「ん・・・・・?」


行き付けの店で酒を軽く飲み食事をすませ、ロイは帰宅するべく夜道を歩いていた。
近道をしようと裏路地に差し掛かった時、聞こえたのは小さな悲鳴。
声のほうに足を向けると、一角曲がったところに数人の男の影。
そして、その中央に小柄な金髪が見えた。
腕を掴まれ身をよじる金髪の下で、ふわりと翻ったのはスカート。
ロイは顔をしかめ、すぐさま足を踏み出したのだが・・・そのとき聞こえた声に、目が点になった。




『見知らぬ、君』・・・1




「てめぇ・・・きたねぇ手で触んな!!」


その叫びと共にスカートがひらりと翻ったかと思うと、バキッと鈍い音。
金髪を取り囲んでいた男たちの中の一人が、派手に吹っ飛ぶ。

「なっ!?このアマぁ!!」
「・・・っつ、なにすんだっ!離せよっ!!」

残りの男達が激昂して叫んで彼女の腕を後ろに捻り上げた時に、今度こそロイは足を踏み出した。

「そのぐらいにしておけ」
「な・・・なんだてめぇ?」

突然背後から響いた声に、男たちはぎょっと振りかえる。
だが、相手が一人なのを確認して、口元に下卑た笑いを浮かべた。

「なんだ、ヒーロー気取りか?兄ちゃん、怪我する前に俺達の目の前から・・・」

消えな。
そう言い終える前に喋っていた男が吹っ飛ぶ。
あっけに取られている残りのもう一人をべり、と女から引き剥がし
ドンと胸を押すと、よろけて男は無様に尻餅をついた。

「てめぇ・・・よくも!」

尻餅をついた男が激昂して叫びながら立ちあがり、
吹っ飛ばされていた他の男達も、唇が切れて流れ出た血を手の甲で拭いながら、再び立ち上がってくる。
それらから女を庇うように自分の背後に移動させてから、ロイは手袋をとりだした。
目の前に掲げて指を擦ると、『あちぃ!』と一人の男から悲鳴が上がる。長髪の毛先が一瞬燃え上がったのだ。
慌ててもみ消し、男達は眼前に立つ男を見ると・・・彼の手にまとわりつく稲光のような青い光。
おもわず息を呑んだ男達に、ロイは不敵に口の端を上げて見せた。


「そろそろ引いた方が身の為だと思うが?」


その言葉に顔を見合わせた三人は、捨て台詞を吐きつつ逃げていく。
男達の姿が完全に見えなくなってから、ロイは背後の女に振向いた。

「大丈夫か?」
「え、あ・・・・・うん」

どこか呆然としていた女・・・いや、少女と言った方が正しい年恰好のその人物は、
ロイの問いかけにのろのろと顔を上げ、彼を見上げる。
だが、その髪は乱れて顔を覆い隠していて・・・夜の闇も手伝って、彼女の顔を確認する事は出来ない。
少女もそんな自分の状態を思い出したようで、手櫛で乱れた髪を直し始めた。
そうして、現れた顔を見て・・・・・・・・・・ロイは酷く狼狽したような顔をした。

「声を聞いて・・・もしやとは思っていたんだが。・・・驚いたな」

ロイは本当に驚いたような顔でそう呟くように言った後、少女を見つめて、ニヤリと笑って見せた。


「しかしな・・・君にそんな趣味があるとは知らなかったよ?――――鋼の」


いつも石探しに飛びまわってる君に趣味があったというのにも驚きだが、
その趣味が、事もあろうか・・・女装とは。
まぁ、私は人の趣味をとやかく言うつもりはないがね・・・・・君、似合っているし?
ああ、もちろんお世辞じゃないとも?デートに誘いたくなるほどの可愛らしさだよ、君。
・・・・・ところで、あんな小者にてこずるとは、体の調子でも悪いのかね?

そう続けざまに喋り、激昂して身震いしている様を想像しながら視線を送る。
・・・・・・が、そこにいる少女の姿をしている彼は、只困惑したような瞳でこちらを見つめている。
さすがに訝しく思い、ロイは彼に呼びかけた。



「・・・・・・・・・鋼の?」
「・・・・・はがねの?何の事?・・・あなた、誰?」



少女の口から発せられた言葉に、ロイは目を見開いた―――――



                           



エド子の新しい物語始動です!
ロイエド一年間を中ごろまで書いた時に思いついて・・・書きたくて仕方が無くなった話。
その頃はとてもそんな余裕が無かったので諦めてしまっていました。
長い連載が終わり、やっと書ける状況にはなったのですが・・・・・
ネタをちゃんと紙に書くわけでもなく、只頭の中にだけあった話なので・・・だいぶ忘れてしまいました;
ああ、書いとけばよかった!!(涙)色々細かいとこも妄想してた気がするのに!
思いついた時の勢いではとても書けそうも無いので、またまったりゆっくり更新していきたいと思います。
『一ヶ月一回でも更新されていればいいほうだね〜?』って感じに、気長に構えてお付き合いください(苦笑)



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