報告書を無事提出し終わったカカシは、イルカの受付業務が終わるのを待って、二人で外に出た。

イルカが予定が午前の受付だけの早あがりだったため、まだ昼過ぎ。
途中の定食屋で昼飯を食べてから、二人並んで川沿いの道をのんびりと歩いていく。
―――歩きながら、カカシは思った。

『夢でも、こんな場面あったな・・・』

ここかどうかはわからないけれど、どこかの川沿いを二人で歩いて。
ただのんびりと歩いているだけなのに、凄く幸せだった。


・・・・・まるで、今みたいに。


夢と同じ幸せな気分を噛み締めながら、カカシは横を歩くイルカの横顔を見つめて微笑んだ。




・ あなたを愛する夢を見た ・ ――10――




「イルカ!こっちだーよ」
「ここ、ですか・・・?」

カカシにはお気に入りの場所があった。
慰霊碑近くの森の中の、大木の下。
天気のよい時はキラキラとした木漏れ日が美しいその場所は、他者はほとんど来る事がなく・・・静かで昼寝に最適だった。
カカシはそこに初めてイルカを案内した。
秘密の場所ではあったが、イルカなら教えても全然問題ない。
むしろ、イルカがここで一緒に過ごしてくれたら嬉しい。だから、誘ったのだ。
――――大木の下に立ったイルカは、ぐるりと周りを見回して言った。

「・・・・・・素敵な所ですね」
「でしょー?昼寝にはサイコーなんだから。―――ね、ここなら誰もこないからいいでしょ?・・・・・して?」

イルカの顔を覗き込む様にして、ねだった。

「・・・わかりました」

甘えた声を出すカカシに苦笑しながら、イルカはその木の下に腰を下ろした。
あぐらをかいて座ってから、ポンポンと片方の膝を叩いて見せる。

「はい、どうぞ?」

その言葉に、カカシは額当てを放り投げ、口布を下ろすと・・・まるで飛び込む様な勢いで、イルカの太ももに自分の頭をのせた。

「う〜〜〜〜〜〜っ、幸せv」
「・・・カカシさんって、妙な人ですよねぇ?俺なんかより、もっと気持ち良い膝枕してくれる人なんて沢山いるでしょうに?」

あなたなら、相手探すのにも困らないでしょう?
暗に、『膝枕なら女にしてもらえ』と匂わせて、呆れたような声を出すイルカに、
ぐりぐりとイルカの足に頭を摩り付けて悦に入っていたカカシは、ふて腐れたような声を上げた。

「な―んで他の奴なんかに大事な頭を預けなきゃいけないのよ?寝首かかれたらどうすんの?」
「・・・・・それって、俺を信頼してるって言いたいんですか?いっときますけど、俺達知り合ったのつい最近ですよ?アンタ、俺のことまだほとんど知らないでしょうに?」
「しってーるよ」
「えっ!?」

驚いた顔で、イルカはじっとカカシを見つめる。
カカシはそんなイルカの顔を見つめながら、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「俺はちゃんと知ってるの。『イルカの側は心地良い』って・・・それで十分でしょ?」

ニッと子供のような笑いを浮かべる恐ろしく綺麗な顔の男に・・・イルカは困ったような笑みを浮かべた。

「なんの根拠もないじゃないですか。俺が実は『良い人』のフリをした敵忍のスパイで、寝首かいたらどうするんです?」
「いいよ。イルカになら殺されても」
「・・・アンタ、何言って・・・・・」
「いいけど、でもイルカは俺を殺さないよ?・・・俺にはわかーるの!」

だって、イルカの匂いは優しいもん。
優しくて、すごく心地良いんだもん・・・なんの心配もしてないよ、俺。
―――そう言って、カカシはイルカの腰に腕をまわし、ぎゅっと抱きつくと・・・匂いを嗅ぐようにわき腹のあたりに顔を埋めて、ふにゃっと笑った。

「・・・つまり、『野生の勘』ってことですか?犬が、何故か犬好きの人を見分けたりするような?」
「んー?・・・似たようなもん・・・か・・・・な」

カカシの仕草にくすぐったそうにしながらそう問いかけたイルカだったが、カカシの答えがなんだかおぼつかない感じになってきたのに気がついた。

「眠いんですか?寝ても良いですよ?」
「ん・・・・・じゃ、イルカも一緒に・・・・・」
「このままで構わないですよ。・・・頑張って早く帰ってきたから、疲れたんでしょう?」

側にいますから、寝てください。
――――そう言って頭をなでてやると、「うん」とくぐもった声が返って来た。
そのまま寝入ってしまうかとおもっていたのだが、また眠そうな声が聞こえてきた。

「イルカぁ・・・アスマがねぇ、俺のイルカのへ気持ちが『友達に向けるものじゃない』って」
「え?」
「俺とイルカは友達じゃないんだって。変だっていうんだーよ・・・」

目を瞑ったまま、眠そうにむにゃむにゃというカカシ。
イルカは、その長いまつげを見ながら・・・ぽつりと、呟くように言った。

「いいんですよ」
「・・・え?」

カカシはすっかり落ちていた瞼を少しだけ開けて、イルカを見た。

「別に、他の人達と一緒でなければいけないことなんてないでしょう?貴方が・・・俺達がそうおもっているんだから、いいんです。他の人から見てどう見えるかなんて、関係ないですよ」
「イルカ・・・」
「カカシさんと俺は、友達ですよ」

優しく微笑むイルカをぼんやりと眺め、カカシも微笑み返す。

「だよねー?外野は関係ないよね、俺達、友達だーよね!」
「ええ、そうですよ。・・・・・・さぁ、もう寝てください」
「うん・・・・・夕飯も一緒にたべよーね?」
「はい」

優しく髪を梳く手に促されるようにして、カカシはまた目を閉じる。
そのまましばらく髪を撫でていたイルカだったが、不意に手を止め・・・猫毛の柔らかい髪が指に引っかかったりしないよう、そっと手を引いた。
息をつめて耳を澄ますと、聞こえてくるのは静かな、規則正しい呼吸音。
確かにカカシが眠っているのを確認して、イルカは小さく息を吐くと後ろの大木にもたれかかるように背を預けた。

見上げると、生茂った緑の葉。
葉の間から覗く木漏れ日が、キラキラと輝いている。
・・・・・・・・・相変わらず、綺麗だなと思った。
イルカは揺れる光を見つめながら、呟く。

「いいんですよ・・・・・・友達で」

瞳を閉じると、膝にある温もりがじんわりと胸に広がった。


「・・・・・俺は、二度と間違えたりしませんから」


イルカの呟きは、吹いてきた柔らかい風と共に消えていった―――






甘え上忍に、甘やかし中忍。・・・アスマの認識の方が正しいと思います(笑)


back     next    ナルト部屋へ