滞っていた仕事がようやく片付いて『怒涛のような忙しさ』から『普段の忙しさ』に変わり・・・
やっと『日常』が戻ってきた。
――――――二人にも。



夕方―――大総統官邸に黒塗りの車が滑りこみ、玄関先で止まる。
車から先に降りたエルリック少将は、ドアの横でピシリと敬礼し、ゆっくりと車から降りる大総統を見つめた。


「ご苦労」
「はっ。閣下もお疲れ様でした。・・・・・・・・・・・おやすみなさいませ」


おやすみ・・・というには、少し早い時間。
特に日の長い時期だから、外は充分明るく、子供でさえまだ外で遊んでいるだろう。
『だが、オレもこの男も流石に限界だ・・・』
自分もこの男も流石に疲労こんぱい。
明るかろうがなんだろうが、ベットに直行だろうと思い、そう言った。
挨拶をしながら、エドは今までの怒涛の日々を思い出す。
そして、心の中で呟いた。

『ああ、やっと一段落ついたな・・・・・』

コイツもオレもやっと休みだ・・・今日はさっさと帰って寝るぞ!!
そういや・・・部屋ぐちゃぐちゃだ、片づけねぇと。・・・ゴミの日っていつだっけ!?
冷蔵庫の物も腐ってるか?何か買ってかなきゃ食うもんねぇな。
いや、いいや・・・・・もう、とにかく疲れた。掃除も飯も全て寝て起きてから考えよう。

『まずは家帰って寝る。家帰って寝る。家帰って・・・・』

――――心の中で呪文のように呟いていると、大総統が運転手に指示する声が聞こえた。

「ご苦労。―――エルリック少将もこのまま官邸に立ち寄るので、そのまま直帰してよし」
「はっ」

そう、まずは官邸に立ち寄って・・・・・・・・・・・・。



「・・・・・・は?」



エドは、唖然とロイを見上げた。




 拍手ログG   『大総統閣下の愛犬』・・・24   




送迎の車を唖然と見送りながら、エドは呟いた。


「・・・・・・閣下」
「なんだね?」
「ひとでなし。」
「・・・・・・・ひとでなしはないだろう?」
「ひとでなしだからひとでなしっつったんだ!!まだ働かせる気か!!」

あれ以来、やっともらえた久々の休みなのに〜〜〜〜〜!!

ウガァ!と雄たけびを上げながら髪を掻き毟るエドに、新人らしい若いメイドがビクリと肩を揺らした。
雄たけびにも驚いただろうが、いくら将軍とはいえ、大総統にこんなぞんざいな口の利き方をする者がいるのにも驚いているようだ。
固まるメイドを、古参の執事が軽く咳払いをして、さりげなく下がらせる。
―――そんな執事の気遣いを知ることもなく、エドは更にヒートアップしていた。

「てめぇ、まだ仕事隠してやがったのか!?司令部じゃホークアイ大佐に怒られるから、こっそり持ち帰って来たんだろ!」
「そうじゃない」
「んじゃなにか!?また何かしでかしたのか?これからここで後始末手伝わせる気なんだな!?」
「違うよ。エディ、とにかく落ちつきなさい。――――マイク!」
「はい、旦那様」

エドの激昂ぶりに埒があかないと悟ったようで、ロイは執事を呼んだ。
進み出る執事に、確認する。

「準備は?」
「出来ております」
「分かった」

そのやり取りに、エドはやっと怒りを納めて首を傾げた。

「準備?」
「きたまえ・・・・・」

ロイはエドの問いには答えず、歩き出した――――



******



連れて行かれた先は、官邸の庭だった。


綺麗に整えられたそこを進んでいくと見えてきたのは小さなアーチ。
その白い金属のアーチには蔓バラが絡み付いて、バラの門となっている。
そして、その両隣に生垣がぐるりと続いていた。

「ここ、何?」
「前大総統夫人が作られたローズガーデンだよ」
「ローズガーデン?」

先に立ってアーチをくぐるロイを追い掛けて、そのアーチをくぐる。
狭い門をくぐると中は結構広く、辺りにゆらりとバラの香りが漂う・・・まさに、ローズ・ガーデン。
キョロキョロと見まわすと、そこら中に色とりどりのバラが咲き誇っているのが見えた。

「へぇ・・・ここ、こんな風になってたんだ」
「君は来たことがなかったものな」

官邸は居心地が悪いと言って、近寄ってくれなかったものな。
それこそ、何度私が懇願しても・・・・・・ね?
―――含みを持たせたそのいい方に、エドは口を尖らせて見せた。

「仕方ねぇだろ・・・・・本当に居心地わりぃんだから」

俺は堅苦しいの苦手なんだよ!
そう言ってそっぽを向いて見せたが・・・
それだけが理由でない事は、この男にはすでにバレているだろうと思う。

エドは官邸にあまり足を踏み入れない。
用事があって入ったとしても、この場所に滞在する事はない。
―――何故なら、この場所に自分が相応しくないと思っているから。

『どの面下げて、ここにいろってんだ』

職場でなら、この男の隣に立つのになんの違和感もない。
自宅でなら、この男の隣に立つのに安らぎを感じる。
だがここで、この男の隣に立つというのは、特別な事なのだ。


だって、官邸で彼の隣に立ち暮らすのは・・・部下でも恋人でもなく―――伴侶だろう?


この男を愛してる。
それこそ、この男が犬になったら、自分も犬になって寄り添いたいと思うほどに。

『だけど・・・オレがファーストレディになんてなれる訳がねぇ』

男がファーストレディだなんて、聞いた事も無いし。
隣に立ったからといって、女性の様にアイツに華を添えてやるなんて出来ないし。
そして―――――オレは、やはり・・・禁忌を犯した者なのだ。

『只でさえ敵だらけのこの男が、足元を掬われる原因になるのは絶対嫌だ』

だから、いくら懇願されてもそれに応えることはできない。


『コイツが、もっと一緒にいたがってんのはわかってんだけどな・・・』


仕事中は一緒にいる場合が多いが、仕事中にイチャついてる訳にはいかないし。
しかも、お互いの仕事は忙しくてすれ違いも多い。
だから、せめて夜だけでも恋人として少しでも長く一緒に居たいというのは、わかる。
それには一緒に住むのが一番なのだが・・・先の理由で官邸にオレが行くのは嫌だし。
オレの家にアイツが来れば問題ないが、それも毎日と言う訳にはいかない。
・・・なにしろ、アイツは大総統。毎日夜な夜な官邸を抜け出す訳にはいかないだろう。
アイツがオレの家に居るのは、もちろん側近達は知っているものの・・・一応秘密のことなのだ。
(公にしたら、護衛だなんだと大変な事になる)

『こうして改めて考えて見ると・・・本当に恋人として過ごす時間ってみじけぇな』

アイツが拗ねるのも無理はない気がする・・・・・
それに気がついて、ちょっと凹。

『でも了承した途端、コイツ、嬉々として法改正までするんだろうな・・・ぁ』

それを考えると、にわかに胃痛がしてくる。
・・・・・やっぱり、オレには無理だ。

『オレだって、もっと・・・・・・ってのは、同じなんだけど・・・』

今更ながら、厄介な男を好きになってしまったものだとため息をついた。
同性云々はもうどうでもいいが、大総統になるような男を好きになるんじゃなかった。


『いや・・・・・そんな男だからこそ、好きになったの・・・か』


別に同性だけしか受け入れられない嗜好などではないのだから、『普通の男』なら惹かれたりすることもなかっただろう。
頂点に立つ器の男。だからこそ、惹かれた。
そうなると・・・この悩みも必然ということか。
そこまで考えて―――エドは、密やかにため息をついた。




すみません、またまた嘘吐きでした・・・・・1回では終われそうもないです(平謝り)
でも、エンディングには間違いないので!もうちょこっとだけ続きます;


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