皆、下がれ」
短くそう命令するロイの言葉を聞き、部下達は肩を竦め、退室していった。
最後に残ったのはエドワードただ一人。
「オレも退室したほうがいいですか?大総統閣下?」
「・・・・・いていい」
どこか拗ねたようなロイに、エドはため息を付いた。
デスクを回り込んで、いまだそっぽを向いて座っているロイの横に立つ
「・・・ばっかじゃねーの?折角夢が叶うってのに、自分でぶち壊すなんて?」
もったいねーの。そう呆れ顔で言うエドに、ロイは椅子を回してまた向き直る。
「・・・・・そんなに見たかったのかね?ミニスカートが」
憮然とした態度のロイをみて、エドは苦笑した。
「・・・もしかして、ヤキモチ焼いてるわけ?」
「・・・・・・・・」
無言だが、バリバリ焼いてます!!と言うのが、見え見えである。
ロイの、どこか子供じみた態度に、エドは可笑しそうにクスクスと笑った。
「しかし、オレって意外にモテるんだなー。知らなかった」
元の体に戻って、身長も伸びたものの、自分の理想には届かなかった。
しかも、その中性的な容姿は女に間違われる事も多々あったので、
女性にモテるとはあまり考えた事がなかったエドだった。
今まであったと思われる、女性からのアプローチも気付かずスルーしてきたのかもしれない。
「もしかして・・・・・結構損してたのか?オレ?」
少し残念そうに言うエドに、ロイはギョッとした。
青くなっていくロイを気にすることなく、エドはなおも続ける。
「そういや・・・このところ忙しくて、そういう色っぽい話はご無沙汰だったなぁ」
オレ、まだ二十二なのに・・・・・どうかと思うよなー。
ブツブツと独り言を言うエドに、ロイはますます蒼ざめていく。
「よし・・・・・じゃあ今夜辺り早速・・・」
「エ、エディ・・・・!」
まさかナンパに?!と、腰を浮かせて焦るロイ。
だが、エドは立ち上がりそうになったロイの肩に手をかけ座らせると、
彼の顔に自分の顔をふわり、と近づけた。
ちゅっ
目尻の辺りに、キス一つ。
そしてエドは、綺麗な顔で微笑んだ。
「今夜辺り・・・・ど?」
『公約・U』終わり・・・Vに続く
大人になったんだね、エド!!(笑)
子供みたいいだね、ロイ?!(爆笑)
カッコイイエドが書こうと思ったら、ロイがいつもよりヘタレになっちゃったみたいです・・・許してください(苦笑)