拍手ログB 『天使な小悪魔』・・・15 


カーテンの隙間からしっとりとした月光が入り込む。
その月の光を受けて、腕の中の金の髪がキラキラと煌く。
そっと指に絡めて放すと、さらさらと零れ落ちる感覚。
心地よい感覚に、同じ行為を何度も繰り返しながらロイは腕の中の金色を見つめた。

「君は、なぜ私の腕の中でそんなに無防備に眠れるのかな?」

小さな呟きが、闇の中に消えていった―――――



******



あの夜、彼を腕に抱きしめて眠った。

一口飲んだ強い酒のせいか
それとも人肌の温もりが心地よかったのか
あの後、彼を腕に抱きこんだまま横になると
彼は間もなく糸がぷっつりと切れたように、あっさりと眠りに入っていった。

ある程度、信頼されているのだと・・・・・思う。
あれほど眠れないでいたのに、自分の腕の中ではあっさり寝付く彼に、何か嬉しさのようなものを感じ
そして同時に、切なさのようなものも感じて――――複雑な表情で彼を見つめた。


いつも、人をやりこめて悪魔のように微笑む彼。
でも、彼が心の底から笑っている時など無いと感じていた。

私のことを好きだと言うくせに、心は相変わらず閉ざしたまま。
たまに心の内が垣間見えそうになると、
さっと『小悪魔』という名の仮面をかぶって―――――彼は、妖艶に笑う。
あの笑みが、気に入らなかった。
心の見えない、あの笑みが。

『なぜ、君はそんなに背負い込むのだろうなぁ?』

人間、辛い時は泣いたっていい筈だ。
事あるごとに泣いてばかりは問題だが、どうしても耐えられない時、涙を落とすぐらい誰だってある。
それは大人でさえあることだ。
ましてや、君はまだ子供の範疇だろう?
信頼している者の腕の中でなら、感情をぶちまけて思いっきり泣いても許されるはずだ。
なのに、君はそんな時も空ろな笑いを浮かべるだけ。

泣けばいい。
取り乱してもいい。
―――――――もう嫌だと、言ってみればいい。

どうせ言ってみた所で、君が本当に弟の事を諦める訳などないのだから、
嘘でも―――そう叫んで癇癪を起こした幼子のように心を解放してみれば、意外にスッキリするかもしれない。
そして、また新たな気持ちで進めばいい。
だが―――――

君は、泣かない。
君は、心を曝け出さない。
嫌だなんて―――――例え寝言でも言わないだろう。

そんな君に、どうしようもないほど怒りが湧いた。
自分の体も省みず、少しも頼ろうとしない君に、苛立った。
だから―――――



本当は、抱いてしまおうかと思った。



極限まで身も心も疲れ果てているのに、それを全て隠して笑う彼を見て―――
眠れないなら、泣かせてでも、意識を失わせてでも寝かせてやる!と―――凶暴な気持ちが湧いた。
動揺と怯え・・・・・・・・・珍しく、感情が見え隠れした瞳。
このまま抱けば一時だけでも彼を解放してやれるような気がして、彼をシーツに沈めた。

だが、抱かれる事を覚悟した君の瞳から、感情が消えた。

さっきまでは確かに感情が見えていたのに、
抱かれる事を決めたらしい君は、いつものように妖艶に笑った。
その瞳からは、また感情が消え去っていた―――――――――

鳴かせて、喘がせて――――そうしたら、また感情が引きずり出せるかもしれない?

だが・・・・・・何故か、無理だと思った。
己の中の何かが、駄目だと警告を出す。



抱いてしまえば、彼の中の何かを壊してしまうような気がして、仕方なかった――――――――――



******



『抱いてしまえば、か。』

男で子供。全くもって範囲外。
・・・・・・・・・・・・・・・・・それでも、行為自体に嫌悪などは感じない。
この容姿だから―――――――体を抱くのにはさほど抵抗はない。
だから、怒りに任せて彼を抱こうとした。


だが、彼を抱こうとしたのは――――――本当に怒り任せの眠らせる手段なだけだったのか?


ロイは己に自問自答する。

後見人だから、心配するのは当然だ。
だが・・・・・後見人の立場だけで、そこまでしなくてもいい筈だ。
あの日自分が激高したのは、彼が自分の体を省みないのに腹を立てたからだが、
・・・・・果たして、それだけか?
彼が、頼ってこないのが・・・・・私にさえ、ほんの少しも寄りかかろうとしないことが、
それが、堪らなく悔しかったように――――――思う。

クルリ、とまた金糸を指に絡める。
そしてまた放すとサラサラと零れ落ちる。
起してしまうかもしれないから、止めなければと思うのに――――――止められない。

やはり―――――



やはり、私も彼に惹かれているのだろうか?



君を抱いて眠るのは、もう三日目。

あの日から、君は少し表情が穏やかになった。
あれ以来小悪魔な攻撃をよこす事もなく。
朝は朝食を作って私を送り出してくれ、
昼は大総統からの文献を読み、
夜はまた君の作った食事を一緒に食べる。
そして―――食後は君は紅茶を、私は酒を片手に、昼に彼が読み進めた文献についての意見を交わす。
散々討論して夜もふけた頃、『そろそろ寝なさい』と促すと、『一緒なら、寝る』との返事。
子猫のようなねだる瞳に負けて、あれから毎日彼を腕の中に収めて眠っていた。

そうしてベットに入ると、眠れないと言うのが嘘だったかのように、彼はすぐに眠りに落ちる。

彼の寝息を聞きながら、思う。
『君は、なぜ私の腕の中でそんなに無防備に眠れるのだろうか?』と。
あの夜、君を子ども扱いして寝せつけたから、安心しきっているのか。
それとも、抱かれてしまってもいいと思っているから、身をゆだねているのか。

結局、君にとって私はなんなのだろう?
そして、私にとって、君は・・・・・・・・・・・・・・?

あの日から、よく眠るようになった子供とは裏腹に
あまり良く眠れなくなった大人が一人。
闇の中で、大人がため息を吐いた時――――――――子供が僅かに身じろいだ。

「んっ・・・大佐・・・・・・?」



声とともに閉じられていた瞼が開き、貴石の瞳がロイを見つめていた。




やはり、シリアス部分になるとテンポが悪いですねぇ・・・・・
でも、書きたかったとこは書いとかないと!―――――頑張ります(苦笑)


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