元通りに静かになった部屋に、不機嫌な声が響く。


「さーってと・・・馬鹿やってないで、とっととやっちまうか!」
「・・・・・痛いじゃないか、エディ」

ケッと投げやりに言い捨てるエドと、頭を抱えてうめく黒犬。
その足元には白い練成陣――――どうやら、消えずにすんだようだ。

「うっせ!誰のせいだ。・・・さっさと中に入れよ。またボコるぞ?」
「うう、生死の境かも知れないというのに、この暴言・・・普通もっと甘く切なく―――キスとか、熱い抱擁とか・・・」
「まだ言うかっ!!」

こめかみ辺りに皺を寄せ、振り上げた拳を振って見せる。
だが、ロイはそんなエドを見上げて、クスリと微笑んだようだった。


「でも、この方が君らしい」


背を向けたロイは、そう呟きながらゆっくりと練成陣に向かっていった。




 拍手ログG  『大総統閣下の愛犬』・・・22  




ロイの微笑みに息を飲み、陣へと向う背中を見送っていたエドだったが―――
彼が前足を上げて踏み入れようとしたのを見て、堪らずに叫んだ。

「ロイ!」
「ん?」
「俺が、戻すから―――絶対に」
「ああ、信じてるから・・・そんな顔をするな」

泣きそうに歪んだ顔を見て、ロイは困ったように目じりを下げ、踏み入れようとした前足を下ろした。
振向いて笑い返すが、エドは唇を噛んだまま。――――しかも、手が小刻みに震えている。
ロイはもう一度エドの側へと引き返し、彼を見上げた。

『思い出してしまったか・・・怯えている』

言うなれば、これは人体練成とも言えるものだから。
どうしても昔の暗い記憶と重なってしまうのだろう・・・
だからこそ、エドワードはこの練成を一人でやると言い張ったのだ。
弟に、あの記憶を蘇らせたくないから。

『なるべく、意識させないようにしたかったんだがな、無理か』

ロイは、エドの震える手をペロリと舐めた。

「すまないな、辛い思いをさせる・・・・・」
「全くだ!みんな、アンタのせいだ!!」
「わかってる」
「馬鹿大総統!」
「悪かった」

震えながら悪態をつくエドの手をロイはその度に舐めてやった。
そして、エドの悪口雑言を全部聞いてやってから、彼を見上げた。

「失敗してもかまわんよ?」
「なっ、なに言って!!」
「さっきも言ったがね。死神は黒コゲにするから、私が死ぬ事はないよ?失敗しても、犬のまま・・・とか、その程度だ」

犬も結構楽しいぞ?実は意外に気に入ってるんだ。
ロイはそう言って笑って見せた。

「アホか・・・・・」
「だから、もう少し気楽にいきなさい」
「・・・・・・」
「なぁ、エディ」
「・・・・・・なんだよ」

エドは、のろのろと顔を上げ、ロイを見つめた。


「私が犬になったら、飼ってくれるかい?」


君以外に飼われるのは、嫌なんだ。
ワザと哀れっぽい声でそう言う黒犬をしばしじっと見つめ・・・エドは、べぇと大きく舌を出してやった。

「やなこった!」
「な!?・・・エディ〜」
「アンタみたいな嫉妬深い犬なんか飼ってみろ!!俺の側に寄る男に皆吼えついて追い払っちまうだろう?女だって、恋人になりそうになった途端に威嚇しまくるに決まってる!」
「当然だろう?」
「そのくせ、自分はちゃっかりそっちこっちの雌犬んとこに通って、近所中に黒い子犬が溢れかえるんだ!んな厄介な犬なんか飼えるか!!」
「あのね、君・・・・・」
「だからっ!!」

エドは、床に膝をついて目線を合わせ――――黒い瞳を見つめた。



「だから・・・・・・その時は、俺も犬になるよ」



犬になって、側にいる。
アンタみたいな厄介な男、最後まで面倒見きれるのなんて、俺ぐらいなんだから―――

そういって微笑むエドに、ロイはあっけにとられたような顔をして。
次に、金の瞳を見つめ返して「・・・全くだな、きっと君ぐらいだよ」と、笑い返した。
それに頷いてからエドは立ちあがってから腰をおり。
・・・・・今度こそいつものように不敵な笑みを浮かべながらロイの顔を覗きこんだ。

「ま、俺が失敗するなんて、万が一つもねぇけどな!」
「それは残念。君は犬になっても美しいだろうに・・・・・」

とはいえ、やはり君を犬にしたくはないな・・・今の君が一番美しいに決まってるからね?
そう―――黒犬もまた、不敵な笑顔を返して。


―――――そして、どちらからともなく、口付けた。





練成陣の中央に立った黒犬に、エドが声をかける。

「いくぞ!」

手の震えは、既に止まっていた。

「ああ、いつでも」

見詰め合って。
そして、部屋は光に包まれた――――――



******



光が消え去って。 エドは閉じていた目を、ゆっくりと開ける。

練成陣の中央でなにかが蠢く。
練成時に上がった煙が晴れていく中で―――それは立ちあがった。


・・・・・・・二本足で。


「さすがは私のエディ―――完璧だ」
「ロイ・・・・っ!」

走り寄って、抱きしめる
力強い腕が、抱きしめ返す
――――久々の、抱きすくめられるその感覚に、眩暈がしそうになった。



「おかえり」
「ただいま」



二人は、先ほどとは違う感触の、二度目のキスを交わした――――――





や、やっと戻りました!!・・・自分が感無量(笑)
マジ、終われるか不安な時期があったので(遠い目)


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