目の前で光の塊となったロイが、形を変えていく―――
『どうしよう、どうしよう、どうしよう!?』
どうして良いかわからず、ウロウロした後―――ハヤテ号は部屋を飛び出した。
部屋を出て走っていると、見知った匂いが近づいてくるのを感じて、足を向ける。
廊下の角を曲がると、やはりその人がいた。
「あれ?――――ハヤテ号じゃないか?」
『はぼっくさん!!』
「どうしたんだ、こんなところで?」
『あのね、あのね!『かっか』がたいへんなの!!』
必死にそう訴えると、ハボックはしばしじっとこちらをみて。
―――そして、頷いた。
「そーか、わかった。まかせておけ!・・・ほら、こっちこい」
力強くそう言うハボックを、ハヤテ号は感動の面持ちで見上げた。
『さすがぼっくさん!!ボクのきもちがわかったんだね!!』
ハヤテ号は、尻尾を振ってハボックについていった。
拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・19
「ハヤテ号、ほら、こっちこい」
大人しくハボックについていったハヤテ号だが、そう言われて困惑気味にハボックを見上げた。
――――そこは、見なれた風景。・・・中庭だった。
『はぼっくさん、なんでここなの?『かっか』がたいへんなんだよ!?』
ハボックに駆け寄ってそう訴えるが。
聞こえたのは『そうだったのか!?』という返事ではなく、『カシャン』という鎖の音だった。
『はぼっくさん!?』
「まってろよ?」
鎖に繋がれて、不安げにうろうろするハヤテ号にヘタクソなウインクを残していなくなってしまったハボックだったが・・・ほどなく、彼は戻ってきた。
その手には――――良い匂いがする、袋。
ハボックはハヤテ号の前にしゃがむと、袋の中からジャーキーを取り出した。
「腹へったんだよな?フュリーからこれもらってきたから、食べな?」
でもな、腹減ったからってあまりうろうろすんなよ?怒られるだろ、ご主人に。
しかしよく鎖外したなぁ・・・緩んでたのかぁ?
―――のんきにそんな事を言うハボックに、ハヤテ号は一瞬真っ白になる。
だが、すぐに我に返って、再びハボックに訴えた。
『ちがう、ちがうよはぼっくさん!!おやつがほしいんじゃなくて、『かっか』がたいへんなんだ!!』
「んー?・・・心配すんなって、おやつの時間以外におやつ食べたってことは、ご主人には内緒にしてやっから!」
バタリ。
「・・・・・どうした、ハヤテ号?寝てないで食べろよ。残ってたらバレるだろ?」
全く噛み合わない会話に、思わずへこたれてしまった。
だが、ハボックはちょっと首をかしげただけで、「じゃーな」と言って腰をあげてしまった。
ハッとして起きあがり、もう一度呼ぶ。
『はぼっくさん!』
「わりぃな、これ以上遊んでやれないんだ。エドに閣下のお守頼まれちまったからよ」
またあとでな!
そう言い残して、とうとうハボックは行ってしまった。
『・・・・・いっちゃった』
くぅんと鳴いてみるも、もう側には誰も居ない。
『どうしよう・・・』
でも、はぼっくさん・・これから『かっか』のところにいくようなこと、いってた。
だったら、『かっか』がたいへんになったの、わかるよね?
―――ハヤテ号は、ロイのいる部屋の方角を不安そうに見上げた。
『かっか・・・だいじょうぶかな』
どうしてあんなことになっちゃったのかな?やっぱり、ボクがあしあとつけたせい?
―――項垂れて、地面を見つめる。
ハボックが置いていってくれた大好物のジャーキーが見えたけど、全く食べる気にならなかった。
・・・・・頭の中に、ご主人の顔が浮かんだ。
『ごしゅじん・・・・・・・・・・・おこるよね』
ハヤテ号はもういちど、『くぅん』と頼りない鳴き声をあげたのだった――――
******
ロイは皆を見まわすと、話を締めくくった。
「・・・・・とまぁ、こういう事だったらしい。その後ハボックが執務室に来て、後は皆も知っている通りだ」
ロイの話が終わり、まず声をあげたのはハボックだった。
焦った声が執務室に響く。
「あ、あれ・・・おやつの催促じゃなかったんですか!?」
「だから、お前はモテんのだ」
「・・・・・・・・・・・なんで、そこにいくんですか」
「相手の『言葉に出せない心の機微』がわからない奴など、女性にモテるわけなかろう?」
ロイの言葉に、ハボックはガックリ肩を落とす。
ついでに、フュリーも肩を落とした。
・・・この事件がもちあがってから、リザが超多忙の為フュリーが主にハヤテ号世話を任されていたので、わかってやれなかったことに責任を感じているらしい。
ため息を吐く男達。
そのの横から・・・・・静かな声が響いた。
「そうだったの・・・・・・ハヤテ号」
声の主は、ホークアイ大佐。
その顔はいつもに増して、厳しい表情になっている。
ビクリ・・・と、ハヤテ号の体が震えた――――――