拍手ログB 『天使な小悪魔』・・・3 


『思い出しても、腹がたつ!!』
怒りに震える男を一瞥して、少年はやれやれとでも言ったふうに、肩を竦めた。

「・・・・・なに?『人体練成をして奪われた体を取り戻す為』って言っちゃった方が良かった?」

しれっと、そんな風に返す少年に、男の怒りのボルテージは更に上がる。

「くだらない嘘をつかなくても、誤魔化す術はあっただろうと言っているんだ!」
「んー?でもさ、お陰で試験の内定も即刻もらっちゃったし、大総統自らの協力を得られることになったし?
いいことずくめだったじゃん?」

ああいう人ってさ、面白いこと好きなんだよね、大抵。
案の定ノッってくれたし、気に入られたし、よかったじゃん?
そう言いながら、クスクスと笑う。

「お前はよくても、私は迷惑だ!!」
「えー?推薦人として、試験に通るのはいいことだろ?」
「あんな馬鹿なことを言わなくても試験は通ったはずだ」
「・・・へぇ?実力は認めてくれてるんだ?」
「ああ、錬金術師としての能力は認めているさ。そうでなければ推薦などせん」

ただし、こんなに性格が捻じ曲がってるとは思わなかったがな。
忌々しそうにそう言う男を面白そうに眺める。

「まぁ、終わったことだし、くよくよすんなよ?」
「お前が言うな!!・・・・・・妙な噂になったら、どうしてくれる」
「大丈夫だよ。アンタモテそうだしさ、こんくらいの噂で女がよりつかなくなるなんて事ねーよ」

その点では、オレも罪悪感が少なくて済むから、助かるよ。
胸に手を当て、ホッとしたといった素振りをわざとらしくする子供。
それを見て、ロイの額にますます怒りマークが浮かぶ。
その顔には『お前にそもそも罪悪感などあるのか?!』と、書いてある。
男の様子をながめ、少年はふぅ、と一つ息を吐いた。


「悪かったよ、ごめんな?・・・でもさ、どうやら長い付き合いになりそうだし?よろしく頼むよ」

あっさりと謝って、『仲直り』とでも言うように手を差し出す少年を、ロイはまじまじと見つめた。

本当に、これがあの時の少年なのだろうか?と、心底思う。
初めて会った時の、空ろな瞳は、そこにはもうない。
確かに、別れ際にその瞳に焔が灯るのを目の当たりにした。
だが、あれからたった一年―――
リハビリに三年はかかるだろう機械鎧を、一年で何事もなかったかのように使いこなし、
空ろだった瞳には、小さな焔どころか、苛烈なまでの光を宿している。

『厄介な奴だが・・・・・この精神力には感服するな』

手元に置くのが、吉と出るか、凶とでるか?
難しい所だが―――――確かに、簡単に手放すには惜しい魅力を持っている。
ならば・・・・・飼いならしてみるか?
自分も手を差し出すと、少年はにこり、と初めて年相応の可愛らしい笑顔をよこした。

『顔だけ見れば、天使のようなのだが・・・・・・な』

見事なまでの金色の髪に、類稀な金の瞳。美しい顔立ち。
――――姿かたちは、本当に天使のようだ。
短い握手の間、ロイは少年の容貌をそう観察する。

お互いの手が離れた時、少年は『あっ』と小さい声をあげた。
訝しげに見下ろすと、小さな口元に手を添えて、屈むように手招きされた。
内緒話でもあるのか?
腰を落として耳を少年に向けると、こちらの肩につかまり、爪先立ちする気配。


ちゅっ


頬に感じた柔らかい感触に、目が点になる。
慌てて離れて、振り向くと―――――

「言い忘れてたけど、アンタが好みなのは、本当。・・・・・本気で狙ってみようかなー?」

じゃ、オレはホテルにもどるから。
本気とも冗談とも付かない科白を残し、
底意地の悪い笑みを浮かべつつ、少年はヒラヒラと手を振って去って行った。


一人残された、男は呟く。

「・・・天使なんかじゃ、断じてない!!」

悪魔だ。絶対に、悪魔だっ!!!
ロイは内心でそう叫んだのだった――――





どうしよう・・・・・・このエド書くの、本当に楽しくて仕方ない(笑)


back    next    MEMO帳へ