くろかみ、黒髪・・・アナタの黒髪。
俺の下で、黒髪が踊る。
触れて、絡めて、口付けて。
俺は、それを求めた。
夢中になって求めていると―――体の下からくぐもった声が聞こえた。
「・・・シさん、カカシ、さん・・・・・」
黒髪を指で梳いてやりながら、返事を返す。
「・・・・・なぁに?」
自分でも驚くほど、甘い声が出た―――。
★カカ誕2009★ 『魅惑の黒髪』・・・5 
この行為は、暗示をかけられた体を鎮める為の行為な筈なのに。
了承を得たとはいえ、お互いを求めての行為では無かった筈なのに。
なのに・・・・・まるで恋人にかけるような、甘ったるい声が出た。
「どうしたの?・・・きつい?」
体がキツイのかと問いかけておいて、でも、動きは止めなかった。
―――というか、止められない。
最初は暗示の効果がきつく、まるでけだもののように奪ってしまったが。
黒髪に触れ、体を一度快楽で満たした事で暗示が弱まったのか、少し落ち着きを取り戻せた。
だが、凶暴な欲求こそ少しは治まったものの、まだ彼を解放してやれそうもない。
『止めてくれと言われたらどうしよう・・・』と、内心では途方にくれながら、彼の黒髪に口付けた。
「どこか・・・痛い?」
「い、え・・・そうじゃなくて・・・これ、外したら・・・やっぱりダメですか?」
「え?」
これ・・・とは、彼の目を覆っている額宛の事だろう。
最初、彼は自分とこんな事をするのは気まずいだろうと思い、自らの手で彼の目を覆っていた。
だが、行為が深まるにつれ、片手を目隠しに使っていられなくて・・・彼の額宛をずらして、その瞳を覆ってやった。
全ては、イルカの為。
でも、彼はそれを止めて欲しいらしい。
「え・・・でも」
嫌じゃないのだろうか?
そう思いつつ眉を潜めると、小さく呟くようなイルカの言葉が聞こえた
「・・・・やっぱり、顔見たら萎えますよね・・・・・」
「えっ!?いや、そうじゃなくて、見えたらアナタが嫌なんじゃないかと・・・」
困ったようにそう答えると、少しして、イルカは静かな声で言った。
「あなたが嫌でなければ、外してください・・・」
「・・・・・・分かりました」
片手で、彼の瞳を覆っていた額宛を引っ張る。
取り去る時、少し手が震えた。
彼の視界を奪ったのは、確かに彼の為だったのに。
外そうとしたら、今度は彼がどんな瞳で俺を見るのだろう・・・と、怖くなった。
先程までの酔ったような甘ったるい気持ちが、一瞬で消え・・・胸に不安が押し寄せる。
それでも意を決し、カカシはイルカの希望通り額宛を外してやった。
―――おそるおそる彼の瞳に視線を合わす。
「・・・イルカ先生」
名を呼ぶと、ゆっくりと彼の瞳が開かれる。
そして、あらわになった、彼の瞳。
彼の瞳には、怒りも、恨みも、同情も・・・そして、こちらを蔑む感情も浮かんでいなかった。
唯一、垣間見える感情は―――
「すみま、せん・・・・・あなたの顔が見たくて」
吐息と共に吐き出された言葉。
彼の瞳は、潤んで、気だるげに揺れている。
こちらを見つめる彼の瞳には・・・・・あきらかに色を含んだ艶があった。
『つっ・・・』
思わず、息が止まる。
さっきまで黒髪に心奪われ、目が離せなくなっていた。
くろかみ、黒髪、黒い髪。
心を支配する、艶やかな黒髪。
だが、それを消し去るほどの衝撃で、今度は黒い瞳が己を支配するのを感じた。
「いるか、せんせ・・・・・」
名を呼ぶ声が、嗄れる。
獣のように喉を鳴らすと、再び噛み付くように彼に口づけた―――