小鳥の鳴き声に、犬はピクリと耳を動かした。
瞳を開けると、そこは寝室のベット。
そして隣には、輝く金色――――
未だすうすうと寝息をたてている恋人に、キスする代わりに彼の唇をぺロリと舐めた。
「ん・・・・・」
身じろぐ恋人に悪戯心が湧いて、頬・顎・鼻・・・と、次々に舐めていく。
「ちょ、・・・くすぐったい・・・」
恋人はくすぐったがりやなのだ。
・・・・・特に首筋が、弱い。
にやりと笑った黒犬は、彼の首筋顔を埋めた。
「う、ううん?・・あ、や・・・もう、やめ・・・・・っ」
耐えきれずガバリと起き上がったエドに、犬は小首を傾げる様にして微笑んだ。
「おはよう、エディ」
最後に、パジャマから覗いた胸元を一舐め。
ふるりと震える可愛い姿に、「良い夢みれたかね?」と満足そうに問いかける。
だが―――――
「・・・・・夢見も寝覚めも最悪だっ!このアホエロ犬〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
人間でも犬でも、朝は変わらぬ鉄拳をおみまいされる、ロイだった。
拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・16 
しばらくぶりに二人抱き合って眠り、目覚めた朝。
都合の良い奇跡は起こらず・・・やはりロイは犬のままだった。
―――朝食を食べながら、エドはため息を漏らした。
「やっぱ、今日も犬なんだな・・・・・」
「そんな都合よくいくわけないだろう?」
「・・・てめぇ、なに人事みたいな言い方してやがんだ」
向いのテーブルでゆで卵と悪戦苦闘している犬を、エドはじろりと睨みつけた。
だが、すぐに気の抜けた様に天井を仰ぐと、ゆで卵を半分に割って、ロイの口に入れてやった。
「昨日はゆっくりアンタと話して、解決の糸口を見つけるつもりだったのになぁ」
そうぼやくエドに、ロイは口の中の卵を飲み込んでから、苦笑して見せた。
「お互い疲れていたから・・・すぐに寝入ってしまったからね」
「だよなぁ。アルが頑張ってるってのに・・・」
一人頑張っているだろう弟を思い出すと、なんだか申し訳ない。
「ああ、彼には本当に迷惑をかけるな・・・どうだろう、研究は進んだかい?」
「まぁ、いろんなパターンは考えてるんだけどな。決定打が足りないんだ。
不完全な練成をする訳には絶対にいかないし」
「そうだね・・・」
「やっぱりアンタが作ったあの構築式を完全に再現して、
それを反対に作用するよう組み直すのが一番良いとは思うんだけど・・・な」
でも、後から偶然に書きこまれたものがわからないのでは、どうしようもない。
はぁ・・・とため息をついた時、昨日弟と交わした会話を思い出して、エドはガバリと顔を上げた。
「あ、そういや昨日アルと話してたんだけど」
「ん?」
「こんな非常識な練成、本来なら有り得ないだろう?」
「まぁ、そうだな・・・・・」
私も冗談のつもりだったんだけどね・・・
―――ロイも、はぁ・・・とため息をつく。
どうやら、本当に本気で犬になるつもりはなかったようだ。
「くだらねぇ冗談考えやがって・・・ま、それはおいといて。
アルが、アンタの強い想いが作用したんじゃないかって言ってたんだけど」
「想い?」
「ああ。理論で解明できなかったりするものには、なんつーか、人の強い想いとか・・・
そんな目に見えないものが作用してたりするっていうだろ?
俺は科学者だから、それはちょっと理解できないけどさ。この際、藁にもすがりたいんだ。
――――なんか、心当たりない?」
「強い想い・・・・・・か、ふむ」
考え始めたロイに、エドはふと考え付いたように聞いた。
「なぁ・・・そもそもさ、アンタ、何で犬になろうと思ったんだ?」
「前も言っただろう?犬になろうと思ったんじゃなくて、犬の言葉がわかればなぁと・・・」
拗ねたようにそう答えるロイに、エドはそうじゃなくて・・・と、前置きして。
「それはわかってるけど・・・犬の言葉がわかるようになって、犬に何を聞きたかったんだ?」
「それは―――、あ!!」
ロイははじかれたように耳をピンと立て、次に突然立ちあがり、窓に向った。
そして、開けてあったダイニングの窓を飛び越えて庭に下りたと思うと、猛然と走り出す。
エドも驚いて立ちあがり、窓枠に手をかけてひらりと飛び越えると、犬の後を追いながら叫んだ。
「お、おい!!どうしたんだ!?どこに行くんだよ!!」
「大総統府だ!私は先に行く!」
「なっ、護衛もつけずにひとりでっ・・・!なんなんだよっ!?」
「思いついたんだ!」
「え!?さっき言った『強い想い』か?」
「それもだがっ、『後で書きこまれた可能性のあるもの』を思いついたんだ!」
「え!?」
聞き返すエドに、ロイは振向いて叫んだ。
「確めてくる!君は車を呼んで後から来たまえ!」
そう叫ぶ犬の言葉を聞きながら、エドは呆然としたように立ち止まり・・・・・
荒い息を整えながら、ロイの言葉を反芻する。
「なんだって・・・?」
書きこまれた可能性のあるもの――――って!!
そして、エドははじかれた様に家で電話するべく、走り出した。