試験会場を出てから、周りに人がいないのを確認して、ロイは切り出した。
「いったい、何のつもりなんだ?」
目線よりだいぶ下にある金色の頭を睨みつつそう告げると、
声に反応して、金の頭がこちらを振り向いた。
結構な怒りを含ませた声色だった筈なのだが、金の瞳は臆することもなく、悪戯っぽくくるりと動いた。
「そう、カッカすんなよ?」
「―――これが、怒らずにいられるか!!」
先ほどの国家錬金術師の実技試験最中に、選りにもよって12のガキに求愛された。
しかも、そのガキは男で。
その上、告白されたのは大総統や他の士官達の前ときた!
士官達からはなにやら白い目で見られるし、
大総統に到っては、もんのすご〜〜〜〜〜〜く、楽しそうで。(涙)
『そして、挙句の果てに・・・・・!!』
ロイは先ほどのことを思い出して、握った拳に力を入れた。
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「・・・さすがマスタング君。君のような可愛い少年の心まで掴むとは―――色男冥利につきるな?」
にこにこと、食えない笑顔を寄越す大総統に、顔を引きつらせる。
だが、そんなロイの顔色はお構いなしに、少年は『一見純粋無垢そうな可愛らしい顔』で質問する。
「やっぱ、モテんの?あの人?」
「ああ、女性軍人達が騒いでいるのが私の耳にも入っているよ?」
「ちぇー、やっぱりそうか」
「私も応援してあげようか?」
「うん?」
「私がお願いすれば、彼は聞いてくれるかもしれない」
さあっと、ロイの顔から血の気が引く。
だが、少年はあっさりと首を横に振った。
「いらねー。自分で落とさないと、意味ないじゃん?」
「ふむ。なかなか君は男前だな―――。勝算はあるのかい?」
「そりゃ、これからだよ。まずは自分の魅力をあげないとね・・・・・・・
そうだ!なぁ、やっぱり応援してくれよ?」
「どういった風にだね?」
「子供なのは時が解決してくれるだろうから、とりあえずスキルUPってことで、錬金術師としての能力を上げたい。
まずは一目置かれるように自分の研究を頑張りたいから、それに必要な資料とか文献とか・・・・・
オレに手が届かないものがあるとき、アンタを頼ってもいいか?」
「―――――いいだろう。君の能力が上がるということは、軍としても願ったりだ」
「じゃ、交渉成立ってことで・・・・・って、まずは試験に受かんないとな・・・大総統?」
「・・・・・・君の銘を考えないといけないな?楽しみにしていたまえ」
事実上の『内定』告げるような科白を残して、今度こそ大総統は試験会場を後にした。
ロイはいまだ顔色をなくしたままその後姿を見送り、次に少年に視線を移すと―――
それに気が付いたように彼はこちらを振り向いた。
ロイを見つめて、薄桃色の小さな口元がニヤリと笑う。
途端、ロイの眉間に皺が寄った。
・・・・・・それは、どうみても『愛しい男』に向ける笑いではない。
目的のために手段を選ばぬ、したたかな笑み――――
『・・・・・・・こんの、クソ餓鬼!!』
未だ士官達は会場に残っている為、ロイの罵声はその場で口を出ることはなかった――――