腕の中から、枯れた声が聞こえた。


「離して下さい・・・」

拗ねたような声を出すイルカを、カカシは彼の懇願に反してぎゅうっと抱きしめた。

「あ、目が覚めた?おーはよ」
「おはよ・・・って、もしかして、もう朝ですか!?」

慌てたように体を起こそうとして―――イルカは再びカカシの腕の中に沈みこんだ。

「あー・・・ごめんね?今日はちょっと動けないかも?」
「ごめんね、じゃない!・・・・・俺、仕事が・・・・・」
「仕事の方は大丈夫。病欠で連絡入れといたから」

苦悶の表情で途切れ途切れにそう言うイルカの髪を撫でながらそう言うと、彼はやっと体の力を抜いた。

「ごめんね、そんなに辛い・・・?」

俺も男は初めてだったからね・・・無理させすぎちゃったかなぁ?
カカシは申し訳なさそうにそう謝っていたが、そのうち昨日の情事を思い出したのか、うっとりとした表情で呟く。


「でも、最中はアンタもすっごく感じてイイ声あげてたから、俺も我慢が効かな・・・・・いたっ、イタイ、痛いよイルカっ!」


ギリギリと音がしそうなほどカカシの腕を抓りあげたイルカの額には、怒り皺がビシビシと浮かんでいた――――



 ★カカ誕2008★ 『バースデープレゼント』・・・10 




「あんた・・・女しか抱けないんじゃなかったんですか?」

やっと抓りあげた腕を離したイルカが、憮然とした態度でカカシに問いかける。
カカシは赤くなった腕を擦りながらも、それでも腕の中のイルカを放そうとせず、背中から抱きこんだまま言った。

「うん、そう思ってた」
「・・・やっぱりコレ、制裁なんですか?」
「アンタねぇ、この状態見て、まだそんなこというの?」

制裁なら、こんな風に朝まで抱きしめてると思う?
呆れたように抱きしめた腕に力を込めると、イルカは『ですよ・・・ね』と小さく呟いた。

「じゃあ・・・その、コレは―――」
「抱く前に言ったじゃない?『愛』だって」
「・・・・普通『愛』なら、俺の意思をちゃんと確めてからコトに及ぶもんじゃないですか?」

これじゃ、ゴーカンと変わんないじゃないですか。
ブツブツというイルカに、カカシはしれっとして答える。

「俺のこと好きだっていったじゃない?」
「嫌いじゃないっていったんです!しかも、人間としてですっ!」

そう噛みつくイルカに、カカシは憐れそうな声ですがりついた。

「酷いっ!俺のコト弄んだの!?」
「酷いのはどっちですかっ!」
「アンタに決まってんじゃないの」
「なっ・・・!」

怒りに口をパクパクさせるイルカの体を、自分の方に向きなおさせて―――彼の瞳を見つめた。


「酷いのはアンタだよ。突然俺の懐の中に入りこんで、俺の心を揺さぶって・・・こんなに好きにさせといて。―――それが嘘だなんてね?」


真剣な表情でそう言うと、腕の中のイルカはハッとしたような顔をして―――そして、バツが悪そうに目を逸らした。

「すみません・・・」
「ま、いいよ。無理に抱いちゃって、ごめんね・・・でも、制裁じゃないのは信じて?」

アンタの『好きにしていい』って言葉に付け入ったのは確かなんだけどさ。
―――抱いたのは、制裁じゃなくてアンタが欲しくて仕方なかったから。
今手に入れておかないと、もう手に入らない気がして・・・

「だから、無理やり奪った。・・・ごめんね?」

カカシはもう一度謝ってから、再び彼を見つめた。


「順番逆になっちゃったけど・・・俺、アンタが好き。俺の本当の恋人になって?」


もう、アンタなしの生活には戻れないよ・・・
そう言って甘えるように肩口に擦り寄ると―――頭の上から『ハァ〜』という、溜息が聞こえた。

「・・・勘違いしてるんじゃないんですか?家事してくれる人が欲しかっただけってことは?」
「違うよ。女と付き合った事は数え切れないほどあるけど、家に入れたいとすら思ったことなかったもん。入れるくらいなら、自分でやった方がイイと思ってたし?」
「・・・入れたことないなら、入れてみたらやっぱり女の方がいいと思うかもしれないじゃないですか?」
「違うってば!俺、今まで誰と付き合っても、ときめいた事ないの!アンタだけ・・・ガキみたいにときめいて、こんなにも欲しいと思ったのはイルカだけなんだ。―――疑うなら、もう家事しなくてもいいよ。風呂掃除も布団干しもご飯を作るのも・・・全部俺がやってあげるから」

だから、俺を好きになって―――――

そう懇願すると、イルカはしばしの間黙り込んで。
・・・・・そして、ポツリと呟いた。

「・・・無理やりじゃ、ないです」
「―――え?」
「ビックリしたけど、嫌じゃなかった・・・・・俺、あんまり抵抗、しなかったでしょう?」

カエデの為に入りこんだのに、ここでの暮らしはとても心地よくて・・・家事をしてる時なんか、恋人が偽りなのを忘れそうになりました。
終わりが来た時・・・利用されたとあなたが怒って俺に制裁を加える事より、あなたに嫌われる事の方が怖いと思いました。

「―――――多分、俺の方が先にあなたを好きになってましたよ?」
「・・・イルカっ!!」

好き、俺も大好き!!
ぎゅうぎゅうに抱きつくカカシを抱き返しながら、イルカは意地悪な声色で言った。

「でも・・・いいんですか?折角最後の逃げ道用意してあげたのに。『やっぱり女がよかった』と言っても、もう聞く耳持ちませんからね?」
「別にいーよ。ありえないも〜ん?」
「いっときますけど、本当の恋人になったら俺は厳しいですよ?浮気は素人も玄人も厳禁です。花街通いも、戦場での処理も許しません」
「ん。もうアンタだけしか抱かない。この前だってね、折角花街行ったってのに、アンタのことばっか考えちゃって、何もしないで只眠って帰ってきただけなんだーよ?」
「え!?そうなんですか?」
「そう。あの時は自分の気持ちにまだ気がついてなかったけど、女を前にしてもちっともやる気になんなくて。もう任務以外では、ああいうトコにはいかない。あと、長期任務の時は・・・」

少し考えて・・・カカシはいい考えを思いついたようで、顔を輝かせた。

「そうだ、長期任務の前の日はアンタ仕事休んでよ?出発ギリギリまで抱いて、アンタを満タンにしてから行くからさ?」
「・・・・・・それは勘弁してください」

うきうきと言うカカシの提案を溜息交じりで却下してから、イルカは眉を寄せた。

「しかし・・・・・本当に恋人になっちゃうなんて、困りましたね・・・」
「両思いなのよ!?なんで困るのよ〜!」
「いや・・・だって、俺があなたの恋人になった理由の一つが、『コハル様への取引』に使うためだったんですよ?」

別れるからカエデを自由に・・・って脅し文句、使えなくなっちゃったじゃないですか。

困ったようにそう言うイルカに、カカシは嬉しくなった。
『取引できないから本当に恋人になるのは止めますとは、言わない訳ね♪』
イルカが自分を好きだというのは本物だとわかって、カカシはうきうきとイルカに提案した。

「きっと他にも手があるよ・・・俺も協力するからさ?」

俺は速攻断るし。
そうだ!もし、次の候補が決まったら、俺がそいつに脅しかけて断らせてあげる。
次の次の奴も、次の次のそのまた次の奴も、全部。

「そうすれば、そのうちコハル様もあきらめるんじゃない?大丈夫、上忍でも暗部でも、俺に本気で『お願い』されて断れる奴あんまりいないから。コハル様にはバレないようにやるし?」
「・・・なんか相手の方が気の毒になってきましたけど・・・それは有効かもしれませんね」
「でしょー?イルカの為なら、俺張りきって脅して歩いちゃ―うよ♪」
「・・・やりすぎないようお願いしますね」
「りょうーかいvんじゃ、早速前払いで報酬もらっちゃおーかなっ」
「は?」

聞き返す暇も無く、胸に顔を埋められて―――胸にぬめった感触が走る。
慌てたイルカは、今度は本気で抵抗を試みた。

「ちょ・・・!今日はもう無理です!!」
「大丈夫、アンタ今日休みになったから」
「それは体を休める為のっ――――んぅ!」

抵抗は、満面笑みの男の唇にあっさりと封じこまれた――――――



******



それからまた一週間後の夜―――
夕食も風呂も済ませた二人は、一つの布団に包まってゴロゴロしながら話をしていた。

「それにしても、よかったですね!」
「なんか、あっさりおさまって拍子抜け〜。折角、張り切って脅そうと思ってたのに・・・」
「いや、その点については心底良かったです」

イルカは相変わらずキッパリと遠慮なく切り捨てながら、あらためて安堵の息を吐いた。


実は、あの後―――事態は急展開を見せた。


上機嫌であの晩カカシと別れたコハルだったが、次の日真実を知ってしまったのだ。
カカシの家に恋人として入りこんでいるのがカエデではなくイルカだと、誰かから聞き及んだコハルは、真相を問いただそうとして、カエデを探したが見つからず・・・
憤慨しつつ、今度はカカシとイルカを呼び出した。
イルカはカカシの無体のお陰で寝こんでいたのだが、呼び出しに応じ・・・
だるい体を引きずってコハルの元に行ってみると、先に呼び出されていたカカシが小言を食らっていた。
聞いているか聞いていないのかわからないようなカカシにコハルが痺れを切らした辺りの登場だった為、イルカは早速説教の矛先を向けられた。

『イルカ、何故邪魔をした!』
『邪魔?なんのことでしょうか?・・・俺は本当にカカシさんを愛しているから恋人になったのです』
『くだらん嘘をつきおって!』
『本当ですって』

言い争う二人にふぅと溜息をついたカカシは、ずいっとイルカの横に進み出た。

『あーもう、わかんないお人ですねぇ?』
『え?ちょ・・・カカッ!?』

そう言ったかと思うと、カカシはイルカを引き寄せ強引に口付けた。
―――しかも、ディープ。
体調が戻っておらず、すぐにくったりとくずれおちてしまった体を抱きしめて、カカシはにっこりと笑ってコハルを見た。

『―――こう言う訳ですから。コハル様、俺のことは諦めてよ?』
『・・・・・・・・余計悪いわ!この、たわけもの〜〜〜〜〜〜!!!』

怒りに震えたコハルが一喝した時、ノックの音。


『コハル様・・・今、よろしいでしょうか?』


開かれたドアから現われたのは、カエデだった――――

『カエデ!お前、どこに行っていたのじゃ!!』
『すみません、病院にいっておりました』
『病院?』
『コハル様・・・今回の命、私は従う事が出来ません』
『・・・こやつらの事なら、心配するな。すぐにわしが別れさせて―――』
『私のお腹に子供がいます』
『・・・なに?』
『あの人の子供です・・・私はこの子を産みたい』

そう言うと、カエデは床にひれ伏し、頭を下げた。

『――――――お許しください、コハル様』

コハルは、呆然とカエデを見下ろした――――――




あの後、カエデは火の国の恋人の元に戻り、婚約をした。
今日カエデから連絡の式が来て―――近々、結婚式を挙げる予定だという。

「コハル様もしぶしぶではあるけれど、認めてよかったーね?」
「やり過ぎではあるけれど・・・元々、このところ木の葉の里の出生率が落ちているのを憂いた上での行動でしたからね」
「あのバァサン”子は宝”と常々言ってたからね。チャクラが出現するかはわかんないけど、子供ができてるんじゃ、折れるしかなかったんでしょ?」
「とにかく良かったです」

そう言って笑うイルカを抱き寄せて、あっちこっちにキスを落としながら「だね」とカカシも頷いて。
そして、イルカの体を組み敷いた。



******



その頃―――
火影室では男女の言い争う声が響いていた。

「そもそも、コハルがカカシにちょっかい出すのが悪いんじゃ!」
「お前だとて『カカシを落ちつかせるのはいいことじゃ』とか言っておったろうが!」

言い争っているのは、三代目火影とコハル。

「わしはカエデに恋人がいるのを知らなかったんじゃ!無理やり別れさせてまでカカシにとは思っておらんかったわい!」
「ふんっ、イルカが邪魔せなんだら、上手くいったはずなんじゃ。・・・そもそも、イルカが今回の事を邪魔しようといろいろ画策してたのを、お主気付いておったのじゃろう?何故止めんのじゃ!」
「・・・カエデが無理に別れさせられたと知って気の毒に思ったし―――イルカが中忍になった時『もう一人前になったのだから、任務外でイルカが自分で考えてした行動に干渉しない』と約束してしまったからの・・・」

破ると、絶交とか言って口を効いてくれんのじゃ。
まさか、本気でカカシに惚れるとはおもわなんだしの・・・
そう肩を落とす猿飛に冷たい一瞥をくれながら、コハルは言い捨てた。

「お前がそんな風に甘やかすから、いかんのじゃ。間違った道に入りこもうとしたのなら、無理やりにでも止めてやるのが我ら年寄りの務めじゃろうが!」
「・・・そんな強引ババァのせいで、カエデは辛い思いをしたのじゃ!大体、自分が昔一般人の男に惚れて、その男に忍の術を気味悪がられて捨てられたからと言って、カエデもそうなるとは限らんじゃろう!?」
「五月蝿いわい!!わしは、わしは・・・カエデに同じ思いをして欲しくなかったんじゃ・・・」

激昂した後、だんだん力を無くして俯いてしまったコハルの肩を、猿飛はポンと軽く叩いた。

「・・・この後うまくゆくかどうかは、本人次第じゃよ。我ら年よりはちょっかいを出すのではなく、遠くから見届けてやればいいんじゃ」
「・・・・・・・そうじゃ、な」

どうせうまく行かなくて、泣いて帰って来るに決まってるんじゃ。
――――――その時は、また説教でもしてやろうかの。

寂しさを滲ませながらも、相変わらず憎まれ口をきいているコハルに、猿飛は微笑んだ―――――
そのまましばし俯いていたコハルだったが、気を取り直したように、顔をあげた。

「カエデのことは仕方ないとして、カカシとイルカはどうする?」
「・・・むぅ」
「あの二人じゃ逆立ちしても、子は産まれん。『はたけ』の血も『うみの』の血も途絶えることになるぞ?」
「・・・・・・・やはり、別れさすか?」
「お前、さっき自分で『年よりはちょっかいだすな』とゆうておったじゃろうが?」

しらけたように返すコハルに、猿飛は『うう・・・』と唸って―――がっくりと肩を落とした。

「二人が自然に別れるのを待つしかあるまい・・・」

カカシは女好きじゃ、そのうち浮気してイルカに三行半を付きつけられるかもしれんし?
―――そういうと、コハルも頷いたが・・・すぐに眉を寄せた。

「そうなれば一番いいんじゃが。・・・あんなに他人に執着するカカシは初めてなのが気に掛かるのう・・・・・」
「イルカも、情が深い男じゃからの。一度懐に入れたものはそう簡単には見捨てんかも・・・」

年より二人は目を合わせて―――二人揃って、肩を落とした。

「・・・・・禁術、開発するか?」
「わしも、古い巻物を調べておこうかの・・・?」

最後に聞こえたのは、深い深いため息だった――――



******



年寄り達が里の未来を憂いていた、その頃―――
憂いの元である二人は、ベットの中。
不埒な手を這わせ、イルカの体に夢中になりながら・・・カカシは少し後悔していた。


『も、俺ってバカだったよね―』


そう思いつつ、組み敷いた体を舌で舐めあげると、ビクビクと魚が踊るような反応が返ってきた。

『勿体無いコトしちゃったーなぁ』

ふるふると震える濡れた睫に付いている水滴を唇で吸い取りながら、後悔。
後悔しているのはイルカを恋人にしたこと―――――では、もちろん無くて。



『やっぱり、「制裁はもういい」だなんて言わなきゃ良かった!!』



昨日、イチャパラの中に出てきたお気に入りのシーンを再現しようとして、キッパリスッパリと断られてしまったのを思い出しながら思う。
『・・・『制裁』ってことにしておけば、嫌がってやってくれない、あーんなことやこーんなこともやってもらえたのに!!ああ、はたけカカシ一生の不覚!!!』
そう心の中で涙していると―――体の下から、枯れた声がした。

「・・・カカシ、さん・・なに、かんがえてるんですか・・・?」
「え!?いや・・・」
「・・・・・別の事なんて、考えないで・・・俺を見て?」
「!!」

見上げる潤んだ瞳に、頭の中が沸騰する。


「ごめんね、イルカ!集中するからっ!!」


でもね、考えてたのはアンタの事だよ?
キスの雨を降らせながらそう言うと・・・・・恋人は嬉しそう微笑んで、背中に腕を回してきた。

『も・・・あんなに色気無い人だと思ってたのに、褥ではホント、可愛くなっちゃうんだからっv』

たまんないよね〜♪
愛しい恋人の体に溺れそうになりながら、溺れきる前に、ちょっと気がかりなことが頭をよぎる。

『あのバァサン・・・カエデの件は諦めたようだけど、その分俺達を別れさせるのに全力を注ぎ出すんじゃないよね?』



でも・・・何があっても、絶対離すものか―――このぬくもりを。



そう決意しつつ、カカシは今度こそ快楽の波に溺れて行った。
『今年もらった誕生日プレゼントは最高だ』と心の中で思いながら―――








*******カカシ先生、ハッピーバースデー♪*******




終わりました!!
・・・・・・誕生日はから随分日が過ぎてしまいましたが、あらためてカカシ先生おめでとー!
お付き合い、ありがとうございましたv


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