大総統府を出て、いつもは車で過ぎ去るだけの道を二人で歩く。


「あ・・・・・しまった」
「どうした?」
「アルにアンタに何を食べさせればいいか、聞くの忘れた!」
「何を・・・って、別にいつもの・・・・・」
「やっぱり、ドッグフードかな!?」
「エディ・・・・・・・」

本当に私が悪かったから、これ以上苛めないでくれ・・・そう言いながらロイは顔をあげる。
だが、当然『意地悪な顔でこっちを見下ろしている』だろうという想像とは異なり、
ロイが見たのは真剣に悩むエドの横顔だった。

「ドライフードと缶詰・・・どっちが体にいいんだろう・・・・・?」

嬉しいような、悲しいような。
愛を感じるような・・・・・・愛の方向をちょっと修正して欲しいような(涙)
微妙な科白に項を垂れる、黒犬だった。




 拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・14 




『私としては・・・牛肉が食べたい』そうロイに言われて、エドは商店街に足を向けた。


「そういえば、シャンプーがきれていたぞ?」
「え、アルがくれただろ?」
「違う。私のじゃなくて君のだ・・・この前家に帰ったとき、もうほとんどなかっただろう?」
「あー・・・そうだった。じゃ、そこの雑貨屋で買ってくか」

肉屋の前に、先ずは雑貨店という事になって、丁度近くにあった小さな店に二人で入る。
他に客はいなかったが、念の為ぼそぼそと小声でやり取りしつつ、品選び。

「あ、これでいいや。リンスイン!楽だし、丁度特売♪」
「だめだ、そんなもの!!ちゃんとシャンプーとリンスが別になっているものにしたまえ。
・・・・・あと、トリートメントも買いなさい」
「却下。めんどくせぇ」
「いつものように私が洗ってあげるから!リンスインなど、君の美しい髪が痛んでしまう!!」
「その手でどうやって洗うんだよ?」

呆れたように聞かれて、ロイはぐっと言葉に詰まる。


「エディ・・・私は今猛烈にこの犬の我が身を呪っている!!」
「はいはい。なら、とっとと元に戻ってくれ。すいませ〜ん、これ下さい!」


打ちひしがれる犬をあしらいつつ、エドはリンスインシャンプーを会計に持っていった。



******



雑貨店を出て――――
ショックから抜け出せずトボトボ歩く犬を従えつつ、エドは思い出したように呟く。


「そういえば、肉だけじゃなくて・・・他にも色々買わなきゃ食べるものがねぇな」


ロイが犬になる前からしばらく仕事がたて込んでいて、ほとんど家にかえれなかったのである。
当然冷蔵庫の食材は全滅だろう。

「なぁロイ。八百屋も寄っていこうぜ」
「・・・・・・・わかった」
「あのなぁ・・・・・・・・・たかがシャンプーぐらいで落ち込むなよ」

自分の髪でもあるまいし?
―――そう呆れるエドに、ロイは猛抗議。

「自分の髪ならこんなに落ち込まん!!君の、君の髪は私にとっては特別な・・・・・」
「あー・・・わかったわかった。これからは(アンタが見てるときは)別のシャンプーにするから」

ロイを宥めつつ・・・エドはふと聞こえてきた音楽に気がついて、通りを眺めた。


「・・・何の音楽だ?」
「公園からのようだな」


ロイも気づき―――――二人は顔を見合わせてから、そろって公園に足を向けた。



その公園は、セントラルでもかなり大きな公園。
子供達が遊ぶだけでなく・・・ジョギングする人や、犬を散歩させる人など、いろんな人達が足を運ぶ。
人が集まるので、アイスクリームの屋台やホットドックの屋台などの出店まで出ていて、
ちょっとした祭り広場のような賑わいがあった。
そんな中を、音楽を頼りに進むと―――公園の中心部に人だかりが出来ているのを見つけた。
その輪の中に入ってみると、大道芸人が芸を披露しているのがみえた。

アコーディオンを弾く男の傍らで、沢山の色とりどりのボールをジャグリングする男。
子供や大人、男に女。・・・・・いろんな人々がそれを興味深げに見つめている。
二人はその人々に混じって、しばしそれに見入った。
芸がフィナーレを迎えて、空き缶にコインを投げ入れ・・・・・
人の輪から離れてから、エドは興奮したようにロイに振向いた。

「すごかったな!あんなに何個もさ!!」
「ああ、そうだな」
「旅している時もたまに見かけたけどさ・・・なんか余裕なくてじっくり見れなかったんだよな」

まともに最後まで見たのって初めてかも。
そう言ってエドは、少年の頃のような笑顔を見せた。

「あーなんか興奮したら喉乾いた」
「あそこにアイスクリームの屋台があるぞ?」
「あっ、ホントだ!!オレ、買って来る!・・・何にする、ロイ?」

そう聞くエドに、『何でも』と答えると、エドは早速とばかりに走って行った。



エドはイチゴのを、ロイは差し出されたバニラを舐めながら・・・
二人並んで、遠くで遊んでいる子供達の姿をなんとはなしに眺めた。


「なんかさ・・・・・・・・・・こんなの、初めてだよな」
「ん?」
「アンタと公園でアイス舐めてるなんてさ・・・・・」


アンタが人間の姿だったら、絶対に無理だよなー。
エドは可笑しそうに笑いながら、イチゴのアイスをもうひと舐め。
なんたって天下の大総統閣下である。
アイスどころか・・・護衛なしでこんなところをフラフラ歩くなんて不可能だ。

「そうだな。・・・・・二人でシャンプーを選んだのだってはじめてかもな?」
「そういやそうだ」

二人は顔を見合わせて、ひとしきり笑って。
そして、また子供達の姿を眺める。



「今だけは・・・・・・・・犬の姿もいいかなって・・・そう思った」



子供達に視線を向けたままそう呟くエドを――――ロイは目を細めて、見つめたのだった。





初公園デート!!(犬だけどね・・・)
公約シリーズのロイエドは、旅が終わったのと同時期にロイが大総統になっちゃったため、
ゆっくり公園デートした事なんてないんじゃないかと?
・・・・・ああ、なんかまたアンジェやりたくなってきた(笑)


back     next    MEMO帳へ