「そうだ・・・オレは引き出しの鍵を錬金術でこじ開けようとして、それから・・・」

そこまで思い出して・・・エドは顔を顰めた。
開けようとしたところまでは、きちんと記憶にある。
両手を合わせて、鍵に触れて・・・・・その後は?


「鍵に手をあてて・・・・・・・・あと、どうしたっけ?」


エドは、呆然と呟いた―――





  『大総統閣下の愛猫』・・・2 




その後の事を思い出そうと努力するが、全く思い出せない。
うんうんと鏡の前で唸っていた猫は、最後には体の力を抜いて、うな垂れた。

「・・・だめだ、おもいだせねぇ・・・・・・」

その後記憶にあるのは、目を開けて首を傾げたところからだ。
見慣れたはずの部屋が、いつもと違って見えるのに・・・不審に思って。
キョロキョロと周囲を見回した後、自分の手を見たら、ふわふわの毛が生えてて。
ぎょっとしてレストルームに駆け込み、洗面台に飛び乗って鏡を見て―――愕然とした。
手を見たときから嫌な予感はしていたが・・・鏡に映った己の姿は、まごうことなき猫だったのだ。

エドは、改めて鏡の中の己の姿をまじまじと見つめる。
金色の毛、金色の瞳・・・そこまでは、いつもの自分と同じ。
だが、同じなのはそこだけで・・・他は全て違っている。
ぴくぴくと動く耳、黄金の毛に覆われたしなやかな体、長いしっぽ・・・・・・。

「どうみても、猫・・・だよなぁ」

ためしに、長いしっぽを動かしてみようと試みる。
すると、それは苦も無くエドの思うとおりにゆらゆらと優雅に揺れた。

「わー!おもしれぇ、本当に動く!!」

一瞬喜びかけてから―――激しく、落ち込んだ。

「喜んでる場合じゃねぇって・・・」

耳がへにょりと垂れ、先程まで優雅に揺れていた尻尾がパタリと音をたてて落ちた。
金の猫は、そのまましばしうな垂れていたが―――
程なく、何かを感じたように、垂れ下がっていた耳がピンと立ち上がった。
軽い仕草で洗面台から飛び降りると、ドアに走りより、少しだけ開いていたドアの隙間から執務室を覗き込む。
じっと廊下へと繋がる部屋のドアを見つめていると、ドアノブがゆっくりと動くのが見えた。



******



「やはり、カザルス殿はくわせものだな・・・・・」
「ええ、一筋縄ではいきません」

入って来たのは、ロイ・マスタング大総統と、リザ・ホークアイ大佐だった。

「どいつもこいつも強欲者ばかりで困・・・・・」

そこまで言って、ロイは不自然に言葉を切った。

「閣下?」
「引き出しが開いている・・・・・」

ロイは顔を顰めてそう呟いた。


『やばい・・・』


ロイの視線の先には、先程自分が開けた引き出し。
引き出しを開けたのはいいが、そのまま猫になってしまったので、閉めていなかったのだ。
エドが焦る中、ロイが引き出しの中を調べはじめた。

「閣下、何か紛失した物はありませんか?」
「ないようだ」

まぁ、重要な物はここに放置する事はないから、盗られたとしてもたいした物ではないだろうが。
そう言いつつ引き出しを閉めようとしたロイだったが・・・ハッとしたように、乱暴にもう一度引き出しを開けた。
しばらくごそごそと漁った後、重苦しい声が響いた。

「・・・・・・・・・・・ない」
「なにがですか?」

顔色を変えたロイに、リザも厳しい顔になって聞き返した。

「奥にもう一つ引き出しがあるのだが・・・そこに入れておいた物がない」
「奥・・・というと、鍵がついていたのでは?」
「ああ。鍵はかけてあったのだが・・・開けられている」
「壊されているのですか?」

覗き込むリザに、ロイは首を横に振った。

「いや、壊されてはいないが・・・錬金術で開けられた痕跡がある」
「錬金術ですか?」


ぎくっ


「ああ。しかも、中々大胆な犯人のようだ・・・ここで寛いでいたらしい」
「どういうことです?」
「大総統気分でも味わったのかな?・・・・・椅子が、まだ温かい」
「椅子に体温が残っているのですか?」

リザは引き出しを覗き込んでいた顔を上げて、ロイを見つめた。

「つまり―――まだ近くにいるということですね」


ぎくぎくっ


科白と共に、「ジャキン!」という金属音が響いて、エドの全身を覆う金色の毛が総毛立つ――――。
銃の安全装置を外したリザの隣で、ロイが獲物を狙うような鋭い目をしながら、大仰な仕草で両腕を組んだ。

「とりあえず、あのドア・・・気になるな」
「ええ・・・不自然な開き具合が、特に」

そして―――二人の視線が、同時にエドのいるレストルームの扉に向けられる。



『ひっ・・・!!』



金色の猫は、しっぽの先まで毛を逆立てた――――




猫将軍、ピンチ!(笑)
・・・なんか、いつもの大総統閣下と同じような立場に陥っちゃってます;


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