散々悪態を吐き、ケージを叩きまくっていたエドだったが。 ・・・やがて、力が抜けたようにぺたりと座り込んだ。 「とにかく・・・このまま捕まってちゃ、奴の思うままだ」
どうしたらいい?
「ちくしょう・・・!」
疲れてとうとうヘタリこんだとき―――ドアの外で物音が聞こえ、ビクリと体を震わせる。 「あれ?少将いないのか・・・部屋に戻ったって聞いたんだけど」
仕方ない、書類だけ置いていくか――― 『うわっ!?』
エドは驚いて飛び跳ねるように後ろに下がった。 「うわー、うわー、かわいいなぁ〜!!!」
ケージに手をかけ中のエドを覗き込んだフュリーは、瞳をキラキラさせて『かわいい』を連発している。
「ん?どうしたの?お腹でも空いた?」 フュリーはそんなエドを見て、不思議そうに首を傾げただけだった。 『・・・っ!?』
エドは息を呑み・・・やがて悔しげに顔を歪める。 『さっきまで、ちゃんと喋れていた筈だ・・・っ!』
自分の姿をしたバケモノと話をした時も、奴が退出して一人きりになった時も、ちゃんと人語を喋れていた筈。 『・・・あのヤロー以外の人前では喋れないってことか』
「ど、どうしたの?やっぱりお腹空いたのかな?ミルク持ってきてあげようか?」
「・・・もしかして、人見知りする子なのかなぁ?それなら、あんまり刺激しないほうがいいのかも」
怯えさせちゃ可哀想だもんね・・・。 「またね、ねこちゃん。怖がらせてごめんね?」 バイバイと手を振るフュリーを見て、エドは目を見開く。 『マズイ!』
このチャンスを逃す訳にはいかない!
ドアを半分開けたところで、フュリーは後ろから聞こえてきた猫の声に振り向いた。 「な〜ぅ」
先ほどまでと違い甘えたような声を出す猫に、フュリーの瞳は再びキラキラと輝きだす。 「なぁ〜ぉ」
甘え声でケージに体を擦り寄せて、尻尾の先をケージの外に出して彼においでおいでするようにピコピコと動かして見せる。 「うわぁ、可愛い〜〜〜〜〜♡♡♡」
頬を染めて、でれでれの表情で彼はケージを掴んで顔を寄せてくる。
「みゃあ?(出して?)」 伝わらないもどかしさに内心でイライラしながらも、怒ってはまた元の木阿弥だと自分に言い聞かせて、可愛らしい仕草を崩さずフルフルと首を横に振って見せる。 「あれ?なんか違うって言ってるみたいに見える・・・」
首を傾げてそんなことを言うフュリーに、エドは内心で『よっしゃあ!』とガッツポーズをする。 「わあっ・・・はい、あくしゅ♪」 にこにこと出した前足を指で握って優しく上下に振るフュリー。 『ちがう・・・(涙)』
思わず脱力するが、ヘタリ込んでる暇はない。・・・いつ奴が帰ってくるか分からない。 「お願いだ、分かってくれ!オレ、ここから出たいんだよ!!」
口から出た音は例のごとく『みゃみゃみゃ・・・』だったが、必死にそう訴えて、ケージに両前足を掛け、左右に広げて頭をそこから出そうとして見せた。 「もしかして・・・・・・出たいの?」 ピクリと耳を動かして、ケージに押し付けていた頭を上げて、鳴いた。
「ケージの中に居るのに飽きたんだね・・・困ったなぁ」
ここに居るってことは、少将の猫なんでしょう?勝手に外に出したりしたら、怒られちゃうし・・・。 「ごめんね、やっぱり勝手に出してあげる訳にはいかないや」
もう少し待っていれば少将が帰ってくる筈だから、その時におねだりしてごらん?
エドはそれを絶望的な気持ちで見つめた。 『ロイ・・・』 自分のフリをして、ロイにキスを迫った『奴』の姿を思い出して、胸がじりっと焼けたように痛む。 『オレが拘束されている間、あのアホ大総統は奴の色仕掛けにデレデレになるに決まってる!・・・そんなの、許せるか!』
「な〜ぅ・・・」
今度はもの悲しげに鳴く。
「だからね、お散歩したいのは分かるけど、勝手に出してあげるわけには・・・」
物悲しげに鳴き続ける猫に、フュリーは困ったように眉を下げながら、再びケージの前にしゃがみこむ。 「どうしても・・・今出たいの?」 そう聞くと、猫はペロリとフュリーの指先を舐めて、ねだるような甘い声で鳴いた。
「し、しかたないなぁ〜。ちょっとだけだよ?」
とうとう、その可愛さに負けたフュリーは、ケージの蓋を開けてやる。 「ちょっと遊んだらすぐにもどすから・・・えっ!?」
声を掛けながら猫を抱き上げようとした彼の手をすり抜けて、エドはケージの外に飛び出す。
「ど、ど、ど、どうしよう!?」 焦ったフュリーの声が、部屋に響いた―――
|
エドにゃん、色仕掛け(?)で脱出成功!(笑)
「EVENING STAR」初のフュリー×誘い受けエド(ただし猫/笑)