チンピラに絡まれていた少女を助けたロイ。
だが、色々と誤解があって彼女を怯えさせてしまった。
誤解が解けた後『どう詫びをすればいいか?』とお伺いを立てたロイに、
彼女が返した答えは、思いも寄らぬものだった。




『見知らぬ、君』・・・3




「は・・・・・?」
「だーかーらー、『恋人になって』って言ったの!」


あっけに取られて・・・少々間ヌケ顔になってしまった。

「・・・・・何故?」

呆然と少女に問いかける。
自分で言うのもなんだが・・・自分は女性にウケが良い方だ。
『恋人になりたい』とのお誘いを頂いたのも、一度や二度ではない。
だから、これが他の人物でこんな出会いでなかったら、こんな誘いも納得できる所だが・・・
今はどうにも納得できなかった。
何故なら、自分と彼女は先ほど出会ったばかりでお互いのことを何も知らないばかりか、
失礼を働いて先ほど盛大に怒らせたばかりなのだから。


「なんだよー。オレじゃ不満なの?アンタ・・・さっきオレの事可愛いって言ったじゃん?」


嘘だったのかー?
あ、それともやっぱり社交辞令だったのかよ!?
ムッと口を尖らせる少女に、ロイは慌てて弁明した。

「いや、君を可愛いと言ったのは嘘じゃない!だが・・・私は今、君を怒らせたばかりだろう?」
「んー?だって、もう怒ってないし?」
「・・・・・君は、私のことを何一つ知らないだろう?」
「知ってるよ?」

そうニヤリと笑った顔が、彼にそっくりで・・・ロイは、また混乱しそうになった。
『鋼の』と、またそう呼びそうになって、慌てて口を閉じる。

「君と――――いつか、会っただろうか?」
「いや、初めて。だけど、いま少し話をしてみて、いろんな事が分かった」
「分かった?」
「ああ、まず・・・チンピラから助けてくれた所を見ると、見かけに寄らず正義感があって、腕もたつ。体術も歩き方も訓練されたような綺麗な動きだったし・・・軍人か憲兵ってとこ?しかもなんだか口調がね、命令しなれてる。・・・年の割りに地位が高いだろ、アンタ」

少女は一息にそう言うと、悪戯っぽくクルリと瞳を動かした。

「当たった?」
「驚いたな・・・」

ため息と共にそう言うと、彼女は気をよくした様で少し近づき、得意げに下からロイの顔をのぞきこむように見上げてきた。

「まだあるぞー。アンタ、『タラシじゃない』って言ったけど、嘘。絶対タラシ!」
「・・・それは、はずれだ」
「はずれじゃないよ。だって・・・・・オレ、アンタにたらしこまれたもん」
「は?」

再び間抜けな声を出してしまった。
それに可笑しそうに笑い、少女は再び口を開いた。


「良く見てみればアンタ結構、男前―――オレ好みの顔だよ」


ねぇ、恋人になってよ?
少女はねだるようにそう言った。
彼女のペースに載せられて呆然としていたロイだったが、そこで我に返り眉を寄せた。

「嬉しいお誘いだが・・・君を恋人にすると、私は法で裁かれそうなんだがね?」

そう答えると、彼女はあからさまに怒気を顔に滲ませた。

「アンタ・・・オレを何歳だと思ってるわけ?」
「・・・・・13?」
「殴るぞ?」
「14・・・・・つっ!」

今度は、殴られた。


「オレはもう16になったの!結婚だって出来る大人なんだからなっ」


そう叫ぶ少女に、ロイは三度目の間抜け顔を晒してしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16?」
「なんだよ、その間はっ!!腹たつー!!やっぱり、アンタお詫びにオレと付き合え、決定だ!!」
「・・・普通は、腹を立てたなら撤回しないか?」

いつの間にやら恋人に決定されて、ロイは唖然としながらも、何所か呆れ口調でそう返した。
すると・・・少女は、打って変わってどこかしゅんと俯いた。
その変わりように、ロイは訝しげに顔を覗きこむ。

「どうした?」
「・・・そんなに嫌?オレじゃ、駄目?」

小さく呟く少女に、ロイは困ったように眉を下げた。

「嫌とかではなくてだね・・・・・」
「一週間だけで良いんだ」
「一週間??」
「オレ、一週間だけオレの恋人になってくれる人探してたんだよ・・・」

ドラマチックな出会いだったし、アンタ結構オレ好みだから良いかと思ったのに。
そう言って彼女は肩を落とした。


「嫌ならいいや。仕方ない・・・・・他を探しに行くよ」


んじゃな!助けてくれて、ありがと。
落ち込んだ様子からまた一転。
サバサバとした口調で少女はそう言うと、踵を返して走り去ろうとした――――
が、急に何かに手首を押えられ、立ち止まる。



少女が不思議そうに見上げてくる。
――――ロイは、無意識に彼女の手首を掴んで引きとめていた。



「・・・分かった。付き合おう」
「いいの?」
「ああ」
「―――アンタ、やっぱり見かけによらず正義感なんだね?」

意味深に少女はクスリと笑うと、自分の左手首に握っている男の手に、右手を重ねた。

「んじゃ、これからよろしくな!オレのことエディって呼んで?」
「・・・・・エディ?」

思わず、眉を寄せる。
だが、少女は気にした風もなく、続けて問い掛けた。

「アンタの名は?」
「・・・・・・ロイだ」
「ロイね。・・・オレ今日はもう帰らなきゃなんだ。明日、この時間にここで待ってるから」
「ここは駄目だ。―――この路地を抜けると大通りに出る。すぐ右手にカフェがあるから、そこで待っていなさい」

こんな薄暗い路地に一人で待っていてさっきみたいな目にあったらどうするのか。夜なら尚更だ―――
顔を顰めてそう返すと、また少女は可笑しそうにクスクス笑った。

「りょーかい!・・・んじゃ、また明日ね」

少女はロイの手をやんわり外して、悪戯っぽく敬礼をして。
そして、今度こそ走り出した。

「待ちたまえ!送っていくから!!」

慌てて後ろ姿にそう叫ぶが


「いらない〜!大丈夫〜〜〜〜〜〜!!」


そう答えが返ってきて――――――少女の姿は見えなくなった。



******



「なんのつもりなのだ・・・・・」


少女の走り去った先を見つめながら、ロイは呟く。
正直、訳が分からない。


「恋人か・・・・・私としても最年少記録更新だな」


あんな幼い少女と付き合った事などない。
もちろんロリコンではないし、普通なら断るところだ。
だが、自分は彼女との交際を了承した。
それを了承した訳は、ただの『詫び』の為でも、
彼女が勘ぐっていたような『正義感で青少年を保護するため』だけでもなかった。

あんなにそっくりなのに、彼じゃないのにも納得が行かないし。
行きずりの自分を恋人にしようとしているのも、解せない。
謎を解くには―――――再び彼女に会うしかない。



なにより、突然出会った少女に――――――ロイは、酷く興味をそそられていた。



『偶然か・・・・・・・・・・必然か?』


少女が走り去った方向をもう一度見つめてから、ロイもまた歩き出した。



                           



うう、デートまで進まなかった・・・
次こそ、デート!!
んで、ロイを誘ったエディの意図とか書きたいです!



back     next    花部屋へ