「大佐・・・・・?眠れないの?」
ごしごしと、幼子のように目を擦りながらエドが問い掛けてきた。
やはり起してしまったか・・・・・・・
ロイは少し反省しつつ、指に絡めていた髪をはずした。
ため息を付いたロイに、エドは目を擦るのを止めて、チラリと視線を寄越す。
「あのさ・・・・・もしかして、オレのせい?」
心臓が、どきりとひとつ跳ねる。
どう誤魔化そうかと迷うロイ。
だが、エドの口から出た言葉は―――――
「やっぱさ・・・人と寝るのって、落ち着かないんだろ?」
オレ、無理矢理ベットに入り込んでたしなぁ・・・・・
エドは珍しく反省しているようで、叱られた子供のように視線を落としている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・ははっ。
心の内が見透かされたかと内心焦っていたロイは、
『そっちの意味か』と、思わず笑ってしまった。
「・・・なんだよ、折角珍しくオレが反省してるのに!」
「いや、悪魔な君ばかり見ているので、愁傷な君をみるとなんだか・・・・・・」
「へぇ?――――やっぱ、大佐の好みは悪魔モード?なら、ご期待に答えて・・・」
小悪魔が混じりだした口調に、ロイは慌てて首を横に振った。
「いや、いいっ!悪魔は結構だ!間に合ってる!!」
「・・・・・そんな、押し売りのセールスマンを断るような言い方すんなよ?」
「折角、珍しく子供らしくて可愛いんだから、このままでいてくれたまえ。」
「――――――――――なんか、すっげぇムカつくんだけど?」
むう、と拗ねたように頬を膨らませたエドだったか、でもペットから起き上がる気配はない。
それどころか、スリッと擦り寄るような感じで、ロイの胸に顔を埋めてくる。
「ムカつくけど・・・・・・・・・・・・・・・ここ、気持ち良いから許してやる」
「それは光栄だ、王子様?」
「誰が王子だっつーの!」
「傍若無人でオレ様なところとか、なんだかしっくりくるだろう?」
くすくすと笑うロイに、べっと舌を出して見せてから―――――また、胸に顔を埋める。
「鋼の?」
「邪魔じゃ・・・・・ない?」
「・・・・・・・・・・・何かを抱いて寝るのは、結構好きでね」
「――――どーせ、香水の匂いがする柔らかい『抱き枕』なんだろ?」
「おや、バレたか。」
「普段の素行を見れば、バレバレだっつーの。・・・・・・・・・・ま、いいや」
そんでも、ここ・・・気持ち良いから。
そう言って瞳を閉じるエドを、ロイは複雑な表情で見つめる。
―――――女性を揶揄した表現にも、大して妬く素振りはない・・・・・か。
やはり、彼が自分に寄せる思いは、子供が親に寄せる感情と似たものなのだろう・・・・・
変に大人びてしまった彼だから、まるで恋愛感情かのように振舞うが、結局の所やっぱりそれだったのか。
『それならそれの方が良いに決まっているのに』
首をもたげそうになる切ない感情に、ロイは強制的に蓋をして――――切りだした。
「今日、アルフォンス君が司令部に電話をくれたよ」
「!!」
「任務だと言って出かけてから連絡がないので、心配だと。・・・本当に任務なのかと聞いてきた」
「・・・・・・・」
「そうだと答えておいた。”まだ目処がついていないようだが、帰れそうな時に電話させよう”と約束して電話を切った」
「サンキュ・・・・・」
エドはロイの胸から顔を放して、今度は枕に顔を埋めた。
「あえてアルフォンス君には聞かなかったがね・・・・・・まだ言う気にならないか?」
「・・・・・・・・」
黙り込むエドにやれやれとため息を付き、また寝るか・・・・・と、彼を抱き寄せようとして手を伸ばした。
その手が触れる刹那、
「アルが――――――」
「―――――――うん?」
「アルが、元に戻れなくてもかまわないから、旅をやめようか・・・って」
「何故?」
ロイの問いかけに、ノロノロと体を起したエドは、おもむろにシャツの釦を外し始めた。
驚きに目を見開くロイの前に、エドの白磁の肌が暴かれていく。
釦を全部外して、肩から滑り落ちたシャツは辛うじて両腕に留まっている。
その状態で、エドは後を向いた。
露になった背中には――――――たくさんの傷と、痛々しく変色した打撲の痕。
その紫色に、ロイの顔が歪んだ。
「この前、ちょっとトラブルに巻き込まれてさ。その時打ったんだよ。
結構強く打っちゃってさ、一緒に頭も打ったら打ち所が悪かったのか、
大して傷もないのに・・・・・・三日意識がなくって。
目が覚めたら、病院のベットで――――――――アルが不安そうについててくれた」
「・・・・・・」
「傷は細かいものばっかだったし、意識が戻ったからいいやと直ぐに出発する事にしたんだ。
アルは『ちゃんと精密検査してからにしよう』とか、止めたんだけど。オレ、とにかく時間が惜しくて―――
無理矢理旅に出て、2日したらアルが急に『リゼンブールに帰りたい』と言い出したんだ」
頑として譲らぬ弟に負けて、先日のトラブルで少し機械鎧が傷ついていた事もあり、故郷に帰った。
故郷に帰って、機械鎧を直し終わって・・・・明日出発しようと弟に話し掛けた時。
弟は――――――――――『もう、やめよう』と言った。
唖然として聞き返すと、アルはもう一度はっきりと言いきった。
『兄さん・・・・・僕はもうこのままでもいいから、旅は止めない?』
頭を殴られたようなショックに、一瞬息が止まった―――――――――