「なぜだ・・・・・・」
目の前の光景を呆然と眺めながら、ハボックの口からはそんな呟きが漏れた。
『目の前の光景』。それは――――――
「すごいわ〜、こんなに毛がつやつやしていて!顔も精悍でカッコイイv」
「ほんと、ハンサムさんね〜v私大きい犬って怖いから嫌って思ってたけど、この犬は素敵!」
「ね、こっちにも来て〜vvvサンドイッチ食べないかしら?」
きゃーきゃーと周りを取り囲むのは、うら若き女性達。
囲まれているのは――――――大総統閣下のなれのはて・・・もとい、仮の姿である、黒い犬。
「納得いかねぇ・・・・・」
ハボックの口からは、もう一度そんな呟きが落とされた―――――
拍手ログG 『大総統閣下の愛犬』・・・7 
ロイにせがまれて散歩に出たハボック。
『街に出たい』という彼を何とかなだめすかして、敷地内散歩で今日のところは妥協してもらった。
『敷地内なら、大佐達の怒りも少しは軽減される・・・・・・・・・・と、いいな(汗)』
そんな事を考えつつしぶしぶ中庭を歩いていたら、休憩中の事務方の女子職員達に会った。
もちろん”女性大好き!”な、犬と中佐のコンビは、いそいそと彼女達に近寄っていったわけだが。
なぜか、彼女達の注目を一身に浴びたのは、
『今や中佐という地位につき大総統の側近。しかも独身!・・・なにより人間!!』
――――――な、ハボックではなく。
『恐れ多くも中身は大総統閣下!・・・だが、今はただの犬』
――――――な筈の、ロイだった。
・・・最初は大きな犬に怖がるそぶりを見せた彼女達だったが、
犬好きだったらしい一人が、近づいてその毛並みを誉めだして。
もちろん中身はロイだから、噛みついたり威嚇などするわけもなく、犬も大人しく彼女を受け入れる。
すると、大丈夫だと分かった全員が犬を取り囲み、きゃーきゃー騒ぎ出したのだ。
その間、ぽつんと取り残されてしまったハボックは、思う。
「・・・・・・・おかしい、何かがおかしい・・・」
犬になってもモテるなんてっ、絶対おかしすぎる!!!
・・・しかもオレ(人間)を差し置いて、犬のほうがモテるなんてっ・・・・・・・・!(凹)
ハボックの嘆きにも気づかず・・・
彼女達はますます盛り上がって、犬に触り出した。
「触っても怒らないかしら?・・・わぁ、ほんとすべすべvv(背中の辺りをナデナデ)」
「ホント!おとなしいくて可愛いv(犬の首に手を回して、ぎゅvっと抱きつく)」
「こんな犬なら飼いたいわ♪・・・きゃ、くすぐったいv」
犬の鼻先に手を出した女性が、ぺロリと指を舐められて、きゃっきゃと笑う。
その光景を眺めながら、ハボックが世の理不尽さに涙していると・・・急に、犬がはじかれた様に耳をピンと立てた。
そのまま走り出した犬をハボックは唖然と見送って、次に我に返って追いかける。
「閣下、待ってくださいよ〜〜〜〜〜〜〜!ったく、これじゃ護衛の意味がねえっ」
必死に追いかけるものの、全速力の犬に適う訳もなく。
どんどん引き離されて・・・・・犬はとうとう正門を抜け、敷地外に出ていってしまった。
「このバカ犬っ!!」
―――おもわず、聞かれたら即刻焼却処分にされそうな科白を吐き捨てながら、なおも走りつづける。
そして、息を切らしつつなんとか門の外まで走り出たハボックだったが・・・・・
犬の走る先に、見知った顔を見つけた。
『あれ?あれって・・・・・・』
正門から少し離れた辺りに、鋼の少将と――――もう一人、若い男が立っていた。