「この石が・・・見えるのかい?」 「は?」 「いや。・・・この石が欲しいのかい?」 「ええ」 頷くと、老婆は少し考えてから言った。
「欲しいなら、ゆずってあげるよ・・・お前さんにはその権利があるからね」 ロイは老婆の言葉に首を傾げる。 『この婦人に気に入られないと売ってもらえないということか?』
「お前さん、運がいいね・・・これは、願いが叶う石なんだよ」
「願いが叶う石・・・?」 願いが叶うなどという、非科学的な老婦人の言葉に苦笑しつつも、いつも心に掲げている望みを言ってみるが―――老婦人は、首を横に振った。
「そんな願いは駄目だね・・・これは持ち主の利益に直結した願いを叶える石なんだ。そんな大層な願いじゃなくて、もっと個人的なものでないと」 そういう老婦人に、ロイは笑った。
「・・・困りましたね。食べるのには困らない資産はありますし、それ以上の金をもらっても使う時間がない。恋人は・・・今最高の恋人に恵まれていますので、他にはいりません」 苦笑するロイに、老婆は笑って言った。
「そういうわけじゃないが・・・どうする?特に願いがないなら、この石はいらないかい?」
それとも、願いのない私には、手に入れる権利がなくなってしまったのでしょうか?
「いや、そんな事はないさ。そうやって手に持っている時点で、お前さんにはそれを手に入れる権利があるよ―――さて、代金の話になるが・・・」 老婆の科白に再び首を傾げながら・・・ロイはコートの内ポケットに手を入れて財布を出そうとして―――ハッとした。 「しまった・・・」
散歩のつもりで出たので、財布を忘れて来てしまった。
「どうしたんだい?」
ああ、ここだとまた先程のような輩がくるかもしれません・・・もう少し大きな通りにでて、カフェにでも入って待っていていただけないでしょうか?
「・・・困ったね、これを譲り渡すのには、今この場でじゃないと」 そう言って、石をテーブルの上に置こうとしたのだが。
「放したら、もう手に入れられなくなるよ」 老婆の言葉に、石を置こうとした手を止めて、彼女を見る。
「放したら、もうお前さんのものにはならなくなる。欲しいなら、放しちゃいけない」
老婆の科白に困惑しながらも、石をもっていない方の手で、コートのポケットを探る。 『これは・・・』
それは、この視察に来る前に、エディに寄越されたものだった。
そう言って何気ない風に渡されたそれを見て、笑った。 「なんだか懐かしいな・・・覚えてたのか」
大総統になっても返してくれないから、忘れたと思っていたよ。
「大総統になっても信用できねぇから、返せなかったんだよ」
・・・オレを置いて、自分だけ犠牲になるような選択は、もうしないだろう?
「そうだな・・・君を悲しませる選択は、したくないな」
でも、また心配になったら借り直すからな!
返されたそれを、そのままポケットに入れて旅立ったのを思い出しつつ、呟く。
「なんだ、あるじゃないか」
ロイは少し躊躇したが。
「まいどあり・・・じゃあ、その石はお前さんのもんだよ」
すぐに戻ってきますので、少しだけここで待っていてください。 「お待たせしました。今、足りない分の代金が届きますので・・・」 再び路地に入ってそう声をかけたが。 「いない・・・」 すでに、老婆の姿はそこになかった―――
だから、品物の本当の価値とはいえないが、あれは520センズなんだよ。
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ありがちですが、怪しい老婆から手に入れた模様。(笑)