拍手ログB 『天使な小悪魔』・・・10 


「ん・・・・・なんだ?」

朝、ロイは鼻をくすぐる、ありえない匂いで目が覚めた。
のろのろと体を起して、ゆっくりと室内を見回して・・・そして、ある事実を思い出す。
そして、その匂いの原因も思い当たった。

昨日から、鋼の錬金術師がここにいる。

いろいろあって、やむを得ず彼をここに迎え入れたロイだったが・・・・・・ なんと言っても相手は悪魔である。
内心では戦々恐々としつつ自宅ドアをくぐったのが、昨日の深夜の日付が変わろうかという頃。
だが、予想に反して、彼は飛びついてくるでもなく迫り倒すでもなく・・・・・・
昨晩は彼の手料理を食べながら、それなりに会話が弾んだ。

『やはりいつもの態度は、虫除け効果と・・・後は面白半分なのだろう』
それならばギャラリーがいないここではパフォーマンスする必要もないし、安心だろうと思われた。
が、そう思ったのもつかの間。
やっぱり最後にはシッポがピョコリ。
相変わらず、それが本気なのかゲームなのかはわからないが、ただ一つ言えること。

『誰が、胃袋ごときであんな子供に落とされてたまるか!!』

アレの意図がどこにあるのか知らんが、この私が『男の子供』などに心奪われる事などあるものか。
――――単に『純粋にノーマル』なだけか、それとも『タラシ』と呼ばれた男の意地か?(笑)
ロイは鼻をフンと鳴らすと、着替えを済ませてダイニングに向かった。

先ほどの決意も新たに、ドアを開けると・・・・・



「あ、起きた?朝食出来たから、起こしに行こうかと思ったところだった」


そう言って振り返るエドに・・・・・・ロイは固まった。

テーブルの上にはベーコンエッグ
焼き立てのトーストは、綺麗な狐色をつけてトースターから飛び出したとこ
サラダのトマトは艶やかで
コンロの鍋からは、美味しそうなスープの香り。
そして、おたまを手にこちらを振り返る彼は・・・・・・・・・

「大佐?」
「そ・・・・・・・」
「え?」
「その格好は、なんだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


エドの格好。
白い大きなシャツ(多分ロイの)、以上。


・・・・・・・つまり、彼はワイシャツ一枚の格好なのだ。
長さの合わない袖は肘までまくってあり、
ボタンが二つ外された胸元からは、白い肌がチラリと覗く。
下は穿いていないため、シャツの下からは太もも以下のすらりとした足をおしげもなく出して。
足元は素足にスリッパ。
いつもきっちり三つ網に編んである髪は無造作に一つに括られて、動くたびにシッポのように揺れている。


・・・・・・・男のロマンを彷彿とさせるようないでたちで、彼はそこに立っていた。


「何でって・・・・・・不味かったか?」
「・・・・・・・どうしてそんな格好をしてるんだ」

先ほどの『落とされてたまるか!』という強い決意はどこへやら?
あまりのインパクトに耐え切れず、ロイは頭を抱えてガクリと床に膝をつく。
エドは、そんなロイに眉を顰めた。

「オレ、いつもパジャマとか持って歩かないんだよ。宿で寝るときもパンツいっちょ・・・だし。
でもさ、その格好のままうろうろしてたらアンタに怒られると思って。
追い出されたら困るし、考えて・・・・・・洗濯物の中にあったこのシャツ借りた。
・・・・・・・これでも気をつかったんだけどなぁ?」

シャツの胸のあたりをつまんで、本気で不思議そうな仕草。
どうやら今回は『悪魔の所業』ではなく、珍しくサターンな意図無くしたことのようだ。
いくら真性の小悪魔で、言葉や仕草で常にまわりを翻弄しようとも――――
彼は別に恋愛経験が豊富なわけでも、
複数の男を『故意』にタラシまくっているその道のスペシャリストな訳でもない。
『男のロマン』はどうやら彼の知識下にはなかったようである(笑)

「服を着ればいいじゃないか!!」
「ここんとこ雨で洗濯できなかったから、今朝全部洗った。今日は出かける予定もないし―――天気良いし。」

彼が指し示す窓を見上げると、なるほどいい天気。
彼が開けたのか、窓から入り込む爽やかな風と小鳥のさえずり。
用意された朝食は美味しそうに湯気を立てていて、本当に絵に描いたような爽やかな朝の風景。


・・・・・・・・なのにアレだけ、まったくもって爽やかじゃない。


「大佐ってさ、潔癖症?男同士でもちゃんと服着てないとダメな人?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「下着姿って訳じゃないし、Tシャツ短パンくらいの露出度だろ?
初対面とかならともかく、それほどマナー違反じゃないって思ったんだけどなぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「しかも、アンタとオレは恋人同士だし・・・このぐらいいいんじゃ」
「誰が、恋人同士かっ!!」
「あ、ちゃんと聞こえてんじゃん!返事しろよ〜」
「うるさいっ!とにかく何か着ろ!!」
「そんなに怒る事か?理由をいえ!!」

少しムッとしたらしいエドは声を荒げながら、床にヘタリ込んでいるロイの目の前に進み出た。
腕をくんで、「さあ言え!!」とばかりに見下ろすと、不自然に逸らされた・・・・・視線。
それを眺めて、少し驚いたような表情をした後―――――――エドはニヤリと口の端を持ち上げた。

「そっか・・・・・・・なるほど」
「・・・・・・・な、なんだ?」
「この格好って・・・・・もしかして、そそる?」
「・・・・・・・!!(冷や汗ダラダラ)」
「なるほどなるほど・・・・・オレ、わかんなかったよ。大佐、こういうのが好きなんだ?」
「違う!!別に私の趣味とかじゃなく、一般的に男なら・・・・・・!!」
「男なら、そそられる格好なんだ?」


じゃあ、やっぱりアンタもそそられてくれてるんだ?


言ったが早いか、間合いを詰められて―――
小悪魔の白い腕がするりと首に巻きついてくる。
語るに落ちた男は、床に尻餅をついて顔面蒼白。

「我慢しなくても、いいよ?・・・・・アンタのスキにして?」
『〜〜〜〜っ!!』
「大佐・・・・・・・・・」
エドの唇がロイのそれに近づいた、その時。


ボ―ン ボーン・・・・・


「あれ?!もうこんな時間?早く飯食わないとアンタ遅刻すんな?」
「あ?ああ・・・・・」
「昨日、ホークアイ中尉と『オレが滞在中は大佐の面倒しっかり見る』って約束しちゃったんだよ。
遅刻させたら俺の責任にもなっちまう!朝の『スキンシップ』はこの位にして、飯食おーぜ」

先ほどの怪しい色気はどこにしまってしまったのか?
エドはあっさりと身を引いてキッチンに向かっていった。
「助かった・・・・・・」
その後姿を見ながら、ロイは中尉への感謝を胸に安堵のため息を吐いたのだった。



その後『練成しなおしていいから』とシャツとスラックスを彼に押し付け、
着替えたエドと一緒に彼の用意した朝食を食べて。
迎えの車のクラクションを聞いて、待ちわびた仕草で玄関に向かった。

「じゃ、いってらっしゃい」
「・・・・・・・・・ああ」

外まで見送りにきた小悪魔の挨拶に答えてそそくさと車に乗り込んだ時、閉めようとしたドアを押えられた。
見上げると、悪魔の微笑み。

「今朝の続き・・・・・・・帰ってからねv」
「〜〜〜〜〜さっさと出せ!!」

バッタンと大きな音が出るほど、ロイはドアを勢いよく閉める。
切羽詰ったような上司の命令に、ハボックは首を傾げながら車を急発進させた。
ルームミラーを覗くと、エドが手を振っていた。・・・・・にこやかに。

「なにかあったんスか?」
「ハボック・・・・・・・今夜、泊めてくれんか?」
「嫌です」

大将に嫌われたくないですもん。
しれっとそう答えるハボックに、『私には嫌われてもいいのか!?』そう怒鳴りつけるロイだった。



******



ヨロヨロと出勤して
先ほど、図らずも助けてくれた副官に内心で感謝を込めつつ、朝の挨拶をすると・・・・・
ロイが遅刻しないで現われた為、彼女は上機嫌だった。

「おはようございます。さすがエドワード君、ちゃんと遅刻しないように送り出してくれたんですね。
え?朝食も召し上がっていらしたのですか?
それはすばらしいですね!朝きちんと食べると脳が活性化されて午前中の業務もはかどります。
ああ、やはり家に誰か居てくれるというのはあなたの体調管理に有効ですね」


いっそのこと、彼を嫁にもらいませんか?


珍しく満面の笑顔を向ける副官にロイは顔を引きつらせた。



ハボックといいリザといい・・・・・・・私の味方はいないのか!?

―――――――――――――――――――――そう涙するロイだった。




朝から苛められてます・・・・・可哀想に。(なら書くなよ)
初ホークアイ中尉登場!世渡り上手な小悪魔は、彼女には気に入られようと努力しているようです(笑)


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