拍手ログB 『天使な小悪魔』・・・16 


「大佐・・・・・?眠れないの?」

ごしごしと、幼子のように目を擦りながらエドが問い掛けてきた。
やはり起してしまったか・・・・・・・
ロイは少し反省しつつ、指に絡めていた髪をはずした。
ため息を付いたロイに、エドは目を擦るのを止めて、チラリと視線を寄越す。

「あのさ・・・・・もしかして、オレのせい?」

心臓が、どきりとひとつ跳ねる。
どう誤魔化そうかと迷うロイ。
だが、エドの口から出た言葉は―――――

「やっぱさ・・・人と寝るのって、落ち着かないんだろ?」

オレ、無理矢理ベットに入り込んでたしなぁ・・・・・
エドは珍しく反省しているようで、叱られた子供のように視線を落としている。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・ははっ。


心の内が見透かされたかと内心焦っていたロイは、
『そっちの意味か』と、思わず笑ってしまった。

「・・・なんだよ、折角珍しくオレが反省してるのに!」
「いや、悪魔な君ばかり見ているので、愁傷な君をみるとなんだか・・・・・・」
「へぇ?――――やっぱ、大佐の好みは悪魔モード?なら、ご期待に答えて・・・」

小悪魔が混じりだした口調に、ロイは慌てて首を横に振った。

「いや、いいっ!悪魔は結構だ!間に合ってる!!」
「・・・・・そんな、押し売りのセールスマンを断るような言い方すんなよ?」
「折角、珍しく子供らしくて可愛いんだから、このままでいてくれたまえ。」
「――――――――――なんか、すっげぇムカつくんだけど?」

むう、と拗ねたように頬を膨らませたエドだったか、でもペットから起き上がる気配はない。
それどころか、スリッと擦り寄るような感じで、ロイの胸に顔を埋めてくる。

「ムカつくけど・・・・・・・・・・・・・・・ここ、気持ち良いから許してやる」
「それは光栄だ、王子様?」
「誰が王子だっつーの!」
「傍若無人でオレ様なところとか、なんだかしっくりくるだろう?」

くすくすと笑うロイに、べっと舌を出して見せてから―――――また、胸に顔を埋める。

「鋼の?」
「邪魔じゃ・・・・・ない?」
「・・・・・・・・・・・何かを抱いて寝るのは、結構好きでね」
「――――どーせ、香水の匂いがする柔らかい『抱き枕』なんだろ?」
「おや、バレたか。」
「普段の素行を見れば、バレバレだっつーの。・・・・・・・・・・ま、いいや」

そんでも、ここ・・・気持ち良いから。
そう言って瞳を閉じるエドを、ロイは複雑な表情で見つめる。


―――――女性を揶揄した表現にも、大して妬く素振りはない・・・・・か。


やはり、彼が自分に寄せる思いは、子供が親に寄せる感情と似たものなのだろう・・・・・
変に大人びてしまった彼だから、まるで恋愛感情かのように振舞うが、結局の所やっぱりそれだったのか。
『それならそれの方が良いに決まっているのに』
首をもたげそうになる切ない感情に、ロイは強制的に蓋をして――――切りだした。

「今日、アルフォンス君が司令部に電話をくれたよ」
「!!」
「任務だと言って出かけてから連絡がないので、心配だと。・・・本当に任務なのかと聞いてきた」
「・・・・・・・」
「そうだと答えておいた。”まだ目処がついていないようだが、帰れそうな時に電話させよう”と約束して電話を切った」
「サンキュ・・・・・」

エドはロイの胸から顔を放して、今度は枕に顔を埋めた。

「あえてアルフォンス君には聞かなかったがね・・・・・・まだ言う気にならないか?」
「・・・・・・・・」

黙り込むエドにやれやれとため息を付き、また寝るか・・・・・と、彼を抱き寄せようとして手を伸ばした。
その手が触れる刹那、

「アルが――――――」
「―――――――うん?」
「アルが、元に戻れなくてもかまわないから、旅をやめようか・・・って」
「何故?」

ロイの問いかけに、ノロノロと体を起したエドは、おもむろにシャツの釦を外し始めた。
驚きに目を見開くロイの前に、エドの白磁の肌が暴かれていく。
釦を全部外して、肩から滑り落ちたシャツは辛うじて両腕に留まっている。
その状態で、エドは後を向いた。
露になった背中には――――――たくさんの傷と、痛々しく変色した打撲の痕。
その紫色に、ロイの顔が歪んだ。

「この前、ちょっとトラブルに巻き込まれてさ。その時打ったんだよ。
結構強く打っちゃってさ、一緒に頭も打ったら打ち所が悪かったのか、
大して傷もないのに・・・・・・三日意識がなくって。
目が覚めたら、病院のベットで――――――――アルが不安そうについててくれた」
「・・・・・・」
「傷は細かいものばっかだったし、意識が戻ったからいいやと直ぐに出発する事にしたんだ。
アルは『ちゃんと精密検査してからにしよう』とか、止めたんだけど。オレ、とにかく時間が惜しくて―――
無理矢理旅に出て、2日したらアルが急に『リゼンブールに帰りたい』と言い出したんだ」

頑として譲らぬ弟に負けて、先日のトラブルで少し機械鎧が傷ついていた事もあり、故郷に帰った。
故郷に帰って、機械鎧を直し終わって・・・・明日出発しようと弟に話し掛けた時。
弟は――――――――――『もう、やめよう』と言った。
唖然として聞き返すと、アルはもう一度はっきりと言いきった。


『兄さん・・・・・僕はもうこのままでもいいから、旅は止めない?』


頭を殴られたようなショックに、一瞬息が止まった―――――――――


ああ、終らない・・・・・おわらないよぉ(T_T)
なるべく早く続きをあげたいです・・・・・・・・・。


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