「ぷっ」


同僚の話に、イルカは思わず吹き出した。

「おいおい、いくら俺でもそんな嘘にはだまされないぞ?」

いくら俺の酒癖が悪くたって、そこまで酷い訳ねぇだろ?
まったく、俺の記憶がスッパリ飛んでるからって、んな嘘つきやがって・・・
気のいいヤツらなんだが、この悪戯を仕掛けるところは何とかならねぇかな?
――イルカはそう思いながら、嘘がバレて残念そうにしているだろう同僚達に振りかえる。
・・・だが。

『あれ?』

振向いた先にいた同僚達は、皆一様に真面目な顔のままで。
しかも、中にはもんのすごーく『ふびん』そうな顔の奴もいて。
いつも『お前、ニブイ』等と呆れられる事が多々あるイルカだが・・・流石に感じるものがあった。


「もしかして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジ?」


恐る恐ると言ったイルカの問いかけに、同僚達は揃って重々しく頷いたのだった―――




・ 酔った上でのコトですし? ・ 
〜〜酒は飲んでも飲まれるな!・酔っぱらいイルカ物語 <5>〜〜




しばし、暗転。
だが、程なく隣から声が聞こえてきた。

「気持ちは分かるがな・・・ここ、受付だから。戻って来い。」

意識を引き戻されて、イルカはのろのろと隣に座る同僚を振向く。
忘れていたが・・・・・ここは、受付所。
確かに今は自分達以外に人気は無いが、意識を飛ばして呆けていい場所ではない。
だが、それでも・・・イルカは呆然としたまま、もう一度隣に座る今日の受付パートナーを見つめた。

「なぁ・・・・・さっきの、本当に冗談ってことは?」
「気の毒だが、ねぇな」

その言葉に、イルカは今度こそ机に突っ伏して、頭を抱えた―――

慰労会の次の日の昨日は、偶然イルカの休日で・・・『これ幸い』と二日酔いの頭を抱えて寝こんでいた。
今日はついさっきまで火影様の部屋に篭って書類整理の手伝い。
昼過ぎには終ると思っていたのに、思いの外火影様が未処理の書類をため込んでいたせいで、受付に入らなければいけない夕方までかかってしまった。
それでも、何とか終らせてバタバタと受付に駆けこんだイルカだったが・・・
受付所の椅子に座った途端、同僚達に取り囲まれて、慰労会のことを色々と聞かされた。
あんまりな内容に、てっきり冗談かと思いきや・・・どうやら真実らしく。
机と仲良くなってる場合じゃないとおもいつつ、とても頭を上げる気力が出ない。
机に懐いたまま・・・イルカは弱弱しい声で呟いた。

「・・・どうりで、ここに来る間女の子達の視線が冷たいと思ったんだ・・・・・」

イルカはそんなに女性にモテることはないが、反対に嫌われる事もなかった。
どちらかというと安全牌に見られがちなのは、本人にしてみれば若干不満があるが・・・でも、嫌がられるよりはいいと自分を慰めてきた。
それが―――今日は違った。
火影室から受付に来るまでの廊下で、すれ違った顔見知りのくの一達にいつもの様に挨拶したのだが、返事が返ってくるどころか・・・非常に冷たい視線を投げかけられた。
あからさまに無視する者さえあって首を傾げたものの、急いでいたのでそのまま走りすぎたが、よもやこんな理由があったとは。

「あーそりゃ、仕方ねぇわ。なんてったって憧れの写輪眼様をこんなもっさい中忍、しかも男にもってかれたとあっちゃあ、女達も立つ瀬ねぇだろ?」
「・・・この話が事実だとしても、カカシ先生の冗談だってわかるだろ!?そこまで目の敵にしなくてもいいじゃねぇか!」

涙目になりながら、反論してみるが・・・あしらう様に手をひらひらと振られた。

「甘いな。はたけ上忍、くのいちの間じゃ『難攻不落』って言われてんだよ。ま、男だからな・・・それなりに遊んでるんだろうけど、それでも決して特定の彼女は作らないんだと。女は始終群がってるけど、その中にも誰一人『私はカカシの恋人よv』と胸張って言えるような女はいないらしくて、皆その席を巡って火花を散らしてるって話だ」
「ああ、俺も経理の女の子からその話は聞いたぜ!・・・そんな『女達羨望の王子様』に近づいたとありゃ、冗談でも何でも面白くねぇだろうよ」
「だよなぁ。しかもその難攻不落の男から『俺と付き合ってみますか?』と誘われて、『恋人同士ですね』なんて言った挙句、どどめに膝枕させて『嫁』扱いだぜ?これで目の敵にされない訳ねぇよ」


でも、あのはたけ上忍を『嫁』って・・・すげぇよなぁ。
―――あっちが嫁なら、これも『逆玉』っていうのかね?


どっと笑う中忍達を、ヨロヨロと机から頭を持ち上げたイルカが睨む。

「・・・・・他人事だと思って・・・みんな冷てぇ・・・・」

その恨みがましいが、力のない声に・・・皆笑いを納めて苦笑した。

「はは、わりぃ。・・・でも、そんなに落ちこむなよ。女達だってそのうち元にもどるだろ?」
「そうそう。他に大きな話題でもできれば、ぱあっと忘れちまうって、あいつ等」
「そうかなぁ・・・・・でもさ、それより・・・カカシ先生にあやまらねぇと」

怒ってるだろうなぁ。
ガックリと肩を落とすイルカの背を、隣の男がポンポンと叩いて慰める。

「そっちは大丈夫だって。はたけ上忍、気にした風でもなかったし」
「そうそう、あんなにできた人ってそうはいねぇぞ?上忍なのに、変にえらぶったとこもないしさ」
「ああ。酔っぱらい中忍の戯言に付き合って膝枕までしてくれる上忍なんて、ホントいねぇよな」

そんな中忍達の会話を聞き、イルカはホッと胸をなでおろす。

「そうなんだ・・・・・」
「しかもさ、酔っぱらったお前のこと『家まで送ってやれ』って、心配までしてくれたんだぞ?・・・そんなだから怒ってはねぇと思うけど、詫びはきっちりしろよな?」
「うん、そうするよ・・・・・」

なんとか浮上し、こくんと頷くイルカに・・・また同僚達の顔に意地悪な笑みが浮かぶ。

「お詫びに、約束通り『手を繋いで』帰るってのはどうだー?」
「そりゃ、詫びになんねぇだろ?手ぇ繋ぐどころか、こんなうだつのあがらねぇ中忍と並んで歩くだけで上忍には罰ゲームだって!」
「違いねぇ!」
「お前等なぁ〜〜〜〜!!」
「お、イルカ!そろそろ人が来る時間だぞ?ほら、得意の受付スマイル〜!」

額に怒りマークを浮かべて、拳を振り上げたイルカだったが、確かにもうそんな時間なのに気がついて、しぶしぶ拳を下ろす。


『とにかく今は受付業務に集中しねぇと』


この事は、カカシさんが帰ってきてからだ。今は仕事仕事!!
内心でまだ落ちこんでいる自分に喝をいれる様に、頬をピシャリと叩き、戸口付近を見つめた―――


程なく、受付に一人二人と報告書を持った者が入室してきた。
その中にいた一人の上忍の男が、イルカの顔を見て思い出した様に声をあげる。



「おっ、その顔の傷・・・もしやお前がカカシと恋人になったっていう中忍かぁ?」



・・・・・どうやら、仕事に集中出来なさそうだった―――






酔っぱらいは、お約束の記憶喪失です(笑)


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