*この話は<攻防戦9>後のおまけ小話です。




扉を開けて中をざっと見渡す。

落ち着いた色調の部屋、窓際には大きなデスクと座り心地のよさそうな皮張りの椅子。
そして、部屋の壁を埋め尽くす、造り付けの本棚。
その本棚に近づいて本のタイトルを確認して――――エドは目を見開いた。

ロイの書斎・・・・・そこは、宝の山だった。




<理想の結婚・番外編@> 『お味はいかが?』・・・1




「ちきしょう、大佐のやつ!こんな良いモンがあるならもっと早く言えよ!!」


文句を言いつつ次々にタイトルを目で拾っていくと
以前自分が読みたいと言った時に、大佐が何処からともなく持ってきた本があった。

『これ、大佐の私物だったのか・・・・・』

この分じゃ、オレが読んでなくて貴重な本も沢山持ってやがるに違いない。
それならそうと言えばいいものを、出し惜しみしやがって!!
―――――そう地団駄を踏んだエドだったが・・・ハタ、と気がついた。


『・・・・・もしや、アイツと結婚したらー――この本も読み放題!?』


思いがけない特典に、先ほどまでの不機嫌さも吹っ飛ぶ。
エドはわくわくとした顔で、早速本を漁り出した――――



******



『――――――――腹、減った』


夢中になって本を漁りつづけて、数時間。
本の中から意識を引き戻させたのは、自分の腹の虫だった。
よく考えれば、自分は夕食を食べる前だったのだ。
夕食を摂ろうとレストランに向かう途中で、例の『アレ』をみつけて。
そして、怒りのままにここに押しかけたのを、今更ながら思い出す。

エドは、チラリと部屋の壁に掛けてあった時計を見上げた。


『店が開いてる時間じゃねぇな・・・・・』


だが、このまま夜が明けるまですきっ腹でいるのは耐えられそうもない。
エドは仕方なしに重い腰を上げ、そしてロイの寝室に向かった――――




「・・・・・・さ、たいさ、大佐」

自分を呼ぶ声と揺り動かされる感覚に、ロイは重い瞼を開けた。
薄目を開けて自分を揺する者を確認すると、そこにはエドワード。
『そう言えば・・・・彼を泊めたの・・・だったか?』
ロイは半分夢の中をさまよいながら、少々枯れた声で答えた。

「・・・・・・・・・鋼の?」
「あ、起きた?」
「・・・・・もう、朝なのか・・・・?」
「いや、まだ夜中なんだけど、オレ―――」

目を開けたロイに、『やっと飯にありつける!』とにっこり笑って。
そして、食事を要求しようとしたエドだったが――――
ロイは、面倒くさそうにまたすぐ目を閉じる。
その上――――


「・・・・・・・・・トイレなら、一人で行ってきなさい」


・・・・・・・幼児扱い。
しかも折角開かせた瞳が閉じたのに激昂して、エドは再びガクガクとロイを揺すった。

「だぁれが夜中に一人でトイレも行けない子供かっ!!」
「―――――なら、なんだ?・・・子供じゃないなら大人・・・・・夜這いか?悪いが、私は疲れている」
「だっ、誰が、んなことするか〜〜〜っ!!」

子供扱いで怒られたからって、大人ネタ振ればいいってもんじゃねぇだろ!?
っていうか、何ですぐそっちの話題に行くんだ、アンタの頭の中って絶対腐ってる!!
―――――顔を真っ赤にしてエドは憤慨するが、ロイはまだ夢の中から抜け出せないらしい。
相変わらず、寝汚くうつらうつらと夢の中をさまよっている。

『・・・・・なんて寝起きの悪い奴なんだ!』
エドは、呆れながらも・・・彼の耳元に顔を近づけて再び要求する。

「腹へったんだよ!ハラ!!・・・・なんか食わせろ!!」
「耳元で騒ぐな・・・・・・やっぱり、子供――――」
「子供扱いすんなっていってんだろ!それより、飯ってば!!」

耳元でぎゃいぎゃいと騒ぐエドに、ロイは未だ覚醒しないながらも・・・・どんどん不機嫌になっていき。
『五月蝿い・・・なんて五月蝿い小動物なんだ』
むかむかとそう心の中で呟いたロイは、とうとうガバリと上半身を起こした。



「五月蝿い!!・・・・・キッチンの物、勝手に食え!」



そう怒鳴りつけると、すぐにまたベットに横になってシーツを被ってしまった。
そして、また聞こえてくる――――――寝息。
しばし唖然としたエドだったが、次にぴくぴくとこめかみの辺りに何本も青筋を浮かべた。


「おう!勝手に食わせてもらうからな、後で文句言うなよ!!」


そう怒鳴り返し、エドはプリプリと怒りながら寝室を出ていった。



******



「勝手に食えっていっても、ろくな食いモンねーじゃねぇか!」


家主の了解ももらったので、早速とばかりにキッチンを漁り出したエドだったが――――
キッチンには、ろくに食べ物がなかった。
冷蔵庫を見ても卵一つ無く・・・あるのは、酒・ミネラルウォーターなどの飲み物。


「本当にここで生活してんのか?アイツ・・・・・・」


生活感が少ない家だとは思っていたが、本当にあまり帰っていないのかもしれない。
忙しいだろうから、仕方ないことなのだろうが・・・・・なんだか寂しいなと思う。

まだ、母がいた頃の自分の家。
思いっきり遊んで夕方に帰ると、ドアを開ける前から漂う夕飯の匂い。
『ただいま!』とドアを開けると、ますます強く匂って、腹がぐぅと音を立てる。
それを聞いて母は笑い、『おかえり、手を洗っていらっしゃい』と、そう言うのだ。
今では自分もそんな生活からは程遠いが・・・・・・あれが家というものだと、漠然と思っていた。

「これじゃあ、オレ達の宿住まいとたいしてかわんねぇよな」

そう呟きながら、エドはため息と共に開け放った戸棚の扉を一つ一つ閉めていく。
閉め終わり、仕方なしに水でも飲もうともう一度冷蔵庫を開けて。
――――そして、封を開ける前のダンボールが無造作に突っ込まれているのに気がついた。


「何だ、これ?」


引っ張り出し、封を開けると――――そこには、数種類のチーズ。
もう一つの箱を開けると・・・・・・生ハムと、サラミ。
――――――どうやら、届いたばかりのつまみ類らしい。

「やった!!やっと食べ物みっけ♪」

ついでにミネラルウォーターのボトルを出して冷蔵庫の扉を閉めると、
エドは行儀悪くその場であぐらをかいて座り、早速とばかりにそれを食べ始めた。


「パンが欲しいよな・・・・・・・」


ぶつぶつと文句を言いながらも、どんどんそれは消費されていった――――



******



「・・・・・・・・・・・・・なんだ、これは?」


翌朝。
早く寝たせいか、いつもより早く目を覚ましたロイ。
喉の渇きを覚えて、水を飲もうとキッチンに入って――――目を見開いた。

「泥棒でも入ったのか・・・・・?」

冷蔵庫の前には、何やら食い散らかした跡。
唖然としたまま視線を動かすと―――――聞こえる、寝息。
ダイニングテーブルを回り込んで見ると、壁際に赤い塊。
・・・・・・・・そこには、壁に寄りかかったままエドがスース―と眠っていた。


「犯人は、コイツか・・・・・夜中に腹が減ったんだな」


そう言えば、夜中に起こされた気がする。
あまりに眠くて適当に答えて追い払ったのだが、食事を要求していたのか。
だが・・・あいにくこの家には子供が満足するような食べ物はほとんど無い。
唯一あった貰い物の乾燥パスタとソースの缶詰は、リビングに箱ごと置いたまま。
多分、めぼしい物を見つけられなくて、色々と漁りまくった結果が―――――これか。
・・・・・・それにしても?


「いったい、何を食べたんだ?」


そう思いつつもう一度食い散らかした残骸を見て―――――ロイは固まった。
・・・・・・・そこには、昨日届いたばかりのチーズと生ハムの箱が転がっていた。




お客様から拍手で『エドの食事はどうなったんですか?』ときかれまして。
妄想しつつレスをしたのですが・・・・更に、妄想が広がってしまいました(笑)
広がりすぎて小話どころではなくなったような・・・;まぁ、いつもの事ですね(苦笑)


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