側近に連絡をした後。
エドは急いで軍服に着替え、もどかしげに戸締りをすると、外に飛び出した。
息を弾ませて通りを全力疾走する軍人に、すれ違った者はあっけにとられたように振向く。
だが、そんな視線をものともせず、エドは更に走り続けた。
―――すると、前方からエドを呼ぶ声が聞こえた。
「少将!!」
ハッと顔をあげると、こちらに向ってくる軍用車が視界に入った。
手を上げるとUターンして、エドの隣にピタリと車をつけ、運転手が顔を出す。
「ブロッシュ大尉!」
「少将、乗ってください!」
「閣下は!?」
「先ほど大総統府にお入りになりました!」
無事に着いたことにホッとしながら、エドは軍用車に乗り込んだ――――
拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・17 
中に入ると、ハボック中佐が待っていた。
「閣下はどこに?」
「今、中庭っスよ」
「中庭?」
訝しげにエドが首を傾げると、ハボックは苦笑いをしつつ、頷いて中庭が見える窓を指差した。
急いで近づくと、そこには確かに黒い犬。
だが、黒い犬は一匹だけではなく・・・二匹いた。
「ハヤテ号?」
何やら顔を寄せ合って、内緒話でもしているかのような二匹の姿に眉を寄せ・・・
エドはそばに行くべく、窓枠に足をかけた。
******
側に行ってみると・・・・・やはり、何やら話し合い中(?)だったようだ。
人の言葉ではないので内容はわからないが、何やら鼻先をつき合わせて、フンフンクンクン。
たまにハヤテ号が『ワン』などと言って、ロイがそれに頷いていたりしている。
その二匹を、少し離れた位置でホークアイ大佐とアルフォンスが見守っていた。
「大佐!アル!」
「あ、兄さん」
「少将」
二人の隣に駆け寄って・・・エドはリザの隣に立った。
「あれさ、もしかしなくても話をしてる・・・・・んだよね?」
「そのようですね」
「なんか・・・・・ファンタジー?」
「ですね。これであれが閣下でなければ感動する所なんですが、今はなんだか憎らしい・・・いえ、複雑な気持ちですわね」
「・・・ははは」
どこか憮然とした様子のリザの隣で、エドは乾いた笑いを漏らした。
エドに続いて中庭に下りたハボックも、微妙な引きつり笑いを浮かべている。
遅れて来たマリアとブロッシュもちょっと顔色が悪い。
だが、アルとフュリーだけは、なにやらキラキラした瞳で二匹の会話を見守っていた。
―――しばし見守ってから、ハボックは険悪な空気を変えるように、話を振った。
「えーと、つまり・・・・・ハヤテ号もなんか関係あったってことですか?」
二匹を観察していると、ロイと会話をしているハヤテ号の耳がいたずらをリザに叱られた後のように、垂れている。
「そのようね。・・・・・実はね、このところ少し元気がなかったの」
「え、そうなんですか?」
「ええ・・・でも、この事件の後始末で忙しかったでしょう?中庭に繋ぎっぱなしで相手してあけられないからだと思っていたのだけど・・・違ったのね」
リザは珍しく眉を下げて、ため息をついた。
その話を聞いて、フュリーも思い出したように、声をあげた。
「あ!そう言えば・・・大佐に頼まれてハヤテ号に餌をあげに行った時、ハボック中佐と閣下が並んで歩いているのが遠くに見えた事があったんですよ。その時、ハヤテ号が鎖をいっぱいに引っ張って、閣下の方を向いて『ク―ンク―ン』って鳴いてたんです。その時は僕も、『閣下が犬の姿だから、遊びたいのかな?』位にしかおもわなかったんですけど・・・ハヤテ号はあれが閣下だってわかっていて、何かを話したかったのかもしれませんね」
フュリーも、そう言って顔を曇らせた。
******
しばしそのまま皆で事の成り行きを見守っていたが――――
ロイが不意にこちらを見たと思ったら、こちらに向って歩き出した。
2・3歩歩いてハヤテ号を振向き、なにやらハヤテ号に促し、二匹揃って向ってきた。
「皆、待たせたね」
「閣下・・・・・どういう事か説明してください」
「ああ。実はね、君達も今見て予想していただろうが・・・今回の事件に、偶然ながらもこのハヤテ号が関わっていたんだ」
ロイがハヤテ号を振向くと、ハヤテ号はバツが悪そうに身をすくめ、リザをチラリと見てから頭を垂れた。
ロイはそれに苦笑しながら、励ますようにハヤテ号の頭に頬を一度擦り付けてやる。
―――心細そうに見上げてくるハヤテ号に頷いて見せてから、もう一度皆に向き直った。
「どういう経緯か、これから説明するが・・・
まずは―――エディ、アルフォンス君、あの練成陣に書き足されたモノがなにかわかったよ」
ロイの言葉に、二人は勢い込んで前に進み出た。
「なんだっ!?」
「なんです!?」
「彼が、ちゃんと覚えていたよ。あの時書き込まれたものは・・・」
ロイはもう一度ハヤテ号に顔を向けて、自分の左前足にハヤテ号の右前足をのせて、二人の前に差し出すように持ち上げて見せた。
「コレ、だよ」
ロイの言葉に、皆じっとその前足を見つめた――――