「エディ・・・・・・」

ロイは、この上なく甘い声で恋人に囁く。
エドは、そんな彼に綺麗な笑顔を向けた。


リビングに辿り着いた途端、ロイはコートも脱がずに恋人を抱き寄せた。
甘く香る彼の香りに目を細め、耳元に彼の名前を甘く囁くと、その唇に自らのそれを寄せる。
柔らかく、暖かい感触・・・・・のはずだったのだが。
確かに柔らかいし暖かいが、唇とは明らかに違う感触に、ロイは眉を顰めた。
目を開けて確認すると・・・・・
エドはロイの口付けを手のひらで受け止めるように、遮っていた。



『公約・・・・・・W』



「エディ・・・・・」

先ほどとは違い、非難めいた響きで名前を呼ばれる。
そんなロイを見て、エドは悪戯っぽく笑った。

「まだ、だぁ〜〜め!」
「どうしてだい・・・?」

焦らされて、ふて腐れたようにロイは聞き返す。

「ダイニングのテーブル見てよ?」

エドの言葉に、名残惜しげに彼の体を離すと、ダイニングに向かう。
そこには、出来たての料理が湯気を上げて並んでいた。

「久しぶりに家に帰って来れただろ?2人でゆっくり食事しようと思って作ったんだよ」
「これは・・・うまそうだな」
「だろ?・・・アンタの好物ばっか、作ってやったんだからな?」

確かにそこにはロイの好物ばかり並んでいて、とても食欲をそそられる。
休憩無しで仕事を片付けたので空腹だし、エドの手料理は意外にもかなり美味しい。
ロイは、急激に食欲が出てくるのを感じた。
『だが・・・・・』
チラリと横に立つエドを見る。

「でも、こっちもかなり美味そうなんだが・・・・?」

艶っぽい視線で見つめられ、エドはほんのりと赤くなった。

「食事の方が、先!!冷めちゃうだろ?」
「では・・・・・せめて、口付けくらい・・・」

またも、腰に腕を回してこようとするのを、あとずさってかわす。

「駄目っつってるだろ?!・・・アンタ、止まらなくなるじゃん・・・・・」
「ぜったい、キスだけでやめるから」
「信用できない!」

プイッとそっぽを向くエドに、苦笑する。
以前、同じような場面があって、その時は結局止められずに最後までいってしまったことがあった。
エドの手料理は冷め切ってしまっていて、盛大にへそを曲げられ、機嫌を取るのに苦労した。
『あのこと、根に持ってるんだな・・・・・』
ロイはため息をつくと、「わかったよ」と呟いたのだった。



******



久しぶりの、家での食事。
会話が弾んで楽しく、リラックスできる。
エドの手料理はやはりおいしく、いつもよりたくさん食べてしまった。
何より、愛しい恋人と2人きりでいられるのがこの上なく嬉しい。
ワインを片手に、ロイはエドの顔を愛しげに見つめたのだった。

「ごちそうさま、とても美味しかったよ」
「満足?」
「ああ、とても満たされたよ・・・・・」
お腹はね、と心の中で付け加える。

「じゃ、お茶入れてやるから、リビングのソファーで寛いでて?」

オレは、ここ片付けちゃうからさ?
そういって、手際よく皿を運んでシンクの前に立つエドだったが、その隣にロイが並ぶ。

「ロイ?」
「お茶はいいよ・・・・・私も手伝う」
「・・・大総統が、皿洗いなんかすんなよ?」
「君だって、将軍なのに皿洗ってるじゃないか?」
布巾を取って皿を拭きだすロイに、エドはクスクスと可笑しそうに笑う。
「下士官あたりが見たら・・・・腰を抜かすよ、大総統?」
「美味しい食事をご馳走してくれたお礼だよ・・・・・それに」

早く、デザートをいただきたいしね?

意味深にウィンクしてよこすロイに、エドは頬を染める。
ばーか、と軽く睨んでから、2人並んで後片付けをはじめた。

ここまで見るとまるで新婚家庭のようだが、いつもこんな風に2人ですごせているわけではない。

ロイにはちゃんとした大総統官邸があり、そこに住んでいる。
そこには使用人がたくさんいて、ロイが皿を洗う事などもちろんない。

2人が『家』と呼んで、こんなふうに2人きりで過ごしているのは、エドの自宅だ。
少将であるエドにも立派な邸宅があたえられるのだが、エドはそれを辞退した。
窮屈な事を嫌う彼は、仕事場からそれほど遠くないところに、こじんまりとした家を一軒借りている。
特に使用人も置かず、忙しい時だけ通いの家政婦に掃除や洗濯をしてもらっているのだった。

だから、ここでは誰にも気兼ねなく、2人きりでゆっくりとした時間を過ごせる。
『大総統と将軍』としてではなく、恋人同士として甘い時を堪能できるのである。

「さんきゅ・・・大体終わったし、ここはもういいよ?風呂、入ってくれば?」

オレはもう、先に入っちゃったからさ?
テーブルを拭きながら、エドはロイに言った。

「じゃ、そうするよ」

布巾を置いて、ロイは風呂場に向かう。
その後姿は、まさに上機嫌だ。
多分、このあとの展開に心躍られせているのだろう。

その背中を見送って、エドは、クスリと笑ったのだった。



*****



バスローブを纏っただけで、濡れた髪をタオルで拭きながら、ロイは寝室に向かった。

可愛い恋人があの姿で待っていてくれるかと思うと、鼻歌でも歌いだしたい気分だ。
上機嫌でドアを開ける。

家の大きさの割には、広く取ってある寝室。
そして部屋の奥には、大きなキングサイズのベット―――
エドがこの家を買ったときに、ロイがエドの反対を押し切ってプレゼントした物だ。

『男の一人暮らしなのに、なんでこんなでっかいベット置かなきゃなんねーんだ!!』
『恋人が泊まりに来た時、大きい方が便利だろう?』
『・・・・・入り浸る気、満々なんだな?』
『君が私の所に通ってくれてもいいが、官邸は窮屈だからな』
『人ん家を、ラ○ホテル代わりにするな!!』
『何を言う?!『ホテル』ではなく、君と私の『愛の巣』だっ!!』
『あ、愛の・・・?!・・・・・頭腐ってるだろ、エロ大総統?』
『はっはっは、君は相変わらず照れ屋さんだな♪・・・というわけで、この家の支払いは私がしようv』
『・・・・・・ぜって〜〜〜〜、自分で払う!!!』

そんなやり取りをしながら、ロイが押し切ってベットを置いたのだが、
初めの反対とは裏腹に、この大きくて寝心地のいいベットが、今ではエドのお気に入りのようだ。

そのベットの上に目をやると、
愛しの恋人がこちらに背をむけ、大きなベットの真中にちょこんと座っていた。
もちろん服は先ほどのままで。・・・短いスカートから、スラリとした長い足が伸びている。

『ああ、やっぱり最高だ、ミニスカート!!・・・というか、それを着ている君が最高★』

ロイは心の中で感激の涙をながしながら、小さくガッツポーズをする(笑)
そして、声をかけた。

「エディ」

声に反応して、エドはロイの方を振り向き、どこか妖艶な色気を感じる微笑を向けた。
ロイの心臓がひとつ、跳ね上がる。

「ロイ。こっち、来て?」

体をベットの左半分によけて、空いた右側の方を『ぽふぽふ』と軽く叩いて誘うエド。
可愛い誘いに満足そうに笑みを浮かべ、ロイはエドに近づく。
ベットの上で彼の方を向いて座ると、なんと、エドは膝立ちになって肩に両の掌を当ててきた。

そして――――



「おりゃ!・・・っと♪」

掛け声と共に肩を勢いよく押されて、ロイはベットの上に仰向けに転がってしまった。

『お、おりゃ??』

エドの方から押し倒してくるなんて、破格のサービスぶりだ。
・・・・しかし、押し倒すなら、もう少し色気のある台詞で・・・・・・・
そう思いつつ、彼の顔を見ると・・・・

実に、『いやらしい笑み』を浮かべる彼がいた。

ニイッと笑みを浮かべ、エドは『パンッ』といい音をさせて両手を合わせる。
・・・・背筋が、凍りついた――――――――――



******



「エドワード・・・・・説明してくれないか?訳がわからんのだが・・・?」
「んー?なにが?」
「とりあえず・・・・・なぜ、私はベットに縛り付けられなければならんのかね?」

練成の光が瞬き、その眩しさに一瞬目を瞑って。
次に目を開けてみると、ベットにギチギチに縛り付けられていた。
ただ紐で体だけ縛り付けられているのなら、転がって移動することも出来るのだが、 ベットから練成された触手が絡みつくように体中に巻きついていて、身動きが取れない。
唯一動く首を動かして、エドを見る。

「だってさ、こうしないと、アンタ触ってくるだろ?」
「当り前じゃないか!!こんな可愛い格好の恋人とベットの上にいるというのに、ただ隣で眠るなんて出来る男がいるか!?」
「でもさ、オレ・・・ちょっと疲れ気味で、したくないんだよ」
「なっ・・・・・?!」
「それにさ、オレちゃんと言っただろ?『着て見せてやる』って?」

だからぁ・・・・・と、いやに甘い口調になって、
四つんばいでこちらに近づき覗き込んでくるその姿は、どうにもグラビアポーズっぽくて、クラクラする。
そして、今日一番の色っぽい表情でエドは微笑んだ。

「だからぁ・・・・・み・せ・る・だ・けv

・・・・・・・後頭部をぶん殴られたような、ショックだった――――――



一瞬、真っ白になってしまったロイだが、何とか意識を取り戻して、食い下がる。

「だ、だって君、『今夜、どう?』って・・・・・・?!」
「うん。一緒に食事したいと思って。『食事どう?』って意味だったんだけど?」
「さっきだって、『食事が先!!』っていっただろう?ってことは、後には何かあるって事じゃないか?!」
「ああ、あれ?・・・だってさー、ああでもいわねぇと、アンタ無理矢理してくんだろ?」

まぁ、嘘も方便って・・・・ね?
悪びれもせず、エドはしれっそんな答えを返す。
そんなふてぶてしい態度のエドを見て、ロイはハタ、と思い出す。
そして、恐る恐る聞いてみた・・・・・・

「もしかして・・・・・君、実は『あの事』怒って・・・「怒ってないよ?」

ロイの言葉を遮るように、エドは否定する。その顔は笑顔だ。

「オレがあのぐらいで、怒るわけ無いじゃん?」
「女の人のミニスカート見れて、オレだって嬉しいし」
「男にとっては夢みたいな命令だよな、さすがロイ、男の中の男だね?」

『立て板に水』の勢いで立て続けにそう言うと、またニコニコと笑う。

「・・・怒ってないよ?全然。」

ロイは、自分の血の気がサーッっと引くのを感じた・・・・


『うそだ・・・っ、・・・・・お、怒ってるんだ!?
・・・・・・最高峰の山よりも高く、最深海よりも深く、怒ってるんだ〜〜〜〜〜〜っ!?』


顔面蒼白になりながらも、ゴクリと唾を飲み込んで、何とか言葉を絞り出した。

「エ、エディ・・・・」
「なに?」
「その・・・・・・あいしてる・・・・・・・よ?」

全身に冷や汗を掻きながら、機嫌を伺いつつそう言うと、
エドは一瞬『キョトン』としたような顔をしてから、また唇を笑いの形に歪める。

ロイが緊張の面持ちで見つめる中、エドはおもむろに髪を結っているゴムを外し、頭を軽く振った。
ふわっと蜂蜜色の金髪が広がり、青い軍服の肩にパラパラと落ちてくる。
その美しさに一瞬目を奪われていると、次は鬱陶しそうに軍服の上着のボタンを外し
下に来ていた白いシャツのボタンを3つほど外して、グイと引っ張るようにしてくつろげさせた。
そしてロイの横に寄り添うようにして、足を伸ばし腰を降ろす。
座った腰の位置が丁度顔の隣辺りだったため、目線を下げるとミニスカートの太もも。
・・・・・・・・実に、目のやり場に困る。(いや、いつもは困んないけど・笑)

ロイの頭の近くに片手をついて体を彼に傾けると、上から覗き込む。
その拍子でさらさらと零れ落ちる金髪を、鬱陶しげにひとつかきあげエドは問い掛けた。

「・・・オレも愛してるよ?・・・ねぇ、ロイ」



――――やっぱりミニスカートって、好き?―――――



そう聞いてくるエドの顔は相変わらず笑顔なのに
ゾクゾクと寒気がするほど、恐ろしくて・・・・・・・思わず泣きそうだ。

ただ、その姿は・・・・・・――――魂が抜けそうなほど、美しかった――――



******



「酷いじゃないですか、大総統!!」
公約やぶっておいて、自分はエドと楽しい夜を過ごしたらしいじゃないですか?!

次の朝、出勤してきたロイに、側近達は一斉に詰め寄った。
酷い!ずるい!横暴だ!お詫びに彼女紹介しろ!等と取り囲む側近達に、
俯いていたロイが、ユラリと顔を上げる。

「!!!」

その顔は、目は充血、目のしたには隈。
・・・・・・どうやら憔悴しきっているらしい。

「ど、どうしたんですか?!」
「・・・・・・・」

問い掛けてみたのだが、ロイは無言のまま自分の執務室に消えていった。

『いったい何があったんだろう??』
戸惑いながらも、そっと中を窺う面々。
ロイは、いつもの椅子に、ドサリと身を沈めると、一言。

「ミニスカートなんか、嫌いだ・・・・・・(涙)」

それをドアの隙間から目にして、側近達は目が点になった。

『エド、お前いったい何をしたんだ〜〜〜?!』

昨日はなんとも思っていないふうだったけれど、結局アイツ、怒ってたのか?!
そして、大総統はどうやら・・・命令を撤回したのにもかかわらず、結局お仕置きを受けたらしい・・・
面々は、少々青い顔で、各自無言で立ち去ったのだった。



・・・どこの世界でも『公約』を守るには、さまざまな苦労がつくものらしかった。



『公約・W』・・・終わり



終わった〜〜〜〜〜〜♪
脳内で場面場面を想像して、ニヤケながら書いたこの話。
自分以外にも、ニヤケた方がいらしてくれたら嬉しいな♪(一人で笑ってると、変態みたいだし・・・痛)
本当に、ロイには『ごめんなさい』って感じです!!(T_T)
次はもう少しロイがかっこいい話を・・・・・って、書くかどうかもわかんないですが(笑)
とにかく、最後までお付きあいくださいまして、ありがとうございましたv
(・・・・・・あんまりロイが哀れなので、フォロー(?)をおまけでつける予定。)



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