「鋼の・・・・・いい加減にしなさい」
「・・・冷たいなぁ。あんまり冷たいと浮気するぞー?」
ぜひ、してくれ。・・・って言うか、付き合ってないから浮気じゃないぞ?
「これでも、結構誘われるんだぜ?オレ―――」
知ってる。君の本質を知らない者は簡単に落ちるだろうね、その美貌じゃ。
「・・・・・・大佐ってもしや、『無能』じゃなくて、ふ・・・・・』
「誰が、不能かっ!!!」
「・・・まだ『ふ』しか言ってないだろー?(クス)」
一ヵ月ぶりに現われた子供は、入室するなり人のデスクにポンと座った。
機械鎧であるはずなのに、まるで羽でも生えているように軽やかに飛んで座る姿に一瞬目を奪われて、
怒るタイミングを失った――――
それをいいことに、報告などそっちのけで寄越される、戯言のような口説き文句。
書類がたまっていた事も手伝って、イライラと今更ながら怒鳴りつけた。
「用がないなら、さっさと出て行かんか!今忙しいんだ!」
「えー?口頭の報告はいいの?まだ報告書だって目を通してもらってないし?」
「忙しい(きっぱり)!!・・・・・不備がある場合は、後で連絡をする」
「折角ひと月ぶりの逢瀬なのに。ま、しゃーねぇか」
エドは少し口を尖らせて見せたが、あっさりと引く。
そして、行きがけの駄賃とばかりに、素早くロイの額に軽くキスを落として―――
ロイが唖然としている間に、また軽やかにデスクから飛び降りた。
金の尻尾が、それに合わせて踊るように、跳ねる。
「じゃ、オレいつもの宿か図書館にいるから・・・寂しくなったらいつでも呼んで?ダーリンv」
「・・・誰が『ダーリン』かっ!この小悪魔!!!」
額を押えつつ青筋を浮かべる男に、艶のある微笑を返して。
ヒラヒラと手を振って、赤いコートが翻る。
それに合わせて、また金の尻尾が跳ねた―――
パタンと、ドアが閉じられる音がするまでそれを見送って・・・思う。
『なんと、一つ一つの行動が人の目を引く子供なのだろう・・・・・』
その全てが、鮮烈だ。
本質を知っている私でさえつい目が離せなくなるくらいだから、他のものなら尚更。
良くも悪くも人目を惹きまくっていることだろう。
『これでも、結構誘われるんだぜ?オレ―――』
おどけたような口調だったが、結構苦労しているかもしれないなと思う。
いや・・・・苦労どころか、身の危険も・・・・
つい、眉間に皺が寄ったところで、隣りから声がかかった。
「大佐ー。あんまりつれなくすると、本当に誰かに持ってかれますよ?」
「ああ・・・・・なんだ、お前いたのか」
「ええっ〜!?酷いっスよ、自分で呼んどいてから」
「すまんな。静かだったから、忘れてた」
「あの状況で、誰が口挟めるっていうんですか・・・・・」
しれっと、あんまりすまなそうでもなく謝るロイに、ハボックはブツブツと文句を言った。
「しかし、大将・・・容姿はどんどん美人になってくのに、中身はますます男前になったっスねー」
「あれは『男前』になったんじゃなくて、更に性格が悪くなっただけだ!」
「そうですか?さっぱりキッパリしてて、男らしいっすよ?
・・・んで、額にキスされて動揺する大佐は、まるで初心な乙女のような・・・」
「ハボック・・・・・・・・お前、燃やされたいのか?」
「いえ、結構っス。」
顔をひくつかせて手袋を取り出すロイに、ハボックはさっさと頭を下げた。
それでもすぐに飄々とした笑みでまた続ける。
「でも、本当にやばいんじゃないですか?」
「なにがだ?」
「だからエドですよ。アイツ、本当にもてるんですよ?狙ってる奴、うじゃうじゃっスよー」
まぁ、大佐に対抗しようって奴はあんまりいませんからね?そうそう手を出せる奴っていないみたいですけど。
そう肩をすくめたハボックに、ロイは不機嫌そうに顔を歪めた。
「・・・それだ。それがまた気に食わん!あのクソ餓鬼、私の事を虫除け代わりに使っているんだぞ?!」
わざわざ人前を選んでちょっかいをかけてくる子供を思い出して、ロイは忌々しそうに呟く。
「欲しい奴が居るなら、さっさと持っていけばいいのだ。振り回されてはかなわん!」
「・・・・・っていうか、もうじゅうぶんに振り回されてるんじゃ?」
「・・・・・・・・もう一度聞くが、燃やされたいのか?」
「いえ、結構ッス。」
今度こそ手袋を嵌め出したロイに
ハボックは、姿勢を正して深く頭を下げて見せたのだった。
そんな部下を睨みつけてから、不機嫌に瞳を閉じると―――
瞼の裏に少年の残像が残っているような気がして、顔を顰めて軽く頭を振る。
『まったくもって、厄介な奴だ・・・・・・』
肩を落としつつ、ロイが心中で密やかにため息を付いた頃。
男の嘆きを知ってか知らずか。(いや、確実に知ってそーだけど・笑)
鮮やかな色の少年は、人目を惹きまくりつつ図書館への道を軽やかに歩いていったのだった。