『あの男だ――――』
カカシは、唖然と彼を見つめた。
・・・夢の中の男が、今現実に目の前にいる。
あまりの衝撃に、男が『結構ですよ』と言ったのにも気付かず・・・
カカシはしばしぼんやりと彼を見つめていた――――
・ あなたを愛する夢を見た ・ ――2――
「あの・・・・・?」
我に返ったのは、男が不審そうに呼びかけるのに気がついてからだった。
「あ・・・ごめんね、少しぼんやりしちゃった」
「いえ、そんな。お疲れなんですよね」
男はまだ手に持っていた報告書にチラリと視線を走らせて眉を僅かに寄せたあと、『お気になさらないで下さい』と心配げにこちらを見上げた。
・・・・・・どうやら、任務内容を見て同情したらしい。
「報告書に不備はありませんでしたので、これで任務は終わりです。ごゆっくり体を休めてください」
そう言いながらもう一度こちらを見つめる男を、見つめ返す。
・・・・・やっぱり間違いない、この男だ。
「あの・・・えーと?」
再び終了した事を告げても動こうとしないカカシに、首を傾げる男。
その、戸惑った様に眉を寄せる様を見ながら・・・カカシは声をかけた。
「アンタ・・・名前、なんていうの?」
「えっ?あ・・・うみのイルカと申します」
『うみのイルカ』―――心の中で復唱してみる。
・・・受付にいるってことは、やっぱり中忍だろう。
でも、今まで見かけた事がない。
「前から受付にいたっけ?」
「えーと・・・前から受付業務にはついておりましたが、俺、アカデミーの教師と兼任なので、受付にいる時間は短いです」
「ふーん」
そうなると時間帯がずれれば、全く会わないだろう。
・・・・・とはいえ、受付の顔などいつもまともに見ていないので、会っても覚えていないだけかもしれないが。
もともと、受付でもらうような仕事自体が、俺には少ないし―――。
「あの・・・何か?」
「いや、ね・・・アンタと何所かであった気がするんだけど、思い出せなくて。ココであったんだっけかなー?と思ってね」
「え・・・俺、結構人の顔は覚えている方なんですが、ここであなたにお会いしたことはないと思うんですけど?」
というか・・・初対面だと思いますが?
困惑した様に男はそう言った。
「そう・・・・・」
―――本人に聞けばハッキリすると思ったのに。
カカシは少し落胆して、気のない返事を返した。
『なら、どこかで見かけただけなのかなー?』
すっきりしない気分で考えていると、少し遠慮がちながら・・・はっきりとした声が下から掛けられた。
「あの、すみません」
「え?・・・やっぱり思い出した?どっかで会ってる!?」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・後ろの方が待っていらっしゃるので」
出来ればよけていただけると嬉しいんですが?
そう言われて後ろを見ると、いつの間にやら後ろに人が数人並んでいた。
「あー、ごめんね?ココにいたら、邪魔?」
「はい、今は。」
ひいっと、もう一人隣に座っている受付の男が息を呑むのが聞こえた。
・・・・・そんなに怯えなくても、いいじゃないの?別にこのぐらいで怒ったりしないのに。
それにしても、この人ワリと物怖じしないのね。
内勤の人にしては珍しいなぁと思いながら、もう一度『ごめんね』と謝って、背を向けた。
「あ・・・」
背を向けた時、彼が何か言いかけたのが聞こえて、もう一度振り向く。
「・・・なに?」
「いえ・・・」
「何か言いかけたじゃない?」
「・・・今は忙しいですけど、どこかで会ってないか後で俺も考えてみますね」
思い出したら、お声掛けさせていただきますね。
そう言って『イルカ』と名乗った男は、また夢と同じ人好きする笑顔を寄越した。
「・・・うん。よろしーくね?」
カカシはニコリと笑顔を返すと、今度こそ受付を離れた。
部屋を出た途端、何やら室内がざわめくのが聞こえた。
******
「・・・なんか、変わった人だーよね?」
廊下を歩きながら、一人呟く。
先ほどの男。結局どこで会ったか思い出せなかったが・・・何やら変わった男だとは分かった。
いや、変わってるという言い方で合っているかどうかは分からないが。
・・・・とにかく、今まで出会った事のないタイプの人間だと思う。
任務帰りの自分は、消したつもりでも少し殺気のようなものが纏いついているようで。
大抵―――出会った人間は、怯えたような表情をする。
・・・隣に座っていた、もう一人の受付の男のように。
なのに、あの人は最初から笑顔全開で応対したばかりか・・・『邪魔?』との問いかけにハッキリと『ハイ』と答えて寄越した。
―――あんな中忍、見たことない。
もう一回、薄暗い廊下で呟いた。
「やっぱ、変な人だよね〜?」
「変なのは、アンタでしょう?」
からかうような響に後ろを振向くと、紅が意味深な笑いを浮かべてこちらを見ていた。