紅は、あからさまに『面白いものみ〜ちゃったv』といった態度で、近づいてきた。
カカシの横までくると、赤い唇をニッと持ち上げてから、見上げてくる。

「なぁに、さっきの?受付でアプローチなんて、アンタにしちゃ随分可愛い事してるじゃないの?」
「はぁ?何いってんの?」

眉を寄せて見せると、フフフと笑う。


「しらばっくれんじゃないわよ。・・・さっき、受付の中忍口説いてたじゃない?」
「はぁっ!?」


何言ってやがんだ、この女。どーしてさっきのが口説いた事になんのよ?
睨んでみるが、紅は堪えた風なく楽しそうに笑った。

「それにしても『何処かで会ったことない?』なんて、随分古い手使うわねぇ、アンタ?」
「んなわけなーいでしょ!・・・ったく暇ならオレじゃなく、アスマで遊べば?」

ヒゲなら、お前に遊んでもらえれば喜ぶでしょ?オレはゴメンだーけどね!
舌を出して見せてから瞬身を使って消える男を、紅は意味深に笑って見送ったのだった。




・ あなたを愛する夢を見た ・ ――3――




「ったく、アイツがアホなこと言うから、なんだか気になっちゃうじゃないのよ・・・」


次の日の夕方。
任務を終えたカカシは昨日の紅とのやり取りを思い出して、ブツブツと文句を言いながら歩いていた。
手には報告書。これから受付に行く所だ。
だからか、よけいに昨日の中忍の事が頭に浮かんでくる。

「・・・・・・思い出したかな、オレの事」

うみのイルカと名乗ったあの男。
オレのことは思い当たらないが、後でゆっくり考えてみると言っていた。

「・・・・・・思い出してれば、いいな」

でなければ・・・気になって仕方がないのだ。
イラついた仕草で、小石を蹴る。
こんなに気になっているのは――――実は、紅のせいだけではない。



昨夜も――――あの男の夢を見た。



とはいえ、あの男は出てこなかった・・・・・俺が、一人で彼を待っている夢。
どうやらいつも二人が待ち合わせているらしい、場所―――森の中。
先についた俺は、あの男が来るのを今か今かと待っている。
この俺が、またされているというのに全く不快感を感じる事もなく・・・
それどころか、来たらあの事を話そうこの事を話そうと、あの男との会話の内容を考えては幸せに浸っていた。

・・・・・あの男との約束は、待っている時間さえとんでもなく幸せだった。

『早く来ないかな』
幸せに顔を緩ませながら男がいつも現れる方向を眺めた時に、目が覚めた。



『最初の愛の告白もそうだったけど、また有り得ない夢見ちゃったーよね・・・』

この俺が『待つのさえ幸せ』なんて―――我ながら、薄ら寒い。
しかも、心待ちにしていたのに現れぬまま目が覚めたので、なんだかお預け食らわせられたまま忘れられた犬のように、欲求不満。
だから、任務のパートナーが出そうとしていた報告書をひったくるように引きうけてきたのだ。


つまり―――――――言ってしまえば、あの男に会いたくて仕方ない。


『だってさ、スッキリしないんだもん』

あんなに夢に出てくるのに
夢で、俺を幸せにしてくれるのに
現実では初対面で、俺のことを全く知らないなんて―――とても、信じられないのだ。


『今日こそ、あの人とどこで会ったか分かれば良いんだけど』


そう、心の中で呟きながらカカシは足を速めた。



******



受付所に行って、カカシは唖然とした―――――――あの男が、居ないのだ。


部屋の隅々まで見回してみたが、やはり居ない。
期待がはずれ、カカシは不機嫌そうに眉を寄せた。

『そーいや、アカデミーと兼任だっていってたっけ・・・今日はアカデミーに居るのか?』

もう一度受付をみると、昨日『うみのイルカ』と一緒に受付にいて、俺にびくついていた男が今日もいるのに気がついた。――――足を、向ける。

「お願い」
「はっ、ハイ!!お、お預かり致します・・・」

相変わらず今日もビクついているが、それは無視してずいっと身を乗り出す様にして近づいた。

「ねぇ」
「ひっ・・・・・は、はい?」
「『うみのイルカ』サン、今日は居ないの?アカデミーなの?」
「あ、いえ・・・今日も受付だったんですが、先程火影様に呼ばれまして」
「火影様?あの人、火影直々の任務とか受ける忍なの?」

火影直々の命による任務といえば―――――暗部の仕事。
・・・・・とても、そんな忍とは思えなかったが?
眉を寄せるカカシに、受付の中忍は慌てて首を横に振った。

「あ、直々といえばそうですが・・・任務と言っても事務処理の方でして。アイツ、ああみえて火影様の信頼厚くて・・・秘書のような仕事もしてるんですよ」

欲しい資料が見つからない時とか、なくした時とか・・・良く呼ばれるんです。
―――受付の男は、そう言った。

「へぇ、そうなの。・・・んで、すぐに帰ってくる?」
「あー・・・そこまではちょっと。・・・呼ばれて行ったのはつい10分ほど前ですけど」
「ふーん」

どんなことを言いつけられたかは知らないが、10分前じゃすぐには戻らないかもな。
『・・・・・待つか?』
ソファーで戻るまで待とうかと思案するが・・・後少しで紅やガイの隊が戻ってくるのを思い出した。

『またあの女に絡まれるのは鬱陶しーなぁ。・・・それ以上に、ガイに挑戦状を叩きつけられるのは、もっと鬱陶しい・・・』


今日は諦めるか・・・・・。


不機嫌にチッと舌打ちをすると、目の前の男がまたビクリと震えたのが見えた。
『アンタビビリ過ぎ・・・・・まぁ、あの人はビビらな過ぎだけど』
まぁいいやと放ったまま立ち去ろうと思ったが、ハタと思いついて動きを止めた。
『あの人の事また聞かなきゃかもだし、少し印象良くしておいた方がいーかな』
そう思い立ち、付け足しの様に礼を言った。

「分かった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがと」
「え!?あ!・・・い、いいえ!」
「んじゃ」
「あ!あの・・・っ、報告書・・・・」

報告書の確認の是非を聞き終わらぬうちに、カカシは踵を返した。
――――あの男がいないなら、ここにはもう一秒だって用はない。


「ちぇ・・・」


家路につきながら、我知らず拗ねたような声がカカシ口からこぼれていた。



******



「コハダ、遅くなって悪かった!」


イルカが受付に戻ったのはあれからしばらく後。もう受付に客がいなくなってからだった。
火影室から戻ったイルカに、がらんとした受付所にただ一人残っていた同僚は、勢い込んで言った。

「あ、イルカ!!少し前、はたけ上忍が来たぞ?」
「はたけ上忍?ああ、昨日の・・・。んで、それが?」
「それがさぁ、お前がいなかったから、すっごい不機嫌で。俺、びびっちゃったよ〜!」
「なに馬鹿言ってんだよ。俺がいないからって上忍が不機嫌になるわけないだろ?」
「本当だよ!お前がどこにいるのか聞かれたんだから!いつもどるのかって詰め寄られて・・・でも、俺そんなのわかんないしさ。『いつ戻るかわからない』って言ったら、報告書の確認を告げる前にさっさと帰っちゃったし。・・・絶対お前に会いに来たんだって」
「・・・・・・そうか」

そのまま考えこむイルカの顔を、同僚は覗きこんだ。

「なぁ・・・昨日お前、はたけ上忍に『会ったことない』って言ってたけど、ホントなのか?」
「ホントだよ。あんな人、知らない」
「オ、オイ、あんな人って・・・。写輪眼のカカシに向って、オマエなぁ」
「だって、知らないもんは知らないんだ」
「つーか、あの有名な写輪眼をしらないっつーのにも驚きだったけどな」

コハダはそう言ってため息をついた。

昨日ビビリまくっていた自分に、イルカは『なにビビってんだ?』とあっけらかんと聞いてきた。
『お前、殺気付の『写輪眼のカカシ』に『邪魔』とか言ったんだぞ!?見てるこっちが怖いって!!』
『そっか・・・でもさ、邪魔だっただろ?」
イルカはさも当然のように、さらっと言い捨てた。
――――『イルカ』なんて可愛い名前のクセに、コイツは結構強者なのだ。

「本当に上忍、すっげぇ気にしてたぞ?」
「・・・・・・・」

同僚の言葉に、イルカは思案顔で押し黙って。
やがて、コハダに問いかけた。

「なぁ・・・・・」
「うん?」
「あの人、俺に興味を持ったのかなぁ。どう思う?」
「そりゃ・・・持ってるだろ。さっきも言ったけど、なんでかわかんないけどすっげぇお前の事気にしてるし」
「そっか・・・・・・」

イルカは目をつぶって・・・そして、一瞬困った様に顔を顰めた後。
―――決意したように、サバサバとした笑いをコハダに向けた。



「しょーがねぇなぁ・・・・・・・・・・・・・・いっちょ、友達になってやるか!」



『はぁ!?』
すっとんきょうなコハダの声が、受付内に響いた。






どうやら、友達にはなってくれるようです(笑)
・・・・・・・天然系じゃなくなってきた;


back     next    ナルト部屋へ