「なぁ、ロイ・・・・・クリスマスに何が欲しい?」
結婚して初めてのクリスマス。
はじめはクリスマスプレゼントを用意するなど、考えもしなかったエドだが・・・
ウィンリィに『アルに何あげたらいいと思う!?』などと相談されて、
『ああ、クリスマスには恋人にプレゼントを用意するものだよな・・・』と気が付いた。
自分達は恋人同士ではないけれど、結婚してまだ数ヶ月。
一応新婚と言ってもいい部類だろうし、やはりここは用意するべきか!?などと、にわかに考え出した。
だが、いろいろ考えてみても、情けないことにロイが何を欲しがっているのかが分らない・・・・・
本当は驚かせてやりたかったのだが、思いつかないのだから仕方ない。
ここは本人に聞いてみて本当に欲しい物を上げようかと思うにいたり、先ほどの問いかけをしてみた。
夕食後、暖炉の前でブランデーを片手に錬金術書を読んでいた夫は、妻の質問に顔を上げてひと言。
「君。」
「は?」
「君が欲しい」
意味を理解した途端、脱力。
そう言えば自分の夫は、こう言う質問にはこんなお約束な答えを返してくる奴だった。
「・・・・・・・・・オレは、欲しい『物』つったんだけど?」
「だって、君以外に欲しいものがない」
「――――――――――ロイ。(怒)」
途端に怒りを滲ませて、エドはロイを睨みつけた。
折角真面目に何かをプレゼントしてやろうと思って聞いているのに、あくまでも軽口で返すつもりか!?
そんならもういい!!と、そっぽを向いた。
「つまり、何にもいらないってことだな?―――――了解だ」
そのまま踵を返してキッチンに戻ろうかと歩き出した時、不意に後から腕を引かれた。
急に引かれた為バランスを崩して倒れこんだが、大きな手が背中を支え、近くのソファーに横たえさせられる。
そのまま乗っかってくる夫に、慌てた。
「ちょ、こらっ!!まだ、後片付けが終ってねぇんだよっ、ロイッ!」
「何もいらないんじゃない――――――――――――――――君が欲しいんだ」
いや、言い方を変えよう。
―――――――――――――君しか、いらない。
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見つめてくる、愛しさと色気が混じった黒い瞳に、思わず息を詰まらせる。
結婚してもう何ヶ月もたっているのに、こんな風にされるとドキドキしてどうしようもなくなる。
未だこの男に恋をしたままの自分に――――――赤面。
堪らず視線を逸らしてから、呟いた。
「今更やらなくても・・・・・・・・・・・・もう、アンタのものじゃんか」
自分はもう既に、身も心もこの男のものだ。
だからこそ、結婚までしたと言うのに―――――
これ以上自分の何をあげればいいというのだろう?
そう思いつつ、思わず口を付いて出てしまった言葉に、夫は嬉しそうに微笑んだ。
「それは、嬉しいね・・・。でもね、私の妻はとんでもなく魅力的だから、つい心配になってしまうんだ。
―――――クリスマスには、君は間違いなく私のものだという再確認をさせてくれないか?」
”愛してる”
”オレはアンタのものだ”
その言葉をくれれば、私にとっては最高のプレゼントだよ?
そう言って、愛しげにこめかみの辺りに口づけを落としてくる。
「そんなので、いいの?」
「これ以上ない贈り物だよ・・・ああ、もちろん言葉だけでなく、態度で感じさせてくれると嬉しい」
途端、艶っぽい視線を寄越すロイに、何を言わんとしているのかを察してエドは赤面する。
「結局、いつもとあんまりかわんね―じゃん!!」
二人きりになると、いつももれなくスキンシップ(?)を求めてくるこの男。
プレゼントに所望されたのも、結局はそれなのか・・・・・と、呆れる。
クリスマスだから少しは特別な物をと思ったのに、これじゃ普段と変わりない!!
そう、エドは少し口を尖らせた。
「いいんだよ。だって君が側にいて触れ合える・・・そんな毎日が最高に幸せだからね♪」
「・・・・・バカ。う〜〜〜〜っ、でも、なんかなぁ」
釈然としないエドは、少し考えてから―――――――――ぱあっと、顔を輝かせた。
「そうだ!!それなら少し付加価値をつけようぜ?」
「付加価値?」
「そう。いつもと同じじゃ感動薄いだろ?――だから、クリスマスまでの一週間、オレに触れんの禁止!」
「なっ!?」
あまりの言葉に絶句するロイを尻目に、エドはいい案を思いついたとばかりに、ウキウキ顔で説明する。
「一週間我慢すれば、クリスマスにもらえた時に、いつもより少しは嬉しいだろ?」
「いやっ、ちょっと待て!!」
「なんだよ・・・嬉しくないってのか?」
「もちろんクリスマスにもらえるのは嬉しいが・・・それまでオアズケ食らわされるのはっ!!」
「我慢の先に喜びがあるんだよ♪
ブラックハヤテ号だって、オアズケを長くさせられた時の方が、普段より嬉しそうに尻尾振ってたぞ?」
私は犬と同じ扱いか・・・・・・・・・?
呆然と脱力するロイを、エドはぐいっと押しのける。
「そうと決まれば・・・・・早速だけど、のいてくれ」
そのままロイの下から抜け出して再びキッチンに向かうエドを、我に返ったロイが追う。
「エドっ、ちょっと待ってくれ!!・・・・・プレゼント、違う物を考えるから!」
「だーめ」
「そんなっ・・・・・・じゃ、じゃあ・・・せめて明日からってことで?」
「男が一度決めたことを、いつまでもぐじぐじいってんじゃねーよ?」
いや、君が勝手に決定したことなんですが!?
半泣き状態のロイに、男前な妻はビシッと彼の鼻先に人差し指をつきたてて
「これは決定事項。―――以上!」
そう宣言すると、ヘタレる夫を置き去りにして、キッチンに消えていった―――――
******
「クリスマスまで、あと6日と8時間38分54秒・・・・・・・53秒・・・・・・」
次の日から、司令部には魂の抜けた顔で子供のようにクリスマスを指折り数えるロイの姿が。
「・・・・・・・なんスか?あれ?」
「―――――クリスマスに、エド君から『とってもいいもの』がもらえるらしいわよ?」
待ちきれないのね、子供みたいで微笑ましいわ。
抑揚のない声で、科白とは反対に冷めた表情でそう言いながら、愛銃の手入れをするリザ。
そんな彼女に冷や汗を垂らしながら、ハボックはただ『そ、そうですか』とだけ答えたのだった。
素敵なプレゼントがもらえる日。
待ち遠しさに浮かれるのは、子供も大人も変わらない。
だが―――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一週間って、長い。(涙)」
―――――あまりの待ち遠しさに、仕事も碌に手につかない新婚のロイ・マスタングであった。