「オレ・・・」


キスの後、エドはロイを見上げて言いよどんだ。
この男の側にいることには、とっくの昔に決めた事。躊躇など無い。
―――けれど、大総統の伴侶には、やはりなれない。

「オレは・・・」

言葉を紡ぎあぐねて俯くエドに、ロイは苦笑して。
そして、彼の金髪を撫ぜ、その額に口付けを落とした――――




 拍手ログG   『大総統閣下の愛犬』・・・26   




「すまない、困らせるつもりじゃなかったんだが。・・・プロポーズじゃないから、そんなに構えないでくれないか?」


苦笑交じりで言われた言葉に、エドは目を見開いて顔を上げた。

「え?」
「今回の件で、あらためて『君と一緒いたい』と強く思ったので、つい口を付いてでたのだが・・・正式にどうこうというものではないよ」
「え、あ・・・そ、うか」

プロポーズかと思って無駄に緊張したじゃねぇか、紛らわしい!!
・・・・・って、プロポーズじゃなかったんだなー・・・・・・・
―――答えに窮して困っていたのに、『違う』と言われるとなんだかショック。
そんな相反する気持ちをもてあましていると、ロイが悪戯っぽくウインクしてきた。

「もちろん、『イエス』と言ってくれるなら、今すぐにプロポーズするがね?」
「いわね―よ」
「・・・速攻否定されるとキズつくのだが・・・・・」
「知るか!」

言い捨てて背を向けると、後ろから抱きすくめられた。

「君が躊躇している理由は知っているよ・・・・・」
「・・・・・」
「だから言わないが・・・本当は今すぐプロポーズをして、法も改正して、君を私だけのものにしたい」
「・・・別に、今だって、アンタのもんだろ・・・・・・」

その言葉に嬉しそうに微笑んで。
でも、ロイはゆっくりと首を横に振った。

「違うよ、エディ。私は世界中に『君は私のものだ』と知らしめたいんだ。人目を気にせず、誰に遠慮することなく・・・腕を組んで外を歩き、一緒に買い物をして、公園でアイスクリームを食べながら並んでベンチに座り、キスをする―――そんな風に過ごしたい」

犬の姿になってやっと実現できたそれを、ちゃんと人の姿でやりたい。
そう言って、ロイは腕の中のエドをこちらに向かせて、瞳を覗きこんだ。



「・・・・・これは、君の望みでもあったろう?」



その言葉に、エドはパチパチと瞬きをした。

「え?」

なんで、それを?
驚くエドに、ロイは憮然とした態度で言った。

「知っているとも!君は秘密にしたがっていたようだがね?・・・というか、私以外の男と秘密を持つなんて、酷いじゃないか?」
「男って・・・・・いや、確かに男だけどさ。でも・・・」


オレがそれを言ったの、ハヤテ号だった気がすんだけど。


犬の時にハヤテ号に聞いたのか?でも・・・?
混乱するエドに、ロイは憮然とした態度を止めて、クスリと笑った。

「実はね・・・あの日、君がハヤテ号と内緒話をしているのを、偶然見かけたんだよ」

ロイは、その時の事を話し出した――――



******



ロイが犬になる何時間か前、ロイは中庭でエドとハヤテ号が一緒にいるのを見かけた。
楽しそうに笑うエドをこっそり観察(見つかると、サボっているのがバレるから)していると・・・彼が一枚の紙を見ながらハヤテ号に何かを話し掛けているのが聞こえた。

「あ、コラ・・・この紙は悪戯しちゃだめだぞ、さっき広報のお姉さんにたのまれたんだからさ?」

広報?

「今度オレが軍の広報紙にのるんだってさ、かったるいよな、こういうの?」

なに!?私の許しもなしにエディを広報紙にのせるというのか!?けしからん!
・・・・・・もちろん、私にも一部まわってくるんだろうな?

「このアンケートに答えなきゃなんないんだよな・・・えーと、好きな食べ物は、ドーナッツっと。趣味は・・・読書でいいか?は・・・?恋人はいるか?――――いないことにしとこ」

私との事はなかったことになるのか・・・?(凹)
おおっぴらには書き辛いのだろうが、せめて『秘密v』とか書けないのか、エディ。(涙)
次々にアンケートを埋めていくエドを見ながらヘタレていると、またエドの声が聞こえた。

「あなたの望み・・・か。アメストリスが平和であること――――かな」

エドはそう呟きなら、サラサラと欄を埋め。
その後、悪戯っぽく笑った。

「ま、これが一番だけどさ・・・他にも、ちいちゃい望みはあるんだけどな」
「わふ?」
「ん?気になるか?・・・ん〜、内緒なんだけど、お前にだけは教えちゃおうかな?」

エドはハヤテ号の耳にこそこそと何事かを話して、微笑んだ。

「ささやかな夢だけどさ・・・叶えるとなると、なかなか難しーんだよな」



いつか叶う日、くるかなぁ・・・・・・?



空を見上げて寂しげに呟くと、エドは立ち上がった。

「さてと、そろそろもどんねーとな。じゃあな、ハヤテ号!」

尻尾を振るハヤテの頭を撫でてやってから、エドは背を向け歩き出したのだが。
すぐに止まって、もう一度振向いた。


「ハヤテ号、さっきの・・・誰にも内緒だぞ?―――特に、ロイにはな?」


悪戯っぽくそう言ってウインクして、エドは今度こそ中庭を出ていった――――



******



隠れて聞いていたロイは、呆然と立ち尽くす。

『エディの望み・・・?』

以前なら、弟の体と自分の手足を取り戻す事だとすぐに分っただろうが、それらを取り戻した今、色々考えて見るも彼の望みが分らなかった。

『これは、恋人として失格なのではっ!?』

これでは、『恋人はいない』と書かれても致し方ないかも・・・と、ロイは焦った。
そのままハヤテ号のところに駆け寄る―――

「ハヤテ号、エディの望みとはなんだったんだ!?」

勢い込んでそう聞くが、もちろん犬は答える訳もなく。
・・・というか、なんだか視線を逸らして、こちらを見ようとしない。
あまりのつれない態度に、抜け出して餌を買い与えてみるが、ハヤテ号は全くロイの相手をしようとはしなかった。
・・・いや、たとえ懐いてくれたとしても、彼がエドの望みを教えてくれる事はないのだが。
ロイはガックリと肩を落として、執務室に向かった―――

「あ、見つけた!!どこに行ってたんですか!?」

執務室にもう少しで辿りつく・・・と言うところで、エドに見つかってこっぴどく怒られた。
そのままギンギンに監視されながら仕事をこなしていたのだが・・・午後は、エドに外出の予定があった。

「いいですか、閣下!すぐに帰ってきますからね?サボらずやっといてくださいよ!」
「わかったわかった・・・・・・あ、少将」
「なんですか?」
「いや・・・・・・・いい。気をつけて行って来たまえ」

ロイの態度に首を傾げながらも、時間が迫っていた為、エドは慌しく執務室を出ていった。

「・・・・・エディが口を割る訳、ないか」

結構、頑固者なのだ。
自分で「小さい望み」とか言っていたし、その為に私を煩わすのは嫌だと思っているから『ロイには内緒』とハヤテに言ったのだろう。
彼の気持ちは嬉しいが、甘えてもらえない恋人としては、かなり寂しくもある。
彼の望みならば、どんな小さいものでも叶えてやりたいと思っているから・・・尚更だ。


「ハヤテ号と話ができればいいんだが・・・・・」


そう呟いてから、ロイはふと思い立った様に紙を取り出した――――





こうして、大総統犬が誕生!(・・・・・・・しょうもない;)


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