次の日の夜――――エドワードの自宅。
そのリビングにロイとエドとアル、そしてロイの側近達が集まっていた。
「兄さん、こっちは出来たよ」
「ああ。こっちも終わった――――」
アルが立ちあがり、続いてエドも立ちあがる。
二人の間の床には、大きく書かれた練成陣。
それぞれ相手の書いた分のチェックをし、確認を終えたエドは後ろを振り返った。
「閣下、出来ましたよ」
後ろにあった皮張りのソファーの上に寝そべっていたロイは、その声にパチリと目を開ける。
そのまま身を起こすと、トンッと、軽い音を立てて床に飛び降りた。
ゆっくりと歩いてエドの横に立ち、彼を見上げる。
「出来たんだな」
「はい、確認もしました。昨日閣下に了承頂いた通りに作成してあります」
「ご苦労、少将。・・・アルフォンス君も、有難う」
「いえ」
「では、早速はじめるか」
・・・・・久しぶりに、人間に戻るとしようか?
自分を見つめる全員をぐるりと見回してから、黒犬は口の端を持ち上げて見せた―――――
拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・21
ロイの言葉を受けて、リザが側近達に指示を出す。
「では、皆うち合わせ通りの位置について頂戴」
「はい」
この練成を行う為に、面々は事前にうち合わせを行っていた。
軍部ではこの秘密が露見すると拙いので、場所はエドの自宅。
持ち場も、ブレダは軍部に残り、ブロッシュとフュリーは屋敷の外を警戒・・・等、それぞれに割り当てていた。
リザの指示に、皆がそれぞれの持ち場へと散っていく。
練成陣があるリビングには、練成を行うエドと練成を受けるロイだけが残ることになっているので、アルも部屋の外に出ていき・・・続いて、ハボックとリザもドアに向って歩き出した。
だが、出ていく二人を、ロイが静止する。
「待ちたまえ、私からもう一つ指示がある」
「閣下?」
その言葉にハボックとリザが振向く。
部屋に残っていたエドも視線を向ける中―――ロイは口を開いた。
「この練成で私にもしもの事があった時は、後任をゲルグ大将に」
「なっ!?」
声を上げたのはエド。
ハボックは咥えていた火のついていないタバコを取り落とした。
リザも顔を強張らせしばしロイを見つめてから、ロイに問いかけた。
「・・・閣下、どういう事でしょうか?」
「突然大総統が消えれば、また国が混乱する。それを防ぐには、速やかに後任を選出する事が必要だ。一番信頼が出来るのはもちろんエルリック少将だが、それでは狸連中が納得しないだろう。となれば他の将軍達の中から選ぶのが妥当だが・・・彼等の中なら、ゲルグが適任だと思う。私の声を録音したテープに大総統印を添えて執務室の金庫に入れてある。それを公表してくれ。サインが出来なかったから信憑性を疑われるかもしれないが・・・ゲルグなら実力も十分持っているし、大抵の者は頷くと思う」
そう、取り計らう様に。
君達がその後どうするかは、各自に任せよう。・・・君達なら、それぞれ適切な判断が出来ると思うから。
―――ロイの言葉が終わった時、エドは搾り出す様に声をあげた。
「俺の腕・・・信用できねぇのかよ・・・・・」
睨みつけるエドの視線を受けとめてから、ロイは首を横に振った。
「違うよ、エディ。この練成が失敗するとは思っていないよ。私自身も構築式を確認したし、君の腕はこの世の誰より信頼している」
「なら、失敗を前提とした話なんかすんなっ!!」
そう叫ぶエドに、ロイは困ったように苦笑した。
「エディ・・・私には、責任があるんだよ。万が一の対処を考えておくのは、当然だろう?」
「でも・・・・・」
唇を噛むエドから一旦視線を外して、ロイはハボックとリザを見つめた。
「私からの指示は以上だ」
「・・・了解しました」
「イエス、サー・・・」
「では持ち場につけ」
一応頷いてから、リザはすぐには動かず、ロイを見つめた。
「・・・・・閣下」
「・・・なんだね、大佐」
「了解はしましたが、その指示を実行する時は来ないと思います」
見つめるリザに、ロイは力強く頷いて見せた。
「もちろんだ」
そして、二人は部屋の外に出ていった。
******
二人きりになった部屋は、シンと静まり返っている。
唇を噛んで俯いたままのエドに、ロイは苦笑しながら声をかけた。
「・・・さっきも言ったがね、私は失敗するなど思っていない。大事を行う前の形式的なことだよ」
「・・・・・・・練成前に、縁起わりぃんだよ」
「心配するな。君を置いて逝ったりはしないよ・・・置いていける訳が無い」
深い響を持った声に、エドはやっと顔を上げた。
「ロイ・・・・・・」
「そうだろう・・・私が居なくなったら、君はどうなると思う?」
この男を失った後の自分?―――――想像、出来ない。
だって、今の自分はこの男の為に生きているといっても過言ではない。
軍に身を置いているのは、良い国を創りたいとの気持ちはもちろんあるのだが・・・その目標に向って走れるのも、頑張れるのも―――この男がいるからだ。
全ては、彼が目的の地へ立つのを手助けする為。
闇に沈みかけた俺に道を示し、目的を達する為に手を差し伸べ・・・俺を光の当たる所に引っ張りあげてくれた男。
恩人であり、そして・・・・・・なにより愛しい・・・・この男の為に。
――――エドは、もう一度恋人の名を呼んだ。
「ロイ―――」
「わらわらと湧いた害虫が群がってくるに決まってるじゃないか!!」
それにかぶさるように響いたロイの叫びに、エドの思考はしばし止まった。
「・・・・・・・は?」
「今君が貞操を守れているのは、私と言う存在が居るからだ!!私が居なくなってみろ?ここぞとばかりにどこの馬の骨とも分からぬ男どもが君を狙ってくるに違いない!そんな輩に纏わりつかれ、最初は迷惑に思っていた君も、私を失った寂しさからつい・・・なんて事になったりしたら!!そんな事耐えられる訳がない!!」
私は死神を黒コゲにしてでも戻ってくるぞ!!
そう宣言すると、ロイはエドに笑いかけた。
「そういう訳だから、安心しなさい」
呆然とロイを見つめていたエドだったが―――やがて、わなわなと震え出した。
そして――――
「俺の貞操なんか、ガキのうちにアンタにかっ攫われて、とっくにねぇじゃねぇか!!この、アホ大総統〜〜〜〜〜〜〜!!!」
エドは、握り締めた拳を振り上げた――――
******
ドッタンバッタンと部屋から響く音に―――部屋の外では。
「暴れるのはいいけど・・・練成陣消えたらどうするつもりなんだろ?」
「痴話喧嘩のせいで失敗なんて、マヌケ過ぎるよな・・・」
「その時は黒コゲにしてもどってくるんでしょ?・・・死神を」
部屋の外で待機のアル・リザ・ハボの三人が、呆れた様なため息をついていた――――