「え・・・あの。もしかして・・・お二人もカカシ先生の顔、見たことないんですか?」
二人なら当然知っていると思っていた。だからこそ、つい言ってしまったのだが?
・・・もしや、この二人も知らないカカシ先生の秘密をペラペラと喋ってしまったのか、俺!?
顔色を無くすイルカに、アスマは違う違うと手を横に振って見せた。
「あーそうじゃねぇ。俺達は知ってる。だがな・・・ああ、めんどくせえな」
「もう!アンタはすぐにめんどくさがるんだから・・・!あのね、イルカ先生。私達はアイツの素顔は知ってるわ。付き合い長いからね?・・・でも、他の人は違うの。
私達仲間内以外の人は、たとえマスクの下を見ても・・・アイツの素顔は知らないのよ」
「え・・・どういうことですか?」
「アイツね。昔馴染み以外には幻術で別の顔みせてるらしいのよ」
紅の言葉にイルカは一瞬呆けたように固まって。
そして、驚愕した様に叫んだ。
「え、ええ〜〜〜〜〜〜っ!?」
驚きのあまり大声を出してしまったのに気がついて、慌てて手で口を塞ぐ。
キョロキョロと辺りを見まわして、誰もいないのにホッとしながら、紅に再び向き直った。
「ほ、ほんとですか?」
「ええ・・・今までカカシの素顔見た!って人は沢山いたけどね。聞くたび顔が違うのよ?」
アイツの幻術、並じゃないから・・・上忍といえど中々破れる奴いないし。
まさか非戦闘時。それも里内の飲み会なんかで幻術かけられるなんて普通思わないでしょ?
だから・・・・・大抵、気がつかないらしいのよ。
それに、アイツ・・・一応現役では、この里最高ランクだからね。
見た奴はカカシに気を使ってふれ歩いたりしないから、騙されてるのにいつまでも気がつかないの。
・・・私達にはそんな小細工なんて効かないとハナから諦めてるらしいから、素顔みせてるけど。
他の奴は、未だに自分の見たのが『カカシの素顔』だと思ってるのよ?
――――紅の告白に、イルカは唖然として、叫んだ。
「えっ・・・じゃあ、俺が見たのって、幻術!?」
イルカはあんぐりと口を開けた。
『そっかぁ、アレ・・・素顔じゃないんだ・・・・・・』
そりゃそうだよな。
いくらこのごろ少し親しくなったとはいえ、階級差も実力差も大きいカカシ先生と俺。
・・・・・対等に付き合ってもらえている訳がない。
『まんまと、騙されてた訳か・・・・・』
酷いじゃないですか、カカシ先生!
そう心の中でぼやいては見るものの・・・あまり怒りみたいなものは、沸かない。
誰しも触れられたくない部分はあるものだし。
カカシほどの忍なら、明かせない秘密などごまんとあるのが当たり前。
・・・・・そして、自分はカカシの交友関係の中でも末席の方だろう。
『でも、なんだかちょっと・・・・・・・・・ショック』
あの人といると、楽しくて。
親しげにされる事が、嬉しくて。
勝手に、近い所にいると思ってた。
・・・・・・・・・・俺、いい気になってたかも。
「イルカ先生?」
「あ・・・す、すみません。あんまり驚いたものですから」
凹んだ気持ちを隠すように無理やり笑顔を浮かべて、顔を上げた。
「それにしても、アレが幻術だったなんて。俺、まんまと騙されちゃいましたよ〜」
今度カカシ先生に会ったら、文句言ってやらなきゃ!
そう軽口を言って笑う。
だが、目の前の二人はどうにも腑に落ちない顔をしていた。
「あの・・・?」
「今まではね、確かにそうだったのよ」
「は?」
「誰に聞いても、違う顔で」
「あの〜・・・?」
話が見えなくて、戸惑い気味に見つめると、紅はやたら真剣な顔で聞いてきた。
「・・・・・ね、イルカ先生。あなたの見たカカシの顔、詳しく教えてくれない?」
「え?えっと・・・とても綺麗な顔でした。あ、綺麗って言っても女顔ってわけじゃなくて。
なんて言ったらいいのか・・・・・・えと、すごく・・・男前で」
「うーん、具体的には?」
「えっと、鼻筋は綺麗に通ってましたし、肌は白くて・・・なんか、女の人より綺麗っていうか?
唇は薄めで大きくもなく小さくもなく。傷は写輪眼の方の縦に一筋。他はなかったと思います。
ほくろも、なかった気がしますねぇ・・・・・」
具体的、具体的・・・・・・っと。
そう心の中で呪文の様に唱えながら、イルカは一昨日見たばかりのカカシの素顔を思い出してみた。(一昨日も飲みに誘ってもらったのだ)
・・・それにしても、カッコイイ人の特徴って言い辛いもんだなー。
だって、どのパーツも整っているのだ。『カッコイイ』としか、言いようがない気がする。
あ、でも・・・あの『カッコイイ顔』は、幻術だったっけ。
つーか、幻術であんな顔見せるなんて・・・カカシ先生って、意外に見栄っ張りなんだろうか?
『別に、俺は顔なんかどんなでもかまわないのに』
どんな顔でも、あの人への尊敬の念や親愛の情が変わることなどないのに・・・・・
そう思ったら、なんだかまたちょっと悲しくなってきて。
―――そんな気持ちを誤魔化すように、もう一言付け加えた。
「あと、やっぱりあの左右色違いの眼・・・・・綺麗ですよね!」
たとえ俺が見ていた顔が幻術でも、あの瞳の色は変わらないはずだ。
写輪眼は『赤い』と聞いた事があるから、間違いないだろう。
戦闘時に見た奴がそう言っていたから。
そんな事を考えつつ顔を上げたら。
――――目の前の二人はますます複雑な顔をしてこちらを見ていた。