そして、二人の熱い友情が始まった―――


カカシはあの日『泣き落とし』という荒業で、イルカとの食事権を獲得してからというもの、 任務以外はべったりとイルカにくっついて、離れなくなってしまった。
人とつるむ事が少なく、クールなイメージだったカカシの変貌振りに、周囲は驚き。
―――そして、カカシのイルカへのメロメロぶりは、木の葉の忍なら知らぬ者はいないくらい広まった。

それを面白く思わぬ者もいたが――――
カカシのイルカへの執着振りを見ると、簡単に手を出すわけにも行かず。
何より、二人が一緒にいる場面を見ると、何故か・・・どっと疲れてそんな気もなくなる。

「イルカ、イルカ!!」
「カカシさん?どうしたんですか?」
「俺、今日の午後から長期任務になっちゃった!」
「え?そうなんですか・・・・・どのくらい?」
「3日!」
「・・・・・・は?」
「は?じゃないよ!!3日だよ?3日もイルカに会えないんだよっ!?」
「・・・・・・」

本気で今生の別れの様に涙目になっている『里の誉』に、見ていた者はへたり込みたくなるような疲れを感じてしまう。

「行きたくない〜〜〜〜〜!」
「・・・・・わがまま言わないで、カカシさん。3日位すぐですよ?あなたなら、3日もかからないかもしれませんし」
「じゃあ、早く終わったらご褒美ちょうだい」
「ご褒美?・・・・・ちなみに何を?」
「あのねあのねっ!イルカの膝枕がイイ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー・・・、はいはい」
「んじゃ、すーぐ帰ってくるから待っててね!また新しく友達なんて作ってないでよ!?」
「わかりましたから、急いで怪我なんてしないでくださいよ?」
「はーい!」

グリグリとイルカの肩口に額を押し付けながら甘えたおすカカシと、呆れながらもその銀髪を撫でながら苦笑して・・・最終的には甘やかすイルカ。
それを見ながら周囲の者は、どっと疲れた頭で思うのだ。

『こういうの、なんていうんだっけな?・・・・・・ああ』


バカップル?


いや、一応『友達』らしいから、『バカフレンド』だろうか?
ああ、でもそれじゃあ洒落になってないよなぁ・・・『バカップル』てのは、バカとカップルの『カ』をかけてあるんであって、『フレンド』じゃだめだよな〜。

などと――――皆、考える必要のない事を考えて現実逃避するのだった。




・ あなたを愛する夢を見た ・ ――9――




3日の任務をたった1日で終わらせてきた男は、里に帰ったその足で受付に向う。

「あ、イルカみーっけ!」

受付机の向こうにイルカを見つけたカカシは、嬉しそうに頬を緩めた。
それを見て、隣にいたアスマは気持ち悪そうに顔を顰める。
だが、カカシはそれに気付く気配も見せず、トンと床を蹴った。
―――――― 一足飛びに、受付に座るイルカの横に立つ。


「イルカ」


声をかけると、イルカは一瞬驚いた様に瞬きをした後、にこりと笑ってカカシを見上げた。

「あ・・・カカシさん。お帰りなさい」
「たーだいま♪」

笑顔で迎えられて、『あー、ホント帰ってきてよかったな〜v』と、嬉しくなる。
カカシはへらっと、頬を緩めて笑った。
嬉しげに目を細めるカカシに苦笑しながら、イルカはカカシの手にある報告書をチラリと見た。

「今帰ったばかりなんですか?」
「うん。ちゃんと寄り道せずに、真っ先にイルカに会いにき〜たよ♪」
「何言ってんですか『俺に』じゃなくて、『報告書』出しに、でしょう?」
「違うよ、イルカがいなきゃ真っ直ぐなんて来る訳ないじゃない!」

ね、偉い?誉めてよ〜!
横からぎゅ・・・と抱き着いて、頬ずりしようと近づけて来たカカシの顔を、イルカは片手で受けとめた。
グイッと思いっきり押しやってから、憮然とした顔で嗜める。

「何えばってんですか、アンタは。・・・俺が居ようが居まいが、真っ直ぐ報告書を出しに来るのは当たり前です!そんくらいで誉めませんよ」
「・・・イルカのイケズ」
「はいはい、イケズでかまいませんから・・・報告書出すなら列に並んでくださいよ!」

お待たせしてすみません。
イルカは拗ね始めたカカシをほっといて、受付途中だった中忍の報告書を確認し始めてしまった。
そう、受付は今結構混む時間帯で、イルカの前には長い列ができていたのだ。
――――――つまり、カカシはそこに無理やり割りこむ形でイルカにじゃれ付いていた。
そんな立場なクセに、背中を向けられ、カカシはムッとしたように拗ねた声を出した。

「Aランク任務から帰ってきた友達に対して、冷たすぎるんじゃない?」
「・・・友達なら、俺を困らせるようなことはしない筈ですよ?」
「やっぱり、冷たい・・・・ね、アンタもそう思うでしょ?」

急に話を振られた受付途中の中忍は、ビクリと肩を揺らして、コクコクとすごい勢いでうなずく。 そして、青い顔でおずおずと申し出た。

「あ、あの、はたけ上忍。どうぞお先に・・・・・」
「え、いいの?」
「駄目ですっ!」

イルカは二人の会話を遮ると、キッとカカシを睨んだ。

「・・・・・・・カカシさん・・・・・・」
「わ、わかったから。イルカ、おこんないでよ・・・俺、ちゃんと並ぶし」
「わかれば良いんです」

ピシャリと言われて、カカシはすごすごと列の後ろに歩いていく。
イルカの列に並んだ忍達がチラチラと好奇の視線を寄越すが、意にかえすでもなく、ゆっくりと歩いて最後尾に並んだ。

「・・・・・・お前、変わったなぁ・・・・・・」

呆れたようなアスマの声が聞こえた。
視線を向けると、後の壁に背を預けた格好で、アスマがタバコをふかしていた。

「・・・タバコなんか吸ってる暇があるなら、並んどいてくれればいいでしょ?気が利かないの!」
「なんで俺がお前に気なんかつかわなくちゃならねーんだ?」
「かわいくなーい。イルカの一億分の一もかわいくなーい」
「・・・あんなに邪険にされてても、イルカが可愛いのか?」
「可愛いよ!最高に可愛い!!あんなに可愛い友達出来て、俺幸せvvv」
「・・・・・・友達、ねぇ」
「それにね、本当は列に並ぶのも嫌じゃないの。並んでる待ってる間、イルカが仕事してる姿見られるし。それにね、後三人、後二人・・・って感じで、イルカとの距離が少しづつ近づいていく感じがたまんないだよねぇ」

うふうふと妙な笑いを浮かべながら、小声で『さっきは、かまって欲しくて拗ねたフリしてみただけなんだ。イルカには秘密だーよ?』なんて、言っている。
アスマは、ため息をついた。

「お前・・・それ、友達に向ける感情じゃねぇよ」
「なんでー?大好きで、一緒にいると楽しくて癒されて、側にいると触ったり舐めたりしたくなっちゃうほど可愛い『同性』。・・・友達でしょ?」


ちがうちがう。


アスマのみならず、周りに居た二人の会話を盗み聞きして居た者達も一斉に心の中でつっこむ。
・・・・・少なくとも、普通友達は舐めたくならない。

「あー・・・お前、まともに恋も友情も育んでこなかったからなぁ・・・わかんねーか」
「なによ、その哀れみの入った目。失礼しちゃう!俺とイルカの関係のどこが友達じゃないの・・・・・あ!!」

ハッとしたように、カカシは口を押えた。
アスマは、お・・・と顔を上げた。

「わかった・・・・・・」
「やーっと、わかったか?お前がイルカに向けてるような感情は・・・・・」


「親友、だ〜ね!?」


は?
――――――聞いていた全ての者の思考が固まった。

「そうだよね、友達より親密な友達だもんね〜、親友だよね!うわ、親友かぁ。オビト以来だ・・・なんか照れくさいっ」

いやん、とくねくねと身もだえするカカシに、辺り一帯からため息が聞こえた。

『だめだ、こりゃ・・・』

アスマは、『俺、行くわ』と短く言って、出口に向った―――――




舐めたい自覚はあるようです(笑)


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