ロイエド一年間・・・・『2月 ・・・ねぇそろそろ、いいでしょう?・3』



「つーか、オレ・・・・・・全然出番無かったんスけど」


憲兵司令部にライル達を引渡し、バタバタとした騒動が一段落ついたロイの執務室で。
一同がホッと安堵の息を漏らすのを聞きながら、ハボックはつまらなそうにそう言った。

「折角、隣りで待機してたのになー」

ライルとの対決の時、ハボックは隣の部屋で待機していた。
隣りと言っても、病室の壁に穴を開けそこをついたてで見えないように隠しただけなので、
会話も丸聞こえで状況も手に取るようにわかるようにした、すぐに飛び出せる体制での待機。
ハボックの他にも、ブレダやファルマンがセットした録音機器にスイッチを入れて待機していた。
・・・ちなみに、大佐にはエドが来た事は話していなかったから、
二人を再会させた後、ハボックはすぐにエドも隣の部屋に引っ張り込むつもりでいたのだが。

「まさか、ベットに引きずり込むとは思いませんでしたよ・・・」
「より近くに居た方が、いざという時力になってもらえるだろう?」
「あんたはエドとくっつきたかっただけでしょ?」
「何を言う。実際奴らの隙をついてやれたじゃないか?」
「そういう事にしときます・・・・・それにしてもさすが大将、だな」

何の打ち合わせも無く、あそこまで動けるなんて。
そう感心したように言うハボックに、ロイも深く頷いてみせる。

「まったくだ。本当に鋼のは頼りになるな」
「直属の部下に欲しいくらいっスよね!」
「いや!どうせなら、部下より嫁に欲しい!!」
「・・・・・・・・・・・・・何ドサクサに紛れてプロポースしてるんスか」

ハボックが呆れたような声を出した時
バンと壁を叩く音がした。
その方向に視線を動かすと、二人の軽口を今まで静かに聞いていたエドの表情が、鬼の形相になっていて。



「・・・・・・・・・・・・・・・・説明しろ」



思わず、しんと静まり返る室内。
ロイが軽く咳払いをした後、事の顛末を説明しだした。



******



ここしばらく、イーストシティでは爆発騒ぎが続いていた。

規模は、ゴミ箱が吹っ飛んだりする小規模なもの。
予告も犯行声明もないが、人が賑わう場所や時間を狙って爆発させられているから、
市民にも良く知られる事件となり、軍も本腰を入れざるを得ない状況になった。
決定的な証拠も目撃情報も無く、ただ時間と捜索のための労力を裂かれる日々。
解決しない事件に、セントラル辺りの狸達から、嫌味などもらうまでになっていた。
そんな時に、やっと爆発場所と時間に法則性のようなものが見えて、
一気に検挙しようかと大規模に兵を動かした後、嫌な予感を感じた。


『何か、罠に嵌められているようだ―――――』


警告を鳴らす第六感に・・・・・ロイは目を閉じて、思考を巡らす。

東方司令部はロイが着任してからというもの、かなり市民からの信頼があがっている。
市民に対して横暴な振る舞いをするような兵士は断罪。
何か大きな事件が起きても、綺麗に解決してみせる手腕。
―――――そして、何よりロイは女性受けがすこぶる、いい。
そんなこんなで、普通は忌み嫌われる軍部が、東方に限ってはかなり受け入れられつつあった。

だが、そんな評判にもこの事のせいで少し影が落ちる。

こんな小規模な事件も解決できないのか?との陰口もチラホラ耳にするようになっていた。
そんな風に、自分への信頼を失墜させることがこの事件の目的だとしたら?
・・・・・そうだとしたら、対象者を絞ることができる。

テロリストなら、何か声明を出すはず。
殺したいほどの怨恨なら、もっと直接私に攻撃の的を絞るだろう。
ただ私の評判を落とすだけが目的だとしたら、今の私に立場が脅かされている者。
つまり――――――――軍の関係者?

そう考えた時、ある人物の顔が浮かんだ。
ロイを貶めようと狙っている奴らは沢山いるが、最近一番それを狙っている者。
―――――――――――南方のライル准将。

去年の夏頃、南方である事件が起きた。
南方でなかなか解決できずにいるうちに、東方に飛び火したその事件。
それを東方に来た途端、ロイは鮮やかに解決して見せたのだ。
その件で、軍内でもロイの評判は上がり、ライルの評判は地に落ちる。
・・・近頃では、それ以降上層部の信頼回復をできないライルは降格されるのではと囁かれていた。
反対にロイは近々昇格との噂が。
今、自分を一番追い落としたい人物は、彼ではないか?と推察する。

だが、彼とはその事件以来接触がないし、遠まわしな嫌味なども寄越された事が無い。
考えすぎだろうか・・・・・・
そう思った時に、この事件が始まった辺りに若い兵士が何気なく言っていたことを思い出した。

『大佐、それでは今日も市内の見回りに行って参ります』
『ご苦労。・・・捜索の時には、十分気をつけるように。――――なにせ、爆弾だからな』
『はい。気をつけます――――実は昨日も従兄弟が心配をして電話をかけてくれたんですよ』
『君の従兄弟・・・も、軍人だったな?』
『はい、南方にいるんですが、小さい頃従兄弟の家に預けられていて兄弟同然に育ったので』

気にしてくれているみたいです。と、照れくさそうに笑う下士官に、ロイも苦笑してみせる。

『やれやれ、こんな小さな事件が南方まで届いているのかね?
―――――――身内とはいえ、他所に内情を話すのは感心せんぞ?』
『す、すみません!!・・・でも、そう言えば何で知っているんだろう?僕は言った覚え無いですけど。
もしや、すでに軍部内のあちこちで噂になっているのでしょうか?』

ならば、いっそう気合を入れて捜索して、早く解決しましょう!!
そう言って、彼は表情を引き締めて敬礼をして寄越した。


あの時はそれ以上追求しなかったが。
あんな早い段階で、セントラルならともかく南方の軍人が知っていたのは―――違和感がある。
ライルの漏らした事件の話を、その従兄弟が偶然聞いていたか
もしくは、その従兄弟にこちらの状況を探らせているか・・・・・だとしたら。

そう考えるにいたって、ロイはもう一度地図に視線を落とす。

『もし、それが当たりだとしたら・・・・・・』

兵を向かわせたのはここだが・・・ここを爆発させた所で、私に与えるダメージは少ない。
もし、今まで小さいものばかりで油断させておいて、一気に大きなものを仕掛けるつもりでいたら?
爆破されれば被害が大きくなり、私に向けての非難が大きくなる場所。
病院・学校・公共施設・・・・・・対象物は沢山あるが―――――

ロイは、地図をじっと見詰めて考え込む。

誘導されるように、決まった次の警戒先。
裏をかくなら、簡単に兵を戻せないくらい離れている方がいい。
兵を向かわせた方と反対側へ指をなぞらせると―――――そこにあったもの。
そこは、ある実業家の別荘地。
しかも、家主はここしばらく東方に滞在していて、今日は昼から著名人を呼んでの華やかなパーティを開くという。
軍に知り合いも多いその実業家のパーティには、軍関係者も多く呼ばれている。
ロイも実は呼ばれていたのだが、事件の警戒にあたる為に辞退していた。
―――――――もし、そこを狙われたとしたら。


一般市民からも、軍部からも、私は非難を受けることになる。


「なにか・・・・・・・・気に入らないな」
「は?」
「私も出よう。残っている者を何人か連れて行く―――集めてくれ」

そして、ロイは自分の予感を確かめる為に立ち上がった。



******



「そんな訳で、結局予感が当たってな。屋敷から爆発物が見つかった」

解体している暇が無かったので時間通りに爆発は起きたが、人は全員無事に保護した。
仕掛けた爆弾が時間通り爆発したことで、思惑通りに事が進んだと敵は思うだろうが
そこを逆手にとれば、逆転の罠を仕掛けることができる。
パーティに呼ばれた者達に緘口令を敷き、
屋敷の主人には、私は偶然パーティに参加していて巻き込まれたことに口裏を合わせてもらった。
そして、側近以外の部下達にも嘘の情報を流して、姿を隠す。
丁度いい具合に、またあの下士官の従兄弟から電話があって、首尾よく南方にも私の怪我が伝わった。


「そうしたら、案の定食らいついてきてね」


のこのこと私の安否を確認する為にライルが出てきて――――後は知ってのとおりだ。
そうロイは話を締めくくって、エドの反応を見た。

「・・・・・・・なるほど。それで、ついでにオレまで騙された・・・・・と」
「いや、その。――――結果的には騙してしまったかもしれないが、騙そうと思った訳では」

低い声で呟くエドに、ロイは顔を引きつらせたが。
でも、そのまま黙り込んで俯いたエドを見て、困ったように顔を曇らせた。
しばしの沈黙の後、彼は立ち上がって進み、壁際に背中を預けて佇んでいるエドの前に立った。


「君は怒るかもしれないが――――こんなきっかけだとしても、私は君と会えて嬉しいよ」
「・・・・・・・」
「君が私の元を去った後―――――――いろいろと、一人で考えた。
君の心を苦しめているのが私自身だとしたら、あのまま離してやるべきかとも思ったが・・・」


――――――――――――それは、出来そうもなかった。


酷い男かもしれないが、君を苦しめてしまうかもしれなくても、どうしても君を諦める気にはなれなくて。
とにかく、もう一度会って・・・君と話したかった。
だから、この事件が片付いたら、君を探しに行くつもりだった――――――
そう静かに言うロイの言葉を聞き終えて、エドは壁から背を離し、ロイを見つめた。


「――――――――もう一度聞くけど、本当に何処も怪我してないんだな?」
「ああ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悔しい」


は?


その科白を聞いて、一同固まる。
完全に騙されてしまったのが、悔しいのか?
・・・まさか、怪我してないのが悔しい・・・ってことは、ないだろうけど。(大汗)

キッと睨みつけてくる金色の瞳を見て、ロイは冷や汗を垂らし、
外野は『一暴れするのか!?』と、逃げの体制に入る。
だがその反応とは裏腹に、睨みつけたエドの表情は―――――次に、クシャリと歪んだ。




「・・・悔しい。オレ、やっぱりアンタのこと―――――――――――好き・・・みたい」
「!!」




驚きに目を見開くロイの顔を見つめなら
みるみる金の瞳に、涙がたまって。


「無事で、よかっ・・・・・・」


最後まで言えずに、エドは両手で顔を覆って、肩を震わせた。
呆然とエドの告白を聞いていたロイは、そこでやっと我に返って。
そして、腕を伸ばす――――――


「・・・・・・・心配かけて、すまなかった」


掻き抱いて
金糸に頬を寄せる


「私も、君が好きだよ」


腕の中でしゃくりをあげる彼女を愛しげに抱きしめて、
ロイは耳元で、そう囁いたのだった――――――



******



「これって、まさに『雨降って地、固まる』ってやつっスかね?」
「そうね」
「うん、そうですね」

二人を残して全員が退室して。
廊下を歩きながら、ハボックはリザとアルにそう話し掛けた。
二人は厄介な問題が一挙解決となったせいか、とても晴れやかな顔でそれに頷いた。

「こりゃ、あながち大佐の『嫁発言』も夢じゃなくなってきたな」

ここは一つ、大佐の奢りで祝杯あげないとな。
――――そうニヤつくハボックに、他の二人も賛同する。

「ですねv・・・兄さんのウエディングドレス姿って、きっと綺麗だろうな〜!」
「アル君!その時は、ぜひ私に介添えをやらせてくれないかしら?ドレスも一緒に選びたいわv」
「なぁ・・・・・ちょっと質問なんだけどよ」

ワイワイと話をする三人の後ろから、別な声が会話に混じる。
思わず足を止めて三人が振り返ると、そこには微妙な顔をしたブレダ・ファルマン・ヒュリーがいた。

「これは、予測ですが・・・」
「もしかして、エドワード君って・・・」
「――――――――――実は、女だったり・・・・・・する?」

三人の呟きに、もう一組の三人は顔を見合わせて。
そして・・・・・・ふきだして、笑った。


「なに、お前ら?今ごろ気がついたのか?」


鈍いねぇ。
意地悪く口の端を持ち上げてみせるハボックに、ブレダが蹴りを入れて。
そしてひとしきり皆で笑った後、そこに居る全員に穏やかな笑みが浮かんだ。

事件も解決。
厄介事も解決。


―――――――おまけに、外を見ると。しばらくぶりの眩しいほどの晴天だった―――――――――



******



「愛してる」


その頃、執務室では―――――
幾度も囁かれる愛の言葉に、エドはようやくロイの胸に埋めていた顔を上げる。
先ほどまでは、顔色をなくして白くなっていた、涙に濡れた頬。
だが、今はその頬がほわりとピンクに染まっている。


「・・・・・・・オレも、好き」


やっと返ってきた可愛らしい答えに、ロイは頬を緩め――――
そして、見詰め合った二人の影は、ほどなく重なり一つになったのだった。



『2月 ・・・ねぇそろそろ、いいでしょう?・3』




連載当初から、『思いが通じ合う時の科白は、コレ!』と決めていました!
が、この科白に持っていくまで苦労しました・・・無事に言わせられて良かった・・・(ホロリ)
なんか、ほんとにロイが良い所取りですが、うちのロイはよくヘタレてるので、たまにはね。(笑)
事件の詳細は書かないつもりだった筈なんですけど、話的に書かないわけにも行かなくなって、結局入れました。
ほんと、説明くさい文章が長々続いて、読みづらくて申し訳ない(>_<)
事件内容も突付けばどんどんとボロが出るような内容ですが・・・・・・(大汗)
――――細かい突っ込みはご容赦いただき、サラッと流していただければ幸いです(涙)
コレで2月は終わり!!後、ラストひと月!頑張りますv



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