中に何が入っていたのか聞くリザの顔を見つめて・・・。
ロイは少し迷ったような顔をした後―――口を開いた。
「エディには内緒にしてくれたまえ…実は」
唇に人差し指を当てて『内緒』のポーズをした後、若干声を潜めて話し出す。
『俺に内緒・・・って、なんだよ!?』
猫の姿のエドは顔を顰めて。
そして、身を乗り出して、彼の話に聞き耳を立てた。
『大総統閣下の愛猫』・・・4 
「実はね・・・これくらいの石が入ってたんだ」
指先で石の大きさを示して見せるロイに、リザは眉を潜めた。
「石?・・・まさか、賢者の・・・?」
先程エドの名前が出た事で、リザはすぐにあの赤い石を思い浮かべたようだ。
猫のエドも一瞬息を飲むが―――ロイは、すぐに首を横に振った。
「違うよ。もう彼には賢者の石は必要ないしね?そういう類のものではなくて・・・宝石だよ」
「宝石・・・ですか?」
「彼にプレゼントしたいと思ってね・・・」
でも、裸石のままだったから・・・何かに加工してから渡そうと、引き出しにしまいこんでいたんだよ。
ロイはそう言って苦笑した。
「宝石なら盗まれてもおかしくない代物ではありますね。どのような石ですか?・・・失礼ですが、どのくらいの価値のものでしょう?」
「大きさは先程言った通り、色はハニーゴールドかな・・・・・・・・・価格は520センズ」
言われた価格に、リザは訝しげに聞き返した。
「・・・は?宝石とおっしゃいませんでした?」
「宝石だよ?クリソベルキャッツアイとか言っていたかな・・・ハニーゴールドの石の真ん中に光のラインが浮かぶ。まるで、猫の目のようにね?」
とても神秘的で美しい石だよ?
・・・ああ、この子の目に良く似ているな?
そう言って猫の頭を撫でるロイに、リザはますます顔を顰めた。
「そんな価格で買えるような物にはおもえませんが・・・?」
「ああ、普通では無理だろうね。これには少し経緯があってね・・・」
ロイは、猫の頭を撫でながら、経緯を話し出した―――
******
先日、仕事で南方に出かけた。
視察などの昼の仕事が終わり、夜のパーティまで少し間があったので、ホテル近くを散歩してみる事にして、外に出た。
私服姿で街を歩いていると、活気ある声が聞こえてくる・・・。
そこに足を向けてみると・・・今日は市が立つ日だったらしく、屋台がずらりと並ぶ路地へと出た。
南方ならではの果物や、美しい色合いの魚などを見ながら路地を進んでいると・・・屋台が途切れた路地の端の辺りの横道から、怒鳴り声が聞こえてくる。
不審に思って覗きこむと、小さなテーブルにアクセサリーを並べて売っている老婆に、チンピラ数人が因縁をつけているのが見えた。
「おいババァ!誰に許しをもらってこんなところに店を出してるんだ?」
そう凄むチンピラに、老婆はブツブツと小さい声で何か返事をしたが・・・よく聞こえなかったようで、男達はイラついたようにテーブルを蹴り上げた。
「あっ・・・」
驚いた老婆が座っていた椅子ごと地面に倒れる。テーブルも倒れ、アクセサリーがバラバラとその場に散らばった。
それを踏み潰そうと、テーブルを蹴り上げた男がまた足を上げるが。
「うわっ!?」
突然靴が燃え上がり、驚いて尻餅をついた男は、慌てて靴を脱いで放り投げた。
放り投げられた靴の火は地面に転がってすぐに消えたが・・・男は狐につままれたように呆然と尻餅をついたままだ。
「な、なんだ・・・?」
状況を把握できないでいる男達の前に、ロイが進み出る。
「・・・なんだ、テメェ?」
「お前達こそなんだ?ご婦人によってたかって」
「テメェには関係ねぇ・・・うわっ!」
ロイに食って掛かろうとした途端、パチンという音と共に火花のようなものが飛んできたかと思うと、今度は男の上着に火がついた。
男は慌てて上着を脱ぎ捨てて、ロイを見上げる。
「次は黒焦げにするが?」
こちらを見据える眼光にビクリと肩を揺らしたチンピラ達は、くもの子散らしたようにその場を逃げて行く。
男達が去った後、ロイは地面にうずくまった老婆の前に片膝をついて声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫だよ、ありがとうね」
礼をいう老婆に手を貸して、倒れた椅子を戻して、座らせる。
テーブルも元に戻し、アクセサリーも拾ってやった。
「これで全部でしょうか?」
足元にあったアクセサリーを拾い集めて、テーブルに乗せてやる。
一つ一つ並べていく中・・・最後に手の中に残ったものをみつめ、首を傾げた。
「これは・・・どれかから外れてしまったのかな?」
手の中に残ったのは、美しい石。
老婆の売っていたアクセサリーは、色ガラスを宝石に見立てた物をはめ込んだペンダントが主だったから、その中のどれかがとれてしまったのかと、今しがたた並べたばかりのアクセサリーを見ていく。
だが、石が外れてしまった形跡があるものは見当たらなかった。
訝しく思いつつその石を改めて見つめる。
『これは…ガラス玉じゃない?』
手の中の美しい石は、ガラスを加工したものではないと思えた。
まがい物では出ない輝きを感じて、手の上で転がすと・・・真ん中に光の筋が出来ているのに気がつく。
一瞬で、まるで猫の目のようなその輝きと、恋人を思い出すハニーゴールドのカラーに心が奪われた。
「・・・ご婦人、これは商品でしょうか?もしそうなら私に売っていただけないか?」
気がつくと、老婆にそう言っていた―――