チンピラに絡まれていた少女―――――

助けに入ってみれば、それは良く見知った顔で。
彼にしてみれば有り得ない格好だったので、ここぞとばかりにからかってみたのだが、無反応。
不審に思って視線を向けると・・・


―――――見知った顔が、見知らぬ顔を見るような目でこちらを見ていた。




『見知らぬ、君』・・・2




「・・・誰って・・・・・ジョークのつもりか、鋼の?」


眉を寄せるロイに、少女はますます困惑顔。

「だから・・・鋼のって、誰だよ」
「鋼のは君だろう?―――鋼の錬金術師、エドワード・エルリック?」
「エドワード・・・?」


ピキッ。
今まで只困惑顔だった少女は、その一言に―――――キレた。



「だぁれが、男にしか見えない男女だ!おっさん!!」



食って掛かる少女の剣幕に押されながらも、ロイは思う。
『キレ方も同じじゃないか・・・これで別人だなんて、嘘だ』
・・・大方、女装しているのを見られて、引くに引けなくなったのだろう。
恥ずかしいから、別人に成りすましてやり過ごそうなどという、そんな魂胆に違いない。


『――――まったく、だから君はガキだと言うんだ』


君にそんな趣味があるなどと本気で思っている訳無いだろう?
何の事情があるのか知らんが、素直に訳を話せば良いものを。
まぁ、言いたくないなら、無理には聞くまい。・・・後でアルフォンス辺りに聞けばいいし。
もう少しからかってみたい気もするが・・・また往信不通になっても困るしな。
――――――そろそろ、退くか。

ロイは苦笑して―――ここは騙された振りで立ち去ろうと、大人の分別を見せ口を開く。

「わかったわかった。君はどこをどう見ても立派なレディだよ」
「てめぇ・・・・・まだぜんっぜん、信じてねぇだろ!!」
「信じているとも。また襲われるといけないから、とっとと帰りたまぇ?―――じゃあな、鋼の」

大人の分別はいったいどこにいったのか?
・・・やっぱり最後はからかって、ロイはくるりと少女に背を向け歩き出す。
だが、そんなロイの背中に、また怒りの声がぶつけられた。


「むっかつく―!!そんなに言うなら証拠見せてやろうじゃん!!」
「え?」


その言葉に思わず振向くと――――
少女は怒りのオーラを全身から吹き出しつつ、自分のブラウスのボタンに手をかけていた。
思わず唖然とするロイの前で、ボタンは次々に外されていき―――
四つ外した所で、彼女はブラウスの胸元を実に思いっきり良く肌蹴て見せた。


「これでも男だっていうのか!!」


こちらを睨みつけて言い放つ少女を見つめながら、ロイは呆然と言葉を返せないでいた。
ブラウスに下には・・・少女が身につけるに相応しい、レースがついた可愛い白のブラジャー。
そしてそれに包まれた―――――小さな、ふくらみが見えた。

「なんとかいいやがれ!・・・って、お・・・おいっ」

未だ怒り収まらぬ感じでそう言い放った少女だが、突然ぎょっとしたようにうろたえ出した。
・・・男が厳しい顔をして、急に近づいてきたからだ。
慌てて胸のブラウスをかきあわせようとするが、急に延びてきた男の両腕に両手首を捕らえられる。


「な・・・なに・・・・・?」


少女の問いかけに答えることなく―――
ロイは両の手首を拘束した状態で、厳しい顔のまま彼女の胸を凝視していた。
次に、ハッと気がついたように右手首の拘束を解いてブラウスに手をかけ、彼女の右肩をあらわにする。
・・・・・彼女の肩には、傷一つ無く――――その先にはしなやかな生身の右腕がついていた。



――――彼じゃ、ない?



愕然とそれを凝視していたロイだったが、ふと・・・自分の腕に伝わる細かな振動に気がついた。
ハッと意識を戻すと、少女の体が小刻みに震えている。
慌ててその顔をみると―――少女がこちらを怯えきった瞳で見つめていた。


「すまない!!つい・・・」


ロイは慌てて少女の腕を放した。
ブラウスを元に元の位置に戻してやり・・・そして、真摯に頭を深く下げる。

「本当にすまなかった・・・・・・・」
「うしろ・・・・」
「え?」
「後ろ・・・向いてて・・・・・」
「あ、ああ!」

ロイが後を向くと、衣擦れの音。


「もう、いいよ」


振向くと、ボタンをちゃんと留め、身なりを整えた彼女がいた。
ロイは、もう一度深く頭を下げる。

「本当に申し訳ない。あまりに彼に似ているので、勘違いしてしまった」
「・・・・・」
「もし気が済まなければ、訴えてくれてもかまわない。―――すまなかった」
「・・・・・・もう、いいよ。別に」

その言葉に顔をあげると、少女はバツが悪そうな顔でこちらを見ていた。

「・・・オレの方こそ、カッときてバカな事しちゃって・・・・・短気だってわかってるんだけど」
「いや、悪いのは私だ。君が謝る必要は無い」
「ううん・・・よく注意されるんだ、オレ。・・・あ、私か。言葉使いとかも・・・男に間違われてもしかたねぇよな」

先ほどの勢いはどこへいったやら。
落ち込んだようにしゅんとして俯く姿は――――どこをどうみても『可愛い女の子』で。
ロイは状況も忘れ、思わず微笑んだ。

「・・・そんなことはないよ」
「えっ?」
「確かに言葉使いは荒いがね。私が君を男性だと思ったのは、知り合いの少年に容姿が酷似していたからだ。
・・・そうでなければ、君みたいな可愛い少女を男性と間違えたりはしないよ」

別にお世辞でも、罪を逃れようとして持ち上げた訳でもなく、思った通りの事を口に出しただけ。
だが・・・・・少女はきょとんとして、次にクスクスと可笑しそうに笑い出した。

「あんた・・・・・・タラシだろ?」
「・・・・・違うよ」
「ホント?」
「違うが・・・・・・・・よく、そんな誤解は受ける、かな」

彼も、人の顔を見てはよくそう言っていた。
・・・正直、特に積極的に女性を誑しこんで歩いてなどいない。
第一、そんな時間の余裕などあるわけが無い・・・噂が一人歩きしているだけだろう。
―――ただ、野心を隠す『隠れ蓑』になるので、特に否定しないで放って置いてあるのが現状。
だが・・・・・やはり少女も信じてはくれないようだった。

「はいはい、んじゃそう言う事にしてやるよ!・・・お世辞に免じて、男と間違ったのは許してやるよ」
「お世辞でもなんでもないのに・・・・・では、もう一つの方のお詫びは何をすればいいかな?」
「は?あー・・だから、む、胸見たことはオレにも問題あったからいいって。助けてもらった借りもあるし」

それに、見て得するほどのナイスバディってわけじゃねーし。
拗ね気味な口調に苦笑する―――どうやら、胸の大きさにコンプレックスがあるようだ。
そんなとこまで彼と重なるな・・・そう思いながら、それこそタラシ宜しくウインクして見せた。

「いや、良いもの見せてもらったと思ってるがね?」
「ウソつけ!」
「やれやれ、君も疑い深いな・・・そうじゃなくて私が詫びたいといっているのは、乱暴してしまったことに対してだよ」

震えていた少女を思い出し、ロイは顔を曇らせた。
『怖い思いをさせて、悪かったね。』
そうもう一度謝ると、少女は少し考える仕草をして。

そして、少女の大きな金の瞳がこちらを見つめた。



「ならさ・・・・・・オレの恋人になってよ?」



ニッ――――と。
彼でない彼女は――――――まるで彼のように意地悪く笑った。



                           



2話目、いかがだったでしょうか?
出来れば、ミステリアスにロイを翻弄していければ・・・・・いいんだけどな(汗)
・・・・・そう言えば、キレて胸見せってロイエド一年間でもやったっけ。違いは、下着と胸の大きさ(笑)



back     next    花部屋へ