「ハボック、ハボーック」
「・・・・・・なんスか、閣下」

大総統執務室に簡易の机と椅子を持ちこんで書類整理をしていたハボック。
『犬のおまわりさん』ならぬ、『犬の大総統閣下』に呼ばれ、
振向いて(見るたび、遠くに旅にでも出たくなるが・・・)そう答えると、
大総統用の椅子からトンッと軽やかに降りた犬はハボックに近づき、彼を見上げた。



「暇だ。散歩につれてけ」




 拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・5 




聞いた途端、脱力。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・アンタって、やっぱり大物っスね」
「そう誉めるな」
「いえ、全然誉めてませんから」

力の抜けた体をなんとか起こして、キッパリと否定する。
そして椅子から降りてしゃがみこみ、犬と目線を合わせて諭すように言った。


「閣下・・・もう少し自分のおかれた今の状況を、真面目に考えましょうや?」


自分で練成したのだから、すぐに元に戻せると思いきや・・・・・事態はそう甘くはなかった。
練成陣の書かれた紙は、犬の涎であちらこちらが滲んで判別不能になっていたのだ。
ロイに記憶を辿らせながら、エドがもう一度練成陣を作成したのだが・・・術は発動しなかった。

おそらく、ロイの記憶外のもの・・・・・・
つまり、居眠りしていた時握っていたまだだったペンが、何かを書き足してしまったのだ。
腕を動かしてしまった時偶然書かれた線か、それとも指から離れて転がったペンから落ちたインク染みか。
どれかはわからないが、ロイにも覚えのないものが書き足され、それが練成陣を完璧な物へと変え・・・
そして、寝ぼけたロイが無意識のまま術を発動させてしまったらしいのだ。
その『書き足された物』がよりにもよって――――――涎で滲んで、判別不能。


結果・・・すぐには戻せない事を悟った側近達は、事態をしばらく押し隠すべく奔走するはめになった。


「閣下は急に体調を崩されて官邸で1週間ほど療養・・・ってことには、しましたけどね」

スケジュールを調整すべく、ホークアイ大佐はいまだ奔走しているし。
エドはアンタの代理で今日出席する筈だった経済界の要人との会合やら、市民イベントやらに出席しなきゃだし。
ファルマンは頬のコケ方をかわれて、アンタの影武者として変装したまま官邸でずっと寝てなきゃだし。
ブレダとフュリーは突然抜けなきゃならなくなった仲間の穴を埋めるべく、走り回ってるし。


「俺だって、アンタがまたアホなことして遊ばないように護衛兼監視役を大佐から命じられてるんです」


アンタを連れてふらふら散歩なんかに出たのがばれたら、俺が蜂の巣ですよ。御免こうむります。
そう言ってハボックは立ちあがると、また椅子に座って書類をめくり出す。だが。


「うわっ!?・・・・・・・・・・な、なんスか、閣下?」


突然犬が襲い掛かるように前足を持ち上げて立ちあがり、ハボックの肩にその両前足をかけたのだ。
驚いて椅子から落ちそうになったハボックを気にもせず、犬は言った。

「誰が遊びに行くと言ったのだ?馬鹿者」
「へ・・・・・?」
「すぐに戻れないのなら、この状況を有効利用しようと言っているんだ」

口の端をあげて、僅かに口を開いたその犬の表情は・・・まるで、ニヤリと笑っているようで。
犬の顔のままなのに、一瞬人間の方の大総統閣下に見えて、ハボックは目を見開く―――



「・・・”散歩”に出るぞ、ハボック」



犬は、いつもの含んだ言い方で、また口の端を持ち上げた。





大人しくしときなよ、閣下。・・・・・また怒られるよ?(苦笑)


back     next     MEMO帳へ