外に出ると、探すまでもなく、彼はそこにいた。

「イルカ先生・・・」
「あの・・・お聞きしたい事があって」

そう言って俯く彼の黒髪が、街灯の下で揺れた―――



 ★カカ誕2009★ 『魅惑の黒髪』・・・11 




自宅のベッドの上に座った状態で、イルカは目の前の床に座ったカカシを見つめた。

「あの・・・先程火影様が言っていたことが、気になって。―――俺で術が固定した訳じゃないんですか?」

病院の前で話しかけたイルカだったが、イルカの問いに答える前にカカシはイルカのアパートに移動してから話そうと提案してきた。
未だ体が辛いイルカを気遣っての事だったので、素直に頷くと、不意に横抱きに抱き上げられて・・・。抗議の声をあげる間もなく、瞬身の術でアパートに連れてこられ、ベッドの上にそっと座らされた。
運び方に大いに異議があったが、それ以上に先程の火影の言葉が気になっていたので、早速問いかける。
すると、カカシは困ったように眉を下げた。

「ええと・・・とりあえず先に言い訳させてもらいたいんですけど、アナタしか抱けなかったのは本当ですよ?」
「でも、火影様は術が後から補完する事など無いと・・・」
「そうみたいですね・・・アナタに指摘された時はそういう要素も半分はあるのかなと思っていましたが・・・どうやら全部気持ちの問題だったみたいですね」
「気持ち・・・って?」
「つまりね・・・きっと黒髪なら誰でも抱けたはずなんですよ。でも、俺は無意識にアナタ以外を拒絶してた・・・」

・・・アナタしか抱きたくなくて。

カカシの言葉に、イルカはビクリと肩を揺らした。
そして、不安げな瞳をこちらに向けてくる。

「あの・・・それは、どういう・・・・・?」
「俺ね・・・アナタと仲良くなってから、毎日が楽しくて仕方なかった」

気がねなく話が出来て、今まで悪友達と違ってタチの悪い悪戯を仕掛けられる事もなかったから、心からリラックスできた。
気さくに笑い合える、心落ち着く関係。


「俺は、あの頃アナタを友達と思って疑わなかった」


そう言うと、イルカは不安そうな瞳を揺らして、聞いてきた。

「友達・・・じゃ、なかったんですか?」
「ええ」
「・・・・・」

唇を歪めるイルカを苦笑して、付け足す。

「友達じゃなくて、愛する人・・・です」
「え・・・」
「アナタが好きです」

真摯に告白すると、イルカは大きく目を見開いて、言葉を失う。

「アナタを友達だと思っていた頃・・・一緒にメシ食って、他愛のない話をしましたよね。それだけで充実してたから、勿体無いほど満たされてたから・・・無意識にそれ以上望んじゃダメだと思ってたのかもしれない」

でも、あの日アナタを抱いて・・・アナタへの想いが友情なんかじゃないと知った。

カカシは膝立ちになって、イルカの両手を取り、瞳を覗き込む。
あの日・・・暗示よりも自分を支配した、彼の黒い瞳―――

「友達なんかじゃ到底足りない・・・俺は、アナタの全てが欲しい」


俺の恋人になって・・・?


「アナタの瞳に映してもらえないのは、もう耐えられそうもありません」

カカシはイルカに懇願した。
イルカはそんなカカシをじっと見つめて・・・そして、ウロウロと視線を彷徨わせてから、喋り出した。

「・・・俺が、あの日アナタの顔を見なかったのは・・・あなたの顔を見たくなかったわけじゃなくて、見られなかったんです」
「え・・・?」
「だって、薬を抜く為とはいえ、あんな風に抱き合った後ですよ!?しかも、あなた、事後も優しいしっ!・・・・・・・顔を見たら、勘違いしちまうと思って、みられなかったんです」
「勘違い?」
「あなたは最中も事後もすごく優しくて、愛しげに俺に触れるから・・・・・」


俺は・・・あなたに愛されてると、勘違いしそうだった。


「だから、あなたの瞳を見ることが出来なかった・・・だって、そんな事ありえないと思ったんです」

それなのに・・・・・まさか・・・・だなんて。
もごもごと、頬を染めて呟くイルカを見つつ、カカシは幸せな気分になった。

「・・・ねぇ」
「・・・はい」
「もしかして・・・イルカ先生、前から俺の事が好きだったの?」
「・・・・・・・はい」

言われた言葉にギクリと体を強張らせたものの、イルカはすぐに観念したように頷いた。

「親しく言葉を交わすようになってからあまり時間が経たないうちに、俺はあなたを特別に思うようになりました。それが恋だと気付いて・・・悩んだ末、俺は告白するより友人に徹しようと決めました」
「どうして?」
「あなたが俺と同じ思いを持ってくれるなんてとても考えられなかったし、俺はあなたが好きで・・・好きすぎて、言ってあなたを失ってしまうのが怖くてたまらなかったんです」

友達でもいいから、あなたの側に居たかった・・・

「だから、あの時・・・梟面の方に伽を頼まれた時、本当は行きたくありませんでした。例えあなたと肌を合わす事などこの先も無いと知っていても、他の人に触れられるのは堪らなく嫌で・・・でも、あの場に黒髪は教え子のあの子と俺しか居なくて・・・覚悟を決めてあの場に行きました」

なのに、そこに居たのはあなただった。

「びっくりしたでしょうね・・・俺もびっくりでしたけど」
「ええ・・・複雑な気持ちでした」

相手があなただと知って、ホッとして。
あなたと抱き合えるのに、高揚して。
でも・・・あなたが、いつもこうして色んな人と抱き合っているのだと思って、嫉妬しました。

「あなたが伽ではなく薬を抜く為に人を呼んだのだと知って嫉妬は消えましたが・・・その後、他の者を呼んで欲しいと言われて、辛くなりました。もちろん、教え子に伽をさせたくないと言うのは嘘じゃありませんが、それよりなにより俺があなたに抱いてもらいたかった。だから、必死にあなたにお願いしたんです」

でも・・・と言って、イルカは目を伏せた。

最中は幸せでしたが・・・終わった後、俺は自分の浅ましさに堪らなくなりました。
教え子の為、あなたを救う為と言い訳をしながら、本当はあなたに抱かれたかっただけなんです。
しかも、あなたの優しい態度を自分の都合の良いように勘違いしてしまいそうで・・・
だから、あなたの瞳を見られなかった。
―――そう言って、イルカは目を伏せた。

「そうだったんですか・・・お互い、勘違いで遠回りしてたんですね」

アナタは俺に嫌われると思って、こちらを向けないでいて。
俺はそんなアナタに嫌われたと思って、近づけないでいた。
―――でも、そんな勘違いも暗示と共に消えた。
カカシは両手で彼の顔を包んで引き寄せ、二人の前髪が触れ合うほど顔を近づけて問いかける。

「誤解が解けたところで・・・先程の返事は?」
「え?」
「言ったでしょ?『恋人になって』って。・・・返事、まだもらってませんよ?」

そう言って笑うと、イルカはかあっと顔を赤くして。
また視線をうろうろと彷徨わせた後、意を決したように言った。

「・・・俺でよろしければ」


俺、あなたの事がずっと好きだったんです・・・


イルカはそう言って、はにかんだように微笑む。
カカシもそんな彼の言葉に嬉しそうに微笑んで。


そして、どちらからともなく、唇を合わせた―――――




やっとここまで!次はエンディングv


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