呆然と固まるロイに、エドは首を傾げた。

「・・・あれ?ダメかな・・・今夜予定でも入ってた?」
「駄目なわけないっ!!!」

エドの言葉に、慌ててそれを遮るように答えを返して彼の手を引いた。
近くなった体の腰の辺りを抱きしめて、その胸に頭を預ける。

「女性をナンパにでも行くつもりか・・・と、焦ったよ・・・・」

顔をあげないまま安堵の息を吐きながらそう言うロイに、エドはクスリと笑った。
「・・・・・ばっか、じゃねぇ?」
だって、オレの恋人はアンタだろ?
そういってロイの頭を抱きしめるエドに、ロイは腰を抱く腕にますます力を込めた。



『公約』・・・・・・V



「怒ってないのかね?」
あんな命令を出したことを?

やぶへび覚悟で聞いてみると、からかい調子の笑い声が下りてくる。

「なに?怒って欲しかったわけ?」
「いや、決して怒られたかったわけではないが・・・・・・」

もちろん、怒られないに越した事はない。
だが、全然気にしてない風なのも悲しいものがある。
付き合いだした当初は、町で女性と立ち話していただけでも盛大にヤキモチを焼いてくれたのに?
この冷静さは、やはり彼も大人になったからと言う事なのだろうか。
・・・まさか、前ほど私に興味がなくなったなどと言う事は・・・・・・?!

『いや・・・・・』

それならば、こんな風に抱きしめてくれるわけがないな・・・・・たぶん。
やはり、大人になったということだろう。
そう思いつつ頭を彼の胸から離し、その腕を引く。
抵抗する事もなく、エドはロイに導かれるまま彼の膝に座った。
そして、どちらからともなく口付けを交わす。


「でもさぁ・・・・・これって、今日中に終わんの?」

執務机の隣にあるサイドテーブルの上には、これでもか!というほど書類が積み上がっている。

「・・・・・俺のいない間、サボりまくってたんだな?」
じとりと睨まれて、ロイは引きつった笑いを返した。
「君がいないと思うと、仕事が手につかなくて」
「なるほど。寂しくて、仕事が手につかなくて、ついついミニスカの命令書を作成してた訳だ?」
とってつけたような言い訳に、エドは冷たい眼差しを向けた。
「・・・・・・・・・」
黙り込むロイにエドはため息を付くと、ロイの背中に回していた腕をほどいて立ち上がった。

「エ、エディ!」
「これじゃあ、さっきの誘いは無理だな」
こんな状態でアンタをつれて帰ったら、ホークアイ大佐にオレが撃たれる。
そう言って立ち去ろうとするエドの手を、立ち上がったロイが捕まえる。

「終わらせる!!」

エドから誘ってくれるなんて事、付き合いが長くても数えるくらいしかないのだ。
しかも、エドの言う通り・・・この頃はお互いの仕事が忙しすぎて家にも帰ることもままならず、
すれ違ってばかりで、彼にしばらく触れる事も出来なかったのだ。
こんなチャンスを逃すような事が出来るわけがない!
なんとしても終わらせる。そう言葉に力を込めた。

「・・・絶対だぞ。ズルすんなよ?」

オレはもう上がりだがら、先に帰るけどさぁ?
疑わしそうに、じろりと睨むエドに苦笑する。
「わかっているよ。定時には無理かもしれないが、きっちり終わらせて家に帰るから」
彼の肩に手をかけて真面目に答えると、彼はこちらに向き直った。
そして、ロイの背中にエドの腕がするりと巻きついてきた。

「・・・・・あんまり遅かったら、寝ちゃうからな?」
ちなみに、寝てたの起したら本気でボコるから。
そう言ってニヤリと笑うエドに、ロイは顔を引きつらせた。

「・・・死ぬ気で頑張るよ・・・・・」
死んでどうすんだよ・・・エドは、呆れたようにそう答えて。
そして、少し考え込むと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「なぁ、もしも早く帰ってこれたら・・・・・」
エドはロイ抱きついたまま、かかとを浮かして背伸びし、彼の耳元に唇を近づけ囁いた。


「オレがミニスカート履いて見せてやるよ」


それだけ言ってエドはさっさと退室していった。
ロイは立ち尽くしたまま、エドの消えていったドアをしばしの間、呆然と見つめていた。



*****



しばらくして、リザが再び大総統執務室に入室すると、
怒涛の勢いで書類を片付けるロイの姿があったという。

そして丁度定時の時刻。
まともにやったら、徹夜してもゆうに明日の朝までかかる量の書類をきっちり終わらせ、
不気味なほど機嫌がいいロイが爽やかな笑顔を振り撒きつつ、いそいそと帰っていった(笑)

「いつもこうなら、いいのに・・・」
それを見送りながらリザは呟いた。
そしてロイの側近達が詰める部屋のドアを開けると、おもむろに愛銃を抜いた。

ドン・ドン・ドンッ

「あなた達もいつまでもだらけていないで、さっさと業務を終わらせて頂戴」
「「「「は、はいっ!!大佐!」」」」
ロイの裏切りによって生ける屍と化していた側近達は、しゃきっと背を伸ばすと、
冷や汗をたらしながら仕事を片付けだしたのだった――――



*****



その頃エドは―――
夕食の準備が終わって、一息ついたところだった。

「っと、そろそろロイが帰ってくるころかな?」

キッチンから寝室に戻ると、シャツにジーンズというラフな格好だったのを脱ぎ捨てた。
そして、再び青の軍服を身につける。
パンッ
おもむろに両手を合わせると、軍服にその手を当てる。
青白い閃光が煌き、練成が始まった。

「・・・こんなもんかなぁ?」

出来上がったのはミニスカ軍服。まさにロイの夢そのものの出来である(笑)
女の足とは違うものの、すらりと引き締まり体毛もほとんどないエドの足。
ミニスカートが良く映えている。
鏡に向かうと括っていた髪をほどき、櫛を入れる。
そしていつもよりゆるく、後れ毛が残るようなポニーテールに結い上げた。
その方が、色っぽい感じになるのを計算しての事である
全身が映る鏡で確認した後、エドは不敵な笑みを浮かべた。



******



<昨日の昼頃>

『少将ですか?ホークアイです』

視察途中、突然軍部からかかって来た電話に出てみると、ホークアイ大佐だった。
エドは、訝しげに問い掛ける

「大佐?どうしたんですか?何かあった・・・・まさか、奴らが動いたか?!」
近頃、テロ集団の残党がまた活動を活発化させてきていた。セントラルで何かあったのだろうか?
『いえ、その件ではありません』
では、なんだろうと思っていると、リザが申し訳なさそうな声でこう言った。

『これは少将としてではなく、エドワード君への頼みなのだけど・・・・・』
「・・・・・あの無能、またなんかやらかしたの?」

ため息混じりに肩を落としてそう聞くと、リザは察した様で苦笑したような声で答えてくる。

『実はね・・・・大総統は、とうとうご自分の野望を達成するおつもりらしいわ?』
野望?まさか・・・・・・・・・・!!
「もしかして・・・・・・昔言ってた、アレ?」
『そう、アレ』
ピキッ。・・・・エドの額に怒りマークが浮かぶ。

「・・・・・あぁんの、クソバカエロ無能大総統がぁっ〜〜〜〜!!!』

エドの怒りの言葉に、リザは深く頷いた。

『阻止したいんだけど、なんだかやたら気合が入ってて、こちらだけでは手に余るの・・・』
協力してくれないかしら?
そう言われて、エドはすぐに頷いた。
「わかった。こっちは何とか都合をつけて・・・明日の昼には帰るよ」
『助かるわ。・・・ごめんなさいね、仕事中なのに』
「いや、こっちこそ手間かけさせてごめん」

きっちり、締め上げてやるからね?
そう言ったエドの背後には、どす黒いオーラが漂っていた。

『ありがとう。で、具体的な計画なんだけど・・・こんなのどうかしら?』
「うんうん」
エドとリザの密談は、小一時間も続いたのだった―――――



「でも、さすがは大佐。計画どうりだったな」

二人が立てた計画。 それは、大総統自ら命令を取り下げたくなる状況に持ち込むということだった。

当初エドは、いつものように(笑)謝るまでロイを無視しつづけるつもりだった。
だが、それでは長期戦になってしまう。
(といっても、1週間くらいで終わる。ロイが我慢できないから・笑)
それに、今回はなんだか怒られるの覚悟らしいので、むりやり通される可能性がある。
一度施行されれば中々取り消せない。その後無視しても、後の祭りなのである。
本施行になる前に取り消させるには、やはりロイ自ら取り下げたくなるように仕向けるのがいい。
そこでリザが提案したのは『ヤキモチを焼かせる』事だった。
反対するだろうと思われているエドが、あっさり頷き、まるで自らも望んでいるそぶりをする。
女性に興味を持ち始めたのか?!と焦ってきた所で、リザとマリアが畳み掛けて。
そして、他の女性将校達が『エドのモテモテ度』をアピールする・・・・という作戦だ。

「そ、そんなんで取り下げるかなぁ?・・・アイツがヤキモチ焼かなかったらどうするの?」
この計画だとこっちも肯定しなくてはいけないので、失敗したらどうしようもなくなってしまう。
不安げなエドだが、リザの方は自信満々だ。
『大丈夫、100%成功するわ』
それでも、まだエドの方は不安だった。
「でも、オレがモテモテ・・・なんて嘘、すぐばれるだろ?」
『・・・・・本当にエドワード君って、自覚ないのねぇ』
呆れたようなリザの声に、エドは「へ?」とか、すっとぼけた返事を返した。

嘘でも何でもなく、エドワードはモテる。

少年のころも一部で『可愛いv』と大人気だったのだが、大人になってからの彼は・・・・・
ロイよりは低いけれど、女性と並んでバランスが取れるくらいに伸びた身長。
その体はスラリと細身に見えるが、鍛えてあると分かる、機敏な身のこなし。
女性でも羨望してしまうほどの、金に輝く美しい髪。
そして、見つめれば吸い込まれてしまうのでは?と思わせる、魅力的な瞳。
まるでお伽噺の王子さま・・・・なのに、お姫様でもいけそうな、艶がある。
そんな中性的な容姿であるため、今や、男も女も魅了しまくりなのである。
しかも、二十二歳という若さで、少将で国家錬金術師。
これでモテないわけがない。
なのに、昔から自分の容姿に無頓着なエドはそれに気がつかない。
このごろやっと、『ロイにとって自分の容姿は魅力的らしい』とわかったくらいである。

『まぁ、そこが可愛い所でもあるんだけれど・・・』

だからこそ、この計画は必ず成功する。
なにせ、ロイの方はしっかり気付いていて、増えつづけるライバルに戦々恐々としているのだから。
リザは電話口でクスリと笑った。

『エド君、とにかく私に任せてくれないかしら?絶対成功させるから』
「うん・・・。大佐がそこまで言ってくれるなら、大丈夫だよな?オレ、言うとおりにするから!」

そうして、計画は実行され、結果は先の通り。
エド達の大勝利で幕を閉じた。



だが・・・・・これだけでは、エドの気がすまない。
自分という恋人がありながら、未だ女の尻を追いかけるなんて。
病気のようなものだと思いつつも、むかっ腹が立つのは当然で・・・・・・
あの場では計画の為許す態度をとったが、エドの性格上、一矢報いてやらねば気が納まらない。
だが、嘘でも『自分も楽しみだ』といった手前、今更ぶん殴るわけにもいかない。
そこで、ロイにとって効果的なやり方で、仕返しする事にしたのだ。

名づけて、『ミニスカ報復作戦』。
(サブタイトル=目には目を・歯には歯を・ミニスカにはミニスカを!!・笑)

自分自身、かなり抵抗がある作戦だが、背に腹はかえられない。
心を決めたエドの目は、座っていた。



*****



「何が『野望』だ!!・・・見てろよ、エロ大総統!」

オレが留守の時を見計らうような、姑息な真似しやがって!!
たっぷり、後悔してもらうぜ・・・・・?
二度と、そんな気起きないぐらいにな!

ミニスカ軍服を纏ったその姿は、小悪魔的な色気をはなっている。
しかし、両手の間接をバキバキと鳴らすその姿は・・・・・・
小悪魔どころか、恐怖の大魔王さながらである。

エドワード・エルリック 22才。
確かに大人にはなったが、性格はそうそう大きく変わるわけがなかったようだ。



チリンチリン

呼び鈴を鳴らす音が聞こえる。
きっと、ロイだろう。
エドは急いで玄関に向かうと鍵をはずす。
そして何食わぬ顔で、ドアを開けた。

「エディ・・・・ッ?!」

エドの姿を見た途端、息を呑むロイに、エドは内心ほくそえんだ。

「お帰り、ロイv早かったな?」
魅力的な笑顔でニッコリと微笑みかけると、ロイの顔がだらしなく緩むのがわかる。

「・・・・・ただいま。君のために急いできたよ」

死ぬ気で頑張った甲斐があったな―――
見とれながら、うっとりとしたように呟くロイに、体をずらして、室内に入るように促す。
自分の肩を抱いて、室内を進むロイから見られないように、エドはニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

そして、ロイにとって『甘くて辛い夜』が始まったのだった――――



『公約・V』終わり・・・Wに続く



女装・万歳!!(またか!?)
エドは大人になっても、やっぱりエドでした(笑)
ロイ、ごめんね?この話、かっこ悪い上に可哀想になってきた・・・(涙)



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