「エドワード?・・・猫の名か?」
「そうだよ」
だから、『エドワード』。 「それはそうだが・・・ややこしくないか?」 呼ぶ時にややこしくないかと聞くロイに、エドは笑った。
「別にややこしくねぇだろ?だって、コイツ俺の家で飼うんだぜ?家に来る人間なんて限られてる。部下は俺を『少将』って呼ぶし、アルは『兄さん』だろ?アンタだって、俺を『エディ』って呼ぶじゃないか?家で『エドワード』って呼ばれるのは、コイツだけだよ」 返事をしつつも、ロイは何か浮かない顔をしていたが・・・そのロイの首に、スルリとエドの腕が巻きついた。
ケージの中から、自分の執務椅子に座る男を睨みつけていると・・・視線に気がついたようで、男は口端を持ち上げて笑った。 「これから一緒に住むんだからさ、仲良くしようぜ?」
心配しなくても、ちゃんと飼ってやるよ。餌だって極上のを用意してやるし? 「ふざけんな!誰がお前なんかに・・・・・ッ!?」
そこまで言って、猫のエドは息を呑む。 「喋れて、不思議・・・か?」 エドの心を見透かしたように、そう言って男は笑った。
「・・・さっきは、喋れなかった」
「・・・お前は何者だ?入れ替わったというなら・・・お前が本当は猫なのか?」
そう聞くが、自分の顔をした男は、答えもせずにニヤニヤと笑うだけ。
「お前の元の姿が猫であれ・・・ただの猫な訳、ねぇよな?猫は、人に化けたりできる訳がない。・・・まさか、ホムンクルス?」
エドの質問に、彼は不思議そうに首を傾げる・・・その様子は、しらばっくれているようにも見えなくて。 「質問を変える・・・・・・オレに成り代わって何をする気だ?」 そう聞きなおすと男は表情を変え、どこかつまらなそうに呟いた。 「・・・別に、お前になりたかった訳じゃない」
お前の姿になるのが一番都合良かっただけだよ。
「オレの姿が・・・?まさか、ロイが狙いか!?」 噛みつかんばかりに叫ぶが、鼻で笑われた。
「どう許さないんだ?檻に入ってる分際で」
見下すような冷たい瞳に、唇を噛む。 「ロイに・・・何をするつもりだ?」
アイツに何かあったら、この国はまた荒れるぞ。国を壊すのが目的か?
「お前は勘違いをしている」 エドワードの顔をした男は、悠然と微笑む。
「初めて見た時から、すぐに気に入ったんだ・・・本当は美女にでもなって彼を手に入れようと思ったんだが、彼の心の中にはお前しかいなかった。他が入り込む隙間もないくらいに」 ・・・愛されていて、嬉しいか?
顔を覗き込まれて、息を呑む。
「でも・・・その愛は、これからは俺のモノになる」 言葉を失うエドに、もう一人のエドはにっこりと笑いかける。
「姿形だけでなく、お前の記憶も能力もすべて写し取った。仕事の続きも滞りなくこなせるし、錬金術だって使える・・・誰も疑わないと思うよ?」
さっきみたいな邪魔は、もうするなよ?
「誰が大人しくなんか!これからだって、邪魔してやる!!」 ククッと笑って、男はエドを見つめた。 「まぁ・・・これからはお前などよりもっと俺がロイを愛してやるから、心配するな?」 そう言うと、自分に成り代わった男はヒラヒラと手を振って、執務室を出て行った―――
ドアが閉まった後、エドはそう吐き捨てて、前足でケージを叩いた。 「どうしたら・・・」
逃げ出すことは、いずれできると思う。 「それに、猫で一生終えてたまるか!」
絶対元に戻ってやる! 「それにしても・・・」
「女までならなんとか我慢してきたが、バケモンまでとは・・・もう、我慢ならねぇ!あのフェロモン垂れ流し大総統め!!」 人間に戻れたら修行寺にでもぶち込んで、そんなもん出ないように根性叩きなおしてやる〜!!
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「クシャン!」
「あら、閣下。風邪ですか?薬をお持ちしましょうか?」
「あ、いや・・・違うとおもうのだが。・・・どこぞの美人が私の噂でもしているのだろう?」
「エドワード君が怒ってるって可能性もありますね(しれっ)」
「な、何を言うんだね!今、彼に怒られそうなことは、なにもない・・・筈(ドキドキ)」
「顔色悪いですよ?」
「やっぱり薬をくれ・・・・・・なんだか悪寒までしてきた(冷汗ダラダラ)」