拍手ログB 『天使な小悪魔』・・・4 


東方司令部の廊下で不意に後から声を掛けられた。

「よー!大佐、ひさしぶり♪今日も男前だねv・・・・・東方は平和そうだなー?」
「―――やぁ、鋼の。・・・・・君が来るまでは凄く平和だったのだがな」

2ヵ月ぶりに訪れたリトル・サタンの姿を認めて、ロイは顔を引きつらせた。

エドが国家錬金術師になってから、既に3年の月日が経った。
やんちゃな彼も、もう15歳。
身長は伸び悩んでいるものの・・・・・・
ふにふにと丸い頬は、シャープさが出てきてあの時よりは少し大人びた顔になった。
それがまた厄介だ・・・・・と、ロイは忌々しく思っている。
なぜなら、どう見ても子供だった彼が、大人に一歩近づくたびに・・・なんというか、妖艶になってきた。
男に対して『妖艶』と言う言葉を使うのはおかしいかもしれないが、まさにそんな感じなのだ。
元が整っている上に・・・多分、元来の小悪魔気質が容姿にも影響しているのではないかと思われる。
それを何故忌々しく思うかというと。


あの時以来三年間、所構わずあのガキに口説かれっぱなしなのである。


彼の容姿が子供の時は『憧れているのね、微笑ましいわ』などと、好意的に見てくれる人が多かった。
だが、無駄に色気が出てきた近頃では、そんな風に見てくれる人などいない。
今では、『二人は既に愛人関係で、彼の色気は大佐の手腕の賜物』などと、陰口を叩かれている始末だ。

そんなことは、断じてない!!

いっそ、中央司令部の受け付け前にでも行って、そう叫びたい。
だが、否定すればするほど、ますます噂を煽るのは明白で。
はらわたが煮え繰り返る思いで、我慢をしている。
・・・日ごろの行いのせいか、それでも女性たちには嫌われていないようなのが、唯一の救いだ。

「たーいさぁ?そんなに眉間にしわ寄せちゃ、ダメ」

色男が台無しだよ?オレ、この顔気に入ってるんだから。
前に回りこんで、上目遣いで顔を覗き込んで、小首を傾げる。
・・・・・・・・まさに、悪魔の微笑み。

『だから、どこでその仕草を覚えてくるのだ?!』
ついそうつっこみたくなるほど艶のある仕草に、頭痛がしてくる。
だが、チャンスでもある―――

「なるほど、君は顔だけで私にちょっかいを出しているのだな?」

わざと不敵な笑みを浮かべて見せて。
『悪いが、顔の良し悪しにだけ釣られるような者は、ごめんだよ。もう付きまとわないでくれないか?』
そう、冷たく引導を渡してやろうかと、口を開き掛けた時――――先手を打たれた。

「まさか?顔だけじゃなく、全部好きだよ?」

言葉尻を捕えて、拗ねんなよ?
そんな言葉と共に、人差し指で人の胸をツンとつついてくる。
まるで、既に恋人同士かのような、態度。
一斉に、周りにいた下士官達の視線が集まってくるのを、ひしひしと感じる。

「・・・・・・・誤解を受けそうな言動は、やめないか」

低い声で睨みを利かせてみるものの、効果がないのはこの三年間の経験でわかっている。
案の定、彼は意にも介さず微笑んだ。

「相変わらずつれないなー?こんなにアイシテルのに?」
「嘘をつけ」
「何で信じないかな――顔も声も性格も、全部好きだよ?」

クスクスと笑い、数歩先を歩いてから――――こちらを振り返って微笑む。


「―――――――あと、『体』もねv」


ざわざわっと、外野がどよめく。

「あ、資料室かりるぜー?」
固まってしまったロイに手を振り、『やっぱり、出来てたんだ?!』などとざわめく周囲を背に、
悪魔は妖艶な微笑を残し、赤いコートを翻してさっさとその場を去っていった。

・・・・・・・何度目の勝負だったかは忘れてしまったが、
あれから三年間、今のところロイの全戦全敗である―――――――



そして、数日後。
再び彼が旅立った後も、ロイは更に加速した噂に悩まされ続けるのであった。





どうやら、帰ってくるたびに苛められているようです・・・・・(笑)
頑張れ、ロイ・マスタング!!
・・・・・・・ちょっと、可哀想になってきた;


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