カカシに絡まれてアオバが青くなっているころ。
受付所でも、青くなっている男が一人いた。


「な、なぁ・・・・・・大丈夫か?」
「何が?」
「何がって・・・・・あの視線、気になるだろ?」

怖々と周りを見まわして、コハダは声を顰めて言った。
今日も、受付はイルカとコハダ。
いつも通りアカデミーが終わってから受付業務についていた二人だったのだが、今日の受付所はいつもと違っていた。


混む時間帯でもないのに、満員御礼。


しかも、任務後の忍でないことは報告書を手にしていないことで容易に想像ができた。
・・・・・つまり、みんな『噂の男・うみのイルカ』を見に来た者達ばかりなのだ――――




・ あなたを愛する夢を見た ・ ――7――




昨日、カカシの『俺とお友達になってください宣言』の後、受付内は騒然となった。


里の誇り・写輪眼のカカシ
現役忍者の中ではトップの位置に君臨し、皆の羨望を浴びている彼ではあったが・・・・・同時に、彼は謎の人物でもあった。


―――ぶっちゃけ、いつも飄々としていて、掴みどころがないのである。


仕事上ではもちろん付き合いはある・・・だが、プライベートでとなると彼と付き合っている人物は少ない。
里のトップレベルの忍達とは交流もあるようなのだが、それ以外の人物は彼の内面に近づく事が敵わない。
無視されるわけではないが、話しかけてもいつも煙にまかれたような答えが帰ってくるだけで、彼と言う人間をいまひとつ掴めないのだ。

それは、褥を共にした女性達も同じで。

床を共にした後『恋人』と名乗っても、彼は怒ることはないけれど。
でも、自分の本心は一切明かす事も無いし、褥以外で『恋人』に付き合ってくれる事も無い。
それに耐えられず、彼の『恋人』は次々に入れ替わっていくのだ。

でも―――――鬼のような人物では、ない。

彼は、任務中仲間をとても大事にしている。
自分の命を危険に晒してまで、仲間の命を拾ってくれる。
だが、命を助けられた人物が里内に戻ってから感謝の意を伝えにいっても、全くもってそっけなくて。
里内では、彼は自分以外の他の誰にも興味が無いようだった。
結果、彼は『本当は人嫌いなのではないか?』そう、皆に思われていた。


そんな彼が――――外聞も憚らず、堂々と『お友達になって宣言』である。


しかも、かなり必死な様子が伺えて・・・・・周囲は唖然呆然。
その上、友人になるのをイルカが了承した途端、デレデレに頬を緩めてイルカが仕事を終えるまで側にくっついて離れず。
挙句の果てに、終わった途端尻尾を振る勢いで『飲みに行こうよ』と強請って、苦笑するイルカを連れ去っていったのだ。

その結果・・・イルカは、たった一晩で『噂の男』になってしまった。



「ああ・・・あの人有名人みたいだからなぁ」
「何のんきに笑ってんだよ?見ろ、あのやっかみの視線・・・オレ、こえーよ」

寄越される視線にはいくつかの種類があった。
純粋な、興味。
うらやむ、羨望。
そして・・・・・嫉妬の視線。
嫉妬の視線の中には、攻撃的なものも、イルカを蔑むものもあった。

「んーでも、想定内だしな」
「え?」
「言ったじゃないか、腹くくるって・・・さ」

大丈夫、受付内なら嫌味程度だろう?・・・手まで出してこないって。
そう言って笑うイルカに、コハダは複雑な顔になった。


「お前って・・・・・肝の座った奴だったんだな」


だからはたけ上忍にも気に入られたのかなぁ?

ごく、ごく小さな声で呟いたつもりのコハダだったが・・・その言葉は他の者の耳に届いていたようで。
壁際に背中をつけていた数名の忍が、その科白にピクリと反応して―――ゆらりと背を離して歩き出すのが見えた。
更に蒼白になったコハダに近づいてくる、数名の男達。
だが、彼等はコハダの前ではなく、その隣・・・・・イルカの前に立った。

「中忍風情が、随分いい気になってるみたいじゃねーか」

この言い草からいくと、中忍以上の階級の者達なのだろう。
大柄な態度でイルカを見下ろしてきた男は、更に続けた。

「はたけ上忍にちょっと気に入られたからって、思い上がってんじゃ・・・・・」

威嚇の殺気を出しながらそう言う男。
だが、男が受付台の上に身を乗り出した時、背後から凛とした声が響いた。


「どきな」


その場にいた全員が、声の主を振向いた――――



******



紅が消えて、代わりにアオバを捕まえてからゆうに30分。
半分魂を飛ばしたようなアオバの相槌を気に留めるでもなく、カカシは延々、イルカの話をしていた。

「でねぇ、その時のイルカの顔ったら・・・なんっていうの?こう・・・『えもいわれぬかわいさ』っていうか・・・?ああ、もうなんて表現したら良いのかわからなーいよ!」
「・・・・・・はぁ」
「なんかねぇ、二人きりで話をしたのってたった一回きりなのに・・・癒されるっていうか、落ち着くっていうか」
「・・・・・・へぇ」

アオバに話ながら、思う。
――――イルカと自分は、めぐり合う運命を持って生まれてきたのではないかと。
いや、それとも・・・前世でもうめぐりあっているのかもしれない。

だって、彼といると懐かしい。
だって、彼といると満たされる。
だって・・・・・彼といると、幸せなのだ。

「あ、あのぅ・・・・・お幸せそうな時に水差すようでなんですけど・・・・・」

幸福感に浸リきっていたいたカカシを現実に引き戻したのは、おずおずとしたアオバの言葉だった。

「・・・・・・なに?」
「カカシさんがうみのを大事にしていらっしゃる事は骨身にしみるほどわかりました。ですから、俺なんかにカラんでいる・・・げふんげふん、いや俺なんかと話をしている場合じゃないんじゃないかと思いまして」
「・・・どーいうこと?」
「カカシさんとうみのが友達になった事は、里中の噂になってます。・・・うみの、やっかまれてますよ?あなた人気者だから・・・彼、中忍だし」
「!!」
「今ごろ、受付でエライことになってるかもしれません。俺なんかにかまってないで行ってあげた方がいいですよ?」

アオバの言葉に、カカシの顔色が変る。

「うかつだった・・・・・早く行ってあげなきゃ!!」
「そうですよ!ささ、俺にかまわず行ってくだ・・・・・・ぐえっ」

解放される嬉しさに声を弾ませながら言ったアオバだったが、言い終わる前にカカシに襟首をつかまれた。


「イルカを助けにいくよ!」
「ひぃぃ〜〜〜」


一人で行って下さいよぅ〜〜〜〜〜(涙)
・・・嘆くアオバを引きずって、カカシは受付へと駆けた――――



******



男達を両腕で横に掻き分けるように現れたその人物。
邪魔され、剣呑な視線でその人物を振向いた男達だったが、すぐに呆けたような顔で姿勢を戻した。

「紅さん・・・・・・」
「アンタ達、報告じゃないんでしょ?邪魔だから、どきなさいよ」

夕日紅は、木の葉の独身の忍達にとってマドンナ的存在である。
そんな彼女に凄みを効かされて睨まれ、男達はざざっと後ろに引いて、その場をあけた。
それを一瞥してから、紅は受付台の上に片手をついて、イルカの方に身を乗り出した。

「アンタがカカシの友達になったっていう中忍ね?・・・たしか、うみのイルカ?」
「は、はい。そうですが・・・・あの、なにか・・・?」

カカシややっかんできた男達には肝の座った態度で応じていたイルカだったが、紅の出現には流石に面食らった様で、どもりながら戸惑ったような視線を彼女に向けた。
そんなイルカを見下ろしながら、紅は不機嫌な顔で言い放った。


「気に入らないのよねぇ」


その言葉に、辺りは騒然となる。
夕日紅―――彼女はマドンナ的存在であるが、実は恋人がいると噂されている。
その相手は、猿飛アスマ上忍だと思われていたのだが?
それは間違いで・・・彼女の恋人、もしくは想い人あのはたけカカシだったのだろうか!?
辺りがそうざわついている中で、イルカは恐る恐ると言った感じで、聞き返した。

「あの、それは何が・・・・・?」
「アイツをからかうのは楽しいのよ」
「は?」
「まぁ、腕ではかなわないかもしれないけど、今まで口では絶対負けなかったの」
「はぁ・・・・・」
「口でやりこめてやると、困って捨て台詞吐いて逃げ出すのはいつもアイツだったのに」
「えと・・・夕日上忍、いったいなんの事・・・・・」

聞き返すと、紅はその秀麗な顔をずいっ近づけて、イルカの顔を見つめた。
思わず顔を赤らめるイルカに向かって、紅は立て板に水の勢いで、しゃべり始めた。

「それなのに、今日はアタシがやりこめるどころか、口を挟む暇がない勢いで惚気てくるのよ!?アタシ耐えられなくて、ついその場を引いちゃったんだけど・・・離れてから我に返って、すっごく悔しくて!!」
「は、はぁ・・・・・」
「このアタシとした事が、何たる屈辱!!気に入らないわ、馬鹿カカシ〜〜〜!!!」
「・・・・・・・」

つまり、彼女が『気に入らなかった』のは、どうやらイルカではなくカカシだったようで。 イルカは力が抜けたように肩を落とした。

「・・・なるほど。それで夕日上忍、俺はいったいどうしたらよろしいんですか?」
「目には目を、歯には歯をっていうでしょう?」
「は?えっと、それはどういう・・・・・・」

困ったように眉を下げてお伺いを立てるイルカに、紅はまるで昨日カカシがしたのを見ていたかのような同じ仕草で、イルカの右手を両手で包みこむように握った。


「アタシとも、友達になって?」


えぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!?
外野の絶叫を聞きながら、流石にイルカも唖然と口を開けて固まった。
が、すぐに我に返って立ちあがると、もう片方の手を握られた紅の手に添えて、キリリと男らしい顔で言った。

「俺でよろしければ、喜んで」
「嬉しいv」

手を握り合ったまま、二人はにっこりと笑いあった。






ピンチのイルカを助けたのは、王子様じゃなくて、女王様でした。(笑)
・・・・・うちの紅先生が色々と間違ってるのはわかってますが、この方が動かしやすいのでご容赦を(苦笑)


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