カカシは、ソファーに座って茶を飲む中忍を見つめた。
「ねぇ・・・アンタ、本気なの?」
「本気ですが?」
これからどうぞ宜しくお願いします。
そう言ってにっこりと笑う彼に、溜息が出た―――
★カカ誕2008★ 『バースデープレゼント』・・・3 
『礼として、アナタの恋人にしてください』という中忍に、カカシは唖然とした。
実は、男同士というのは、忍世界ではそんな珍しくもない。
実際カカシも、今まで何度もそんな誘いを受けたことがある。(とはいえ、自分は女の方が良かったので、誘いに乗った事は無かったが)
だから、他の奴から言われたのであれば、そんなに驚かなかったかもしれないが・・・それが、この男の口から出たのに驚いた。
だって、今回のチームが彼との初顔合わせだったので、その前は接点なかったし。
任務中も、そんなそぶりは全く見られなかったし。
第一、姫とのやり取りの間に俺の足を蹴っ飛ばした時の表情は、お世辞にも『好意を持っている相手にするもの』ではなかった。
それなのに、彼は俺の恋人になる事を望んだ。
「なんで?」
「言ったじゃないですか。愛しているからです」
「はい、ウソ!」
「信じてもらえないんですか?・・・さすが上忍!疑りぶかいですね?」
「・・・それ、全く誉め言葉になってないから。っていうか、アンタ、俺をバカにしてる?」
感心したように拍手をする中忍を睨むと、彼は拍手を止めて思案顔になった。
「・・・では、里に帰ったら、俺がどれだけあなたを愛しているか、証明して見せましょう」
「証明?どうやって?」
「この体で」
「からだ・・・・・はあっ!?」
からだって、体って・・・・・やっぱり、アレ?
再び唖然とするカカシに、彼はにっこり笑って。
「そうと決まれば・・・隊長、俺は準備もあるので、先に里に帰って宜しいでしょうか?」
「え、あ・・・」
「では、お先に失礼致します」
ちょっと待って!
準備って?何を準備するつもりなの〜〜〜〜〜!?
――――その言葉を発した時には、既に彼の姿は消えていた。
******
次に彼に会ったのは、受付所だった。
隊長として、報告書を受付に出していると、後ろから声を掛けられた。
「隊長」
「アンタ、どこに行って・・・・・・・えっ!?」
あの中忍の声だと気付いて、少々顔を顰めて振向いて・・・また唖然とした。
彼の手には、大きな風呂敷包み。
なによ、その大きな包。
準備って、何を準備してきたのよ!?
・・・まさか、この包の中全部、体を使って証明するためのオトナグッズが詰まってるんじゃ・・・。
カカシは、恐る恐るイルカを見つめた。
「・・・・・・アンタ、何持ってきたの?」
「俺の全財産です」
「全財産って・・・この中、金なの!?」
財産をすべて差し出して証明するつもりなの?
そう驚いていると、イルカは首を横に振った。
「金?まさか。俺は身ぐるみ剥いですべて売っぱらっても、こんなに金なんか用意できませんよ?」
「へ?じゃあ、何が入ってるの?」
「歯ブラシとか、パジャマとか、替えの忍服とか・・・」
「俺・・・・そんなもんいらないよ?」
「誰があなたにあげるって言いましたか。これは俺のです。これから一緒に住むんですから」
さりげない爆弾発言に、カカシは目を見開いた。
「一緒にって・・・・・・誰が、誰と?」
「俺とあなたが」
「え?」
「だから、俺とあなたが」
「別に聞こえなくて聞き返したんじゃなーいよ!」
聞こえないんですか?しょうがないですねぇといった風に復唱するイルカに、カカシはさすがに大声を出した。
先ほどからチラチラ集まり出していた視線が、今ので完全に向けられる。
「なんで俺とアンタが!?」
「だって、恋人ですから」
「は?」
「恋人といったら、当然、同棲です」
「なにその、『偏ってるのにそれをものともしない自信満々さ』は!?」
普通はデートとかから始めるもんでしょ!?
カカシは思わずそう叫んだ。
・・・・・恋人云々をまだ了承した訳でもなかったのに、イルカの頭の中の『恋人のあり方』が間違ってるの方にすっかり意識がいってしまい、肝心なことを忘れているようである。
なにせ、筋金入りのイチャパラーであるから、『恋愛』には少々うるさいのだ。
(ちなみに自分が女とよろしくやるときは、『恋愛』ではなく『遊び』なので、面倒なデートは一切省いている。/最低☆)
「でも、あなたを愛してると証明するには、これしか思いつかなくて・・・」
うるうるな瞳で切なげに見上げられて、一瞬たじろぐが。
「・・・嘘泣きには騙されなーいよ?」
さっき彼の名演技を見たばかりだった、危ない危ない。
内心で思いながらそう言うと、小さく『チッ』と聞こえた。
・・・やっぱり嘘か。
「あのね・・・悪いけど、俺、男は―――」
「仕方ありません・・・わかりました」
「え?わかってくれたの?」
ホッとしたように嬉しげな声を出すカカシに、イルカはワザとらしく肩を落として、くるりと背を向けた。
「姫にもう一度お目通りを願い出て、『俺は捨てられたので、俺の分まで頑張ってください』と激励してきます」
とぼとぼと受付所を出ていくイルカに、カカシはまたまた唖然として。
「ま、まてまてまて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
大慌てで、その背中を追いかける。
後ろで、受付所が騒然となるのが聞こえた――――
******
そんなこんなで色々あって。
結局、カカシはイルカを自宅に(決して招いた訳ではないが)入れていた。
放っておくと家中探検しそうなイルカをソファーに座らせて、冷蔵庫にあったペットボトルのお茶をグラスに注いで出してやる。
『喉乾いてたんですよ。ありがとうございます』と素直に礼を言って茶を飲み出すイルカを見ながら、聞いた。
「ねぇ・・・アンタ、本気なの?」
「本気ですが?」
やっぱり?
カカシは溜息をついた。
未だに彼が俺を愛してるとは思えないから、何か理由があるとは思うけど。
これでは、借りを作った途端『付き合え』とか『結婚しろ』とか言い出す、くの一達と何ら変わらない。
どうしたものか・・・と考えていると、『ご馳走様でした』と行儀良く頭を下げたイルカが立ちあがった。
「ちょっと、どこ行くの?」
「早速ですが、証明させていただこうかと」
・・・・・お風呂、どこですか?
はにかんだ笑顔を寄越すイルカを見て、冷汗が出た。