「つれないねぇ・・・・・」
官邸は居心地が悪いと言い放ってそっぽを向くエドに、ロイは苦笑した。
「だが、庭を見物するぐらいはいいだろう?・・・・・おいで、案内しよう」
「うん・・・」
肩を抱いてくる男に、周りをチラリと覗って誰もいないことを確認してから、エドは身を任せた。
その仕草にロイはまた苦笑したようだったが、何も言わず・・・
二人は寄り添ってローズガーデンの中を進んでいった。
拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・25
色とりどりのバラの中をゆっくりと進む。
感じるのは、バラの香りと―――彼の体温。
やっと、もとに戻ったのだと実感できる、肩に回された逞しい腕・・・
先ほどまで疲れてもう一歩も動きたくないほどだったのに、その疲労が和らぐのを感じる。
ロイの腕におさまりながらエドは微笑んで、咲き誇るバラ達に目を向けた。
「バラなんてじっくりみたこともなかったけど・・・綺麗だな」
「だろう?」
「あ・・・これ、すごく綺麗だな!・・・いいにおい」
「ん、これかい?これは・・・確か『オフェリア』だな。戯曲に出てくる姫君の名前をつけられた花だ」
「へぇ!確かに品があって、綺麗で・・・お姫様っぽいな」
「中心部のピンク色が、清楚な乙女を感じさせるね」
そう言って本物の姫君の手を取るように、うやうやしく花を手に取り顔を寄せるロイに、エドは内心むっとしてしまう。
『何でいちいちキザったらしいんだよ』
花にムカついても仕方がないが、なんとなく面白くない。
しかも、そのキザな仕草が恐ろしいほどさまになっているのが、またムカツク。
『この花のようなお姫様だったら、さぞかしコイツにお似合いだろうぜ』
この花のような人だったら、官邸だろうが公道だろうが、コイツの隣に立つのに躊躇することなどないだろう・・・
思わずそんな事まで考えてしまって凹んでいると、隣からうっとりしたような声が聞こえてきた。
「本当にこのバラは美しい・・・」
『まだ言うか!』
今度こそ不機嫌な顔のまま見上げたエドだったが。
だが、視線の先のロイは、バラではなくエドを見つめて微笑んでいた。
「美しいが・・・君の美しさの足元にも及ばないな」
微笑んで、ロイはエドの頬に手を伸ばす。
「このバラだけではない、このガーデン中のバラを集めても、世界中から美しいと言われる花々を取り寄せても――――君の美しさには遠く及ばない」
「・・・・・オレは女じゃねぇんだから、そんな機嫌の取り方されても嬉しくねぇよ」
「機嫌とり?馬鹿な。私の心からの本心だよ!・・・エディ、君はどんな花より美しい」
拗ねた気持ちを悟られたのが悔しくて、ぶっきらぼうに答えると―――
心外だといった態度でそう否定してから、ロイは再びエドを見つめた。
「そして、美しいだけではなく、君は私にとってかけがえのない者だ」
触れていた頬を、スルリと撫でる。
「今までもそう思っていたのだが、今回の事で更に強く思ったよ・・・」
「ロイ・・・・・」
「一緒に犬になってまで側にいてくれると言う言葉、嬉しかった」
―――ロイはそう言って微笑むと、宝物を扱うようにエドの手を取って、手袋越しに口付けを落とした。
「愛してる、エドワード。この世のすべてより・・・」
「ロ・・・」
真剣な瞳に息をのむ。
言葉を途切れさせたまま彼を見上げると・・・ロイの腕がエドの背中に回り、その真剣な瞳が間近に下りてきた。
「犬にはなりそこねたが・・・・・・ずっと私の側にいて欲しい」
言葉と共に、口付けられた―――――