『思い出しても、腹がたつ!!』
怒りに震える男を一瞥して、少年はやれやれとでも言ったふうに、肩を竦めた。
「・・・・・なに?『人体練成をして奪われた体を取り戻す為』って言っちゃった方が良かった?」
しれっと、そんな風に返す少年に、男の怒りのボルテージは更に上がる。
「くだらない嘘をつかなくても、誤魔化す術はあっただろうと言っているんだ!」
「んー?でもさ、お陰で試験の内定も即刻もらっちゃったし、大総統自らの協力を得られることになったし?
いいことずくめだったじゃん?」
ああいう人ってさ、面白いこと好きなんだよね、大抵。
案の定ノッってくれたし、気に入られたし、よかったじゃん?
そう言いながら、クスクスと笑う。
「お前はよくても、私は迷惑だ!!」
「えー?推薦人として、試験に通るのはいいことだろ?」
「あんな馬鹿なことを言わなくても試験は通ったはずだ」
「・・・へぇ?実力は認めてくれてるんだ?」
「ああ、錬金術師としての能力は認めているさ。そうでなければ推薦などせん」
ただし、こんなに性格が捻じ曲がってるとは思わなかったがな。
忌々しそうにそう言う男を面白そうに眺める。
「まぁ、終わったことだし、くよくよすんなよ?」
「お前が言うな!!・・・・・・妙な噂になったら、どうしてくれる」
「大丈夫だよ。アンタモテそうだしさ、こんくらいの噂で女がよりつかなくなるなんて事ねーよ」
その点では、オレも罪悪感が少なくて済むから、助かるよ。
胸に手を当て、ホッとしたといった素振りをわざとらしくする子供。
それを見て、ロイの額にますます怒りマークが浮かぶ。
その顔には『お前にそもそも罪悪感などあるのか?!』と、書いてある。
男の様子をながめ、少年はふぅ、と一つ息を吐いた。
「悪かったよ、ごめんな?・・・でもさ、どうやら長い付き合いになりそうだし?よろしく頼むよ」
あっさりと謝って、『仲直り』とでも言うように手を差し出す少年を、ロイはまじまじと見つめた。
本当に、これがあの時の少年なのだろうか?と、心底思う。
初めて会った時の、空ろな瞳は、そこにはもうない。
確かに、別れ際にその瞳に焔が灯るのを目の当たりにした。
だが、あれからたった一年―――
リハビリに三年はかかるだろう機械鎧を、一年で何事もなかったかのように使いこなし、
空ろだった瞳には、小さな焔どころか、苛烈なまでの光を宿している。
『厄介な奴だが・・・・・この精神力には感服するな』
手元に置くのが、吉と出るか、凶とでるか?
難しい所だが―――――確かに、簡単に手放すには惜しい魅力を持っている。
ならば・・・・・飼いならしてみるか?
自分も手を差し出すと、少年はにこり、と初めて年相応の可愛らしい笑顔をよこした。
『顔だけ見れば、天使のようなのだが・・・・・・な』
見事なまでの金色の髪に、類稀な金の瞳。美しい顔立ち。
――――姿かたちは、本当に天使のようだ。
短い握手の間、ロイは少年の容貌をそう観察する。
お互いの手が離れた時、少年は『あっ』と小さい声をあげた。
訝しげに見下ろすと、小さな口元に手を添えて、屈むように手招きされた。
内緒話でもあるのか?
腰を落として耳を少年に向けると、こちらの肩につかまり、爪先立ちする気配。
ちゅっ
頬に感じた柔らかい感触に、目が点になる。
慌てて離れて、振り向くと―――――
「言い忘れてたけど、アンタが好みなのは、本当。・・・・・本気で狙ってみようかなー?」
じゃ、オレはホテルにもどるから。
本気とも冗談とも付かない科白を残し、
底意地の悪い笑みを浮かべつつ、少年はヒラヒラと手を振って去って行った。
一人残された、男は呟く。
「・・・天使なんかじゃ、断じてない!!」
悪魔だ。絶対に、悪魔だっ!!!
ロイは内心でそう叫んだのだった――――