木の葉の里に続く道を歩きながら。
カカシは、中忍・うみのイルカに話かけた。

「・・・アンタ、なかなかヤルね?」
「恐れ入ります」

カカシの三歩後ろを歩いていたイルカは、そう言うとすました顔で頭を下げた―――




 ★カカ誕2008★ 『バースデープレゼント』・・・2 




護衛した姫君に見初められたカカシは、先ほどまで窮地に追い込まれていた。
確かに美しい姫だったが、『姫君』などという面倒な人種と付き合う気はさらさら無かったからだ。
かと言って、無下に扱っていい人物でもなくて・・・困ったカカシは、この中忍に白羽の矢を立てて事態の打開を試みた。

結果は―――――大成功。

最初は『人選を誤ったか?』と不安に駆られたが・・・この中忍は、その心配をあっさりと払拭してくれた。


姫に紹介した後―――
『二人の関係をこんなところで明かしても良いのですか?』と言った感じに不安げにカカシを見上げたイルカ。
カカシが了承して見せると、意を決したように姫の前に膝をつき、頭を垂れて自分がカカシの恋人である事を告げた。
ご多分に漏れず、『男ではないか!』『こんなこと納得できない』『私の方が彼に相応しい』と捲し立てる姫の罵声をじっと黙って聞いていた彼は・・・
一通り吐き出し終わった姫に、反論するでもなく、睨みつける訳でもなく・・・ただ、儚げな微笑を向けた。

「姫が彼をどれほど愛していらっしゃるか、良くわかりました・・・・・」
「・・・そうか。ならば、そなた身を引いて・・・」
「分りましたが、私も彼をなにものにも代え難いほど、愛しているのです」
「そなた!身のほど知らずとはおもわぬか!?男の身で、カカシ殿に何をしてやれると言うのだ!?そんな無骨な身体で、子をなす事も出来ぬでしょう?そなたがカカシ殿と寄り添うても、未来などないわ!」
「だからこそ・・・・・です、姫」
「・・・・・なに?」
「私は忍です―――明日をも知れぬ身。今日は生き延びることが出来ましたが、明日はどうなるか分らない。私も彼も、そんな日常に身を置いております」

イルカは、あくまでも穏やかな口調で、姫に語りかけた。

「かと言って、忍と言えど死ぬつもりで任務に赴く訳ではありません。鍛錬を積み、準備を整え、情報を集め、細心の注意を払って赴くのです。ですが、やはり行った先は命のやり取りをするような場所で・・・どんなに注意を払っていても、帰ってこられない時もある・・・。それを痛いほど知っているから、忍家業の者が未来を夢見る事は難しい。・・・・だからこそ、私は今の気持ちに正直に生きたいと思っています」

彼を愛してる。
その確かな想いを、見えない未来を憂いて閉じこめて、死の間際で後悔することなどしたくないのです。
―――イルカは穏やかでいて、それでも揺るぎない真っ直ぐな瞳を姫に向けた。

「・・・私は彼を愛していますから、私から身を引く事はできません。ですが、貴方のような、美しく聡明で、彼に未来を与えてくれる女性の方が、彼に相応しいことも良くわかっています。ですから―――」


もし私から彼を奪うというのであれば、私を殺してくださいませんか。


そう言って立ちあがると、イルカはそっと姫の前にクナイを置いた。
足元に置かれたクナイに、姫はたじろぐ。
うろたえながら目の前の男を見つめると、彼は泣き笑いのような顔で、儚げに微笑んでいた。

「そうでもしないと、俺は彼を離してやることができないんです・・・・・」
「そ、そなた、それほどまでにカカシ殿を・・・・・」

言葉を詰まらせる姫と、涙を必死に堪えて姫を見つめるイルカ。
イルカのすぐ後ろでそれを見ていたカカシは、唖然とする。

『すご・・・名演技!・・・もしかして俺、本当にこの人に愛されてたり・・・?いてっ!?』

突如足に走った痛みに慌てて意識を戻すと、姫に見えぬようにカカシの足を蹴っ飛ばしたイルカが、チラリとこちらを見て、睨んだ。
その瞳は、愛してるどころか『ここはアンタが出るところだろ!?何ぼんやりしてやがんだ、このボケ!』と雄弁に語っていた。
慌てて、イルカと姫の間に割って出る。

「姫・・・・・やめてください」
「・・・カカシ殿」
「彼だけではない・・・俺も同じ気持ちです。いつとも知れぬこの命だからこそ、この愛を大切にしたい」

そして、イルカの肩を抱いて、沈痛な面持ちで姫を見つめた。

「許してください・・・・・姫」
「カカシ殿・・・」

入る隙が、ない。
よりそう二人を見つめて姫は俯き、小さく頷くと、ポロリと涙を流した――――



******



「ホーント、名演技。もめずに済んだし、姫も納得したし?」
「ちょっと泣かせてしまいましたけどね・・・」
「あれぐらい、いーじゃない。泣き喚いた訳でもないし?」
「隊長・・・・・女の敵ですね」
「アンタ、ハッキリものを言う人だねぇ・・・ま、いいよ。名演技に免じて許しちゃう」
「・・・そんなに名演技でした?」
「そりゃあもう!俺、一瞬アンタが本当に俺の事愛してるのかと思っちゃったーよ?」

おどけた調子でそう言ったカカシに、イルカは少し考えるそぶりをして。
そして――――にっこりと笑った。

「実はね・・・本当にあなたのことを愛してるんですよ」
「へぇ〜・・・って、ええっ!?」
「と言う訳で、今回のお礼は『本当にあなたの恋人にしてくれる』ってことで、お願いします」
「え・・・えええ〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

驚きの絶叫を上げるカカシに、絶叫を上げさせた本人は
『隊長、任務は終了しておりますが、忍が大声を上げながら道を歩くのはいかがなものかと?』
なとど、すました顔で窘めたりしている。


『な、なに?この人・・・?』


訳が分らないまま、助けを求めるように他の仲間達(上忍三人)を振向くと・・・
皆揃って、『我関せず』といった風に空を見上げた。

―――――本当に、薄情な事この上ないやつらだった。



なんとなく、黒イルカ?(笑)


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