「ねぇ、アンタの事、なんて呼べばいい?」


料理屋で、行儀悪くテーブルに頬杖をついたまま向いの席に座る男に声をかけた。
お猪口に落ちていた彼の視線が、こちらに向くのを感じて・・・自分の頬がだらしなく緩むのがわかった。


気分が、いい。


この男の視線が、自分だけに向いているのが、酷くいい気分なのだ。
普段はとても酔うような量の酒ではないのだが、なぜか今日はほろ酔い加減。
初めて呑む相手で、こんな風になるなどカカシには有り得ない筈なのだが・・・今は、ほんのりと心地よい酔いを感じていた。

「はたけ上忍のお好きなように呼んでかまいませんよ」

にっこりと笑い返されたのにもかかわらず、カカシはふわふわとした酔いがいっぺんに覚めて、がばりと姿勢を戻した。

「それ・・・ふごーかっく!!」
「は?」
「その呼び方はダメ!アンタ俺の友達になったんでしょ!?なら、カカシって呼んでよ?」
「・・・・・いいんですか?」
「いいっていうか、それ以外はダメ!」

真面目な顔でそう言うと、男は困ったように笑って。
―――――そして、口を開いた。


「・・・・・・・・・カカシさん」


自分でも呆れるほど、顔が緩んだ。




・ あなたを愛する夢を見た ・ ――6――




前方に見覚えのある銀髪を見つけて、紅は唇の端を吊り上げる。
男の嫌がる表情を思い浮かべて、内心でほくそえみながら声をかけた。


「カッカシー!アンタ、やっとまともな『お友達』できたんですってねぇ?」


からかいの声色を隠しもせずにそう言った紅だったが、振向いたカカシの表情を見て固まった。

「ん〜?そうなんだよ、もう知ってんの?」

さすが姐さん、情報早いねぇ。
そう返しながら振向いたカカシの表情は――――満面の笑み。
しかも、嫌味返しに作って見せた笑みではなく・・・幸せオーラがダダ漏れ!といった感じの笑みだった。

唖然とそのやに下がった顔を見つめてから、紅は呟いた。

「・・・・・・アンタ、本気であの中忍口説いてた訳?惚れたの?」
「え?・・・やだなぁ姐さんはすーぐ、そっちの方向にもっていくんだから。そんなんじゃなくて、俺と『イルカ』は純粋に友達になったーの!」

『イルカ』と、彼の人の名前を呼んだ途端へにゃりと頬を緩ませるカカシに、紅はぞっと体を震わせた。
・・・・・・・・・・うすらサムイ。
これは本物のカカシだろうか?
そんな疑念が湧いて、無意識に彼女のしなやかな指は印を組んだ。

「解!」

呪文を唱えて恐る恐る目をあけると、そこには怪訝な顔のカカシがこちらを見ていた。

「なにしてんの?紅」
「・・・・・・何でもないわ。じゃあ、噂は本当だったのね」
「噂?」
「アンタが昨日受付の中忍を拝み倒して友達になってもらったって・・・・・ね?」
「そんな噂流れてるの?別に拝み倒してはないよ?」
「・・・そうね、アンタが他人に頭を下げる姿なんか想像できな・・・・・」
「だーって、イルカ、即決で頷いてくれたもん!!」

別に友達になってくれるなら拝み倒しても土下座してもいいんだけどさ、イルカってばすぐにうなずいてくれたからね♪
『俺なんかでよろしかったら』なんて控えめな言い方しちゃってるから、俺『アンタがいいの!』って勢い込んで言っちゃったーよ!
その後、イルカが仕事終わるまで受付で待っててさ、一緒に帰ったんだ。
途中で俺のなじみの店に誘って、飯食ってさ。
あ、イルカねぇ、魚食べるの上手いのよ!!
俺秋刀魚大好きだけど、綺麗に食べるなんて今まで考えたコトなかったんだ。
だからいつも通りブチブチ身をむしって食べてたら、イルカが綺麗に骨外してくれてさ〜。
食べやすいし、最後に中骨と頭だけ残ってるの見ると『大好きな秋刀魚を完食した!』って、なんか良い気分になるよね〜。
店の女将にも『今日は綺麗に食べてくれたね』とか、すごく誉められちゃったし♪
でもさ、俺がやったわけじゃないからね?訂正しようとしたら、その前にイルカが『良かったですね、カカシさん』とか、にっこりと笑うのよ。
俺に恥をかかせることなく、かといって押し付けがましくも恩着せがましくもなく・・・あーいう気配りは上忍連中にはできないよね〜。
そうだ!イルカね、『カカシさん』って呼んでくれるようになったーのよ!
まぁ、俺がそう呼んでって強請っちゃったんだけどさ?
だってね、名前で呼んでもらうと『友達』って感じでしょー?
呼び捨てでも良かったんだけど、イルカが『それはちょっと』って言うから、そこは妥協したんだけどね。

「あとね、あとね!・・・・・・あれ?」

熱弁を振るっていたカカシの目の前から、紅の姿は消えていて・・・残っていたのは、煙。

「なによ。自分から聞いてきたくせに」

他にもいっぱい話したいことあったのにさ。
例えば、イルカをなんて呼んだら良いかって聞いたら、最初は「お好きなように」とか言ってたのに、最後には「じゃあ『イルカ』って呼んでくれますか?」って言ってきたあの人の笑顔がどんだけ可愛いかったとかっ!


『ああ、言い足りない・・・・・っ!』


内心で身悶えしていると、後から声をかけられた。

「あれ、カカシさんじゃないですか!聞きましたよ〜?中忍と友達になったそうじゃないですか」

声の主は、アオバ特別上忍。
にいっと、カカシの口端が上がった。
――――くるりと、後を振向く。


「そ〜なのよ、アオバ。情報が早いねぇ」
「だって、里中その噂でもちきり・・・・・・ひいっ!」


――――振向いたカカシの顔を見て、思わず怯えた声を上げて後ずさるアオバだっだ。






のろけ上忍は、かなり人迷惑。(笑)


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