「言っとくけど、これで朝のことを許したわけじゃねーからな!」


既に二つ目のプリンに手をつけながらも、エドはそう言ってロイを睨む。
だが、ロイはそんなエドに取り合うことなく、本から目を離すことも無いまま
『はいはい』と適当に相槌を打つに留めた。
・・・・・どうやら朝の彼の悔しそうな顔をみて、気が済んでしまっているらしい。

そんなロイの態度にエドは僅かに口を尖らせ、もう一度口を開きかけて・・・やめた。

いつまでも根にもって噛み付くのは、それこそ『大人気無い』し。
それに、彼も少しは大人気無かったと反省したのか・・・・・このプリンを『みやげ』だと渡された。
食べ物で懐柔されたようで面白くなかったが・・・プリンに罪はない。
一口口に含んでみると、このプリンはエドが今まで食べた中でも一・ニを争うほど美味くて。
思わず一気に平らげ、二個目に手をつけはじめてから我に返り、ロイに釘を刺したエドだった。
それを、適当にあしらわれてムッとしたものの、ふと思う。

『・・・・・不機嫌なまま食べていたら、このプリンに対して失礼だよな』

エドはプリンをじっと見つめてからため息をつくと、食べかけのプリンをテーブルに置いた。
箱の中から新しい物一個取りだし、キッチンからスプーンを持ってきて。
そして、それらを持ったままロイへと足を向けた。


「・・・・・なんだね?」


ロイは、差し出された物を見上げて、不思議そうにそう問いかけた。

「見れば分かるだろ?プリン・・・・・・・アンタの分」

ムスッとしたままそう差し出すエドに、ロイは苦笑しながら首を横に降った。

「気を使わなくてもいい。・・・それは、君に買ってきたものだ。君が全部食べなさい」
「誰がアンタなんかに気を使うか!また文句言われるとヤダからだよ・・・・・食え!」
「ははは、これに関しては文句など言うつもりも無いから、そんな心配などしなくても―――」
「うるせー!!つべこべ言わずに食べろっつーの!」

受け取るそぶりをみせないロイに痺れを切らしたように、
エドはプリンを一さじすくい上げると、強引にロイの口に押し込んだ。
押し込まれたそれを、仕方なしに飲み込むと・・・・・口の中に広がる、甘い味。
だが、それは今朝方一口食べた物より数倍美味しくて・・・ロイの口にも合うものだった。

「・・・・・・・・・うまい」

一言そう返すと、仏頂面だったエドが手の平を返したように、にっこりと笑った。


「だろ!?オレがいままで食べた中でも、これトップクラスのうまさだぜ」


アンタ今朝のは甘すぎるって言ってたけど、これなら食べられるだろ?
プリンは子供のおやつってだけじゃねーんだからな!
そう言って、ニッと笑うと・・・また先ほど座っていた椅子に戻って、食べかけのプリンを食べ始めた。
そんな彼の姿を眺めながら、ロイは心の中で呟く。



『・・・・・・もしや、一応みやげに感謝している・・・・・・のかな?』



ロイは苦笑しつつも本をテーブルに置き、エドから手渡されたプリンの残りを食べはじめる。
改めて味わって食べても、やはりそれは美味しく感じた。

スプーンで表面を叩くと、プルプルと震え。
唇に当たった感触はスベスベで弾力がある。
口に含んでみると、つるりと喉を滑り。
舌で潰すと、しっとりと絡み付く感触――――
なんだかその感触が楽しくて、ロイは次々とカップの中身を減らしていった。
食べ終わって―――――――口の中に残ったのは、甘い香り。


『おや・・・・・?』


ふと気がついて、ロイは首を傾げた。


『最近、同じような感触を味わったような・・・・・?』


どこでだったか・・・?
考え込むロイの耳に、突然入りこんできた、声。

「なぁってば!!」
「・・・!ああ、すまん考え事をしていた・・・・・なんだ?」
「腹いっぱいになったらなんだか眠くなってきたから、眠気覚ましにシャワー浴びてきてえんだけど」

先に使っていいか?
三つ編みのゴムを外しながらそう聞いてくるエドに、ロイは頷いた。

「ああ、かまわんよ」
「んじゃ、お先――――」

そう言いながら上着を脱ぎ捨てて椅子に放り、歩き出すエドの背をなんとなく見送る。
すると、ドアを出る間際、エドがうっとうしそうに左手で髪をかきあげた。
その拍子に覗いたうなじ―――――――――――――そして、未だに消えきれない、痕。

パタンとドアが閉じる音と共に、ロイは呟いた。



「ああ・・・思い出した」



思い出した感触・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・君の肌。




更におまけをつけてみました。
ロイさん、プリンはもう少し普通に食べてください。(笑)
・・・・・・・・・・・・・・つーか、今夜も泊まりですか?


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