次の日の夕方、イルカはまた受付所にいた。


相棒は、今日もコハダ。
そろそろ今日の任務を終えた忍達で混み出してくる時間。
隣で「よーし、そろそろだな」と、混雑を予想し伸びをして気合を入れるイルカに、コハダは昨日から気になっていた話を切り出した。

「なぁ、イルカ」
「ん?」
「昨日の・・・・・・・冗談だよな?」
「昨日の?」

イルカは、訝しげに聞き返した。




・ あなたを愛する夢を見た ・ ――4――




「ほら、昨日の帰り際にした話だよ」

コハダは、他に誰も居ないのにかかわらず、声を顰めて言った。
――――昨日自分の前で、写輪眼のカカシ相手に『友達になってやるか』などと不穏当な発言をしていたイルカ。
『ば、馬鹿な事言うなよ!冗談にもほどがあるだろ?』を焦って聞き返したのだが・・・イルカは、軽く笑って返しただけで、『あ、スーパーしまっちまう!俺、先に行くな!?』と、さっさと帰ってしまったのだ。
やっぱり冗談だったんだろう・・・とは思いつつ、コイツは小さい頃火影様に可愛がられて育ったせいか、あまり階級差等に拘らないから、なんだか心配だったのだ。
火影様は任務以外には穏やかな方だから、多少の無礼は多めに見てもらえるだろうが、あの写輪眼が同じとは思えない。
彼の体に纏いついている殺気を思い出して身震いしながら、もう一度聞いた。

「はたけ上忍と『友達になる』とかなんとか、言ってだろ?」
「ああ!何、お前心配してたのか?」

可笑しそうに笑うイルカに、やはり自分をからかっただけか・・・とコハダは安堵の息を漏らした。
そんな彼に、イルカは苦笑して見せる。


「別に、俺だって積極的に友達になりたいって思ってる訳じゃないよ」


つーか・・・・どっちかってーと、なりたくないなぁ?
そう言って肩を竦めるイルカに、コハダは笑い返した。
『だよな?いくらイルカでも、あんなこえー男と友達になんか・・・』
そう思っていたのだが、イルカの答えは違った。

「だってさ、あの人絶対手ぇかかりそうだろ?」
「は?」
「あーいうタイプは面倒くさい人多いんだよ。あの人の場合常識なさそうだから、よけいに。・・・関わるとなれば、俺も相当覚悟いるし?」
「お、オイ・・・めったなこというなっ!!」

部屋に誰もいないのにもかかわらず、コハダは落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見まわした。
それなのに、イルカ本人は相変わらずあっけらかんと続ける。

「だから、あの人が『どうしても』って時には、腹くくって友達になってやろうかなぁって思っただけだよ。あっちが何も言ってこなきゃ、別に俺から何かするつもりなんてないから、心配すんな」

イルカは邪心ない笑顔で、にこりと笑う。
その笑顔をコハダはしばしあんぐりと口を開けて見入って。

「お、オマエな・・・怖いもの知らずも大概に・・・」

青い顔で嗜めようとした時、ドアが音をたてて開いた。
ぎょっとしてコハダが視線を向けた時、任務がえりの忍び達がぞろぞろと入室してきた。
――――――混雑時の始まりだった。



******



そして、やはりその男はやってきた。
しかも、混雑がピーク!と言う時間に。

並んでいる列など目に入っていない様子でカカシは進むと、イルカの前に立った。
割りこまれた特別上忍の男は、文句を言おうと顔を上げ、何も言わずに黙りこむ。
先に気がついたコハダは、顔色をなくして隣のイルカを肘でつついた。
イルカが訝しそうにコハダに視線をやってから、控え目に指差された前を見る。

「あれ?はたけ上忍・・・」

目の前の人物が先程と入れ替わっていて、面食う。
そんなイルカに、カカシは唐突とも言える仕草で切り出した。

「ねぇ、思い出した?」
「は?」
「後で考えてくれるっていったじゃない」
「ああ!」

少し唖然としていた感じのイルカは、やっと思い出した様に声を上げる。
それに満足そうに頷いて、カカシはもう一度、問いかけた。

「で、どう?」
「思い出せませんでした」
「は?」
「あの後じっくり考えて見たのですけど、やっぱり思い当たりません。すみません」

イルカはぺこりと頭を下げて『きっと、人違いだと思いますよ?』とあっさりと言った。
―――カカシは、唖然とその笑顔を見つめる。

『ひとちがい?』

カカシの思考が凍りつく。
何故なら、当然『思い出しました』と微笑まれると思っていたからだ。
ショックで固まったまま、カカシは呆然とイルカを見つめた―――――




先程までいた上忍待機所で――――――またあの夢を見ていた。

夢の中でも、カカシは昼寝をしていた。
森の中、木漏れ日を受けながらの昼寝。
枕はあの人の膝・・・・・・・・・最高に、気持ち良い。
それなのに、彼が自分から離れて行く夢を見た。
―――――顔面蒼白で、飛び起きる。

「カカシさん?」

訝しげに覗きこむあの人に、すがりつく。
驚いた仕草で受けとめたあの人は、次に優しげに微笑んだ。

「怖い夢、みたんですね?」
「夢?アンタがいなくなって、俺の事知らないって!・・・俺っ!!」
「泣かないで、カカシさん。―――俺は、いなくなったりしませんよ?」
「ホントに?」
「俺は―――あなたが望んでくれる限り、そばにいますよ?」
「ホントにホント?居なくならない?俺を忘れたりしない?」

腕を掴んで迫る俺をなだめるように、あの人は優しい仕草で俺の頭を撫でた。


「忘れるわけないじゃないですか?・・・・・だって、俺はあなたの―――」




――――そこで、ガイに叩き起こされた。

『うなされていたぞ、我がライバルカカシ!起こしてやった俺の友情に感謝を・・・』
得意げに歯を光らせるガイを、思いっきり蹴り飛ばしてここに来た。
折角最高の微笑を見て幸せに浸っていたのに、台無しだ。
だから急いでここを目指してきた。
ここにくれば、あの微笑の続きを見れて。
・・・・そして、あの夢と同じに『カカシさん』って呼んでくれると思ったのに。
それなのに。

「あの?はたけ上忍?」

なんで、他の奴へ向けたものと同じ営業用の笑顔を向けるの?
なんで、そんな他人行儀な呼び方するの?
なんで、なんで・・・・・『思い出せない』なんて酷いコト、いうの?



忘れないって言ったのに!!!



夢と現実が綯交ぜになり、カカシは思わず声を荒げた。

「・・・・・・・そんな筈無い!」
「はたけ上・・・」

イルカの肩を掴んで、乱暴に引き寄せた。
鼻先がぶつかりそうなほど近くで、睨みつけた。

「絶対、アンタだ!!アンタが俺のっ」

殺気さえ感じるようなカカシの剣幕に、辺りは氷つく。
コハダなどは、息を吸うのも辛そうで、口をパクパクさせて苦しげにしている。
―――そんな中、静かな声が部屋に響いた。


「・・・・・・俺の、なんですか?」


静かな声の主―――――――それは、イルカだった。






イルカ、天然どころか・・・・・・なんか、黒っぽく(笑)


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