そのまま4人で歩きながら家路についていると、サクラがひょっこりと覗きこんできた。
「何?サクラ」
「なーんかね、勿体無いって思って。先生、どうして顔隠してるの?」
せっかくカッコイイのにぃ。
まだ残念そうに言っているサクラに、カカシは苦笑を返した。
・ 美しさは・・・ ・ ――2――
「あのね。忍者がそんなに積極的に顔晒さなくてもいいでしょー?」
「それはそうだけど・・・別に里の中でまで隠さなくてもいいんじゃない?モテなくなるよ?」
だって、顔隠してる時の先生の第一印象って最悪だよ?
顔で出てるのって右目だけだし、なんか猫背だし、やらしい本読んでるし・・・・・・正直、あやしい人にしか見えなかったもん。
もし歩いててうしろにいたら、迷わず変質者だって疑っちゃうよー?
・・・今時の女の子は、ハッキリ・バッサリ切り捨てる。
それにますます猫背になってため息をつきながら、カカシは答えた。
「いーのよ。先生、顔に惹かれて寄ってくる人なんかには興味ないんだから」
「え〜、第一印象って大事だと思うけどな。んじゃ、純愛求めて隠してるの?」
「そーそー。でもね、折角顔隠してもさ、結局寄ってくるのって俺の名前が少し売れてるからだったりするんだよねぇ」
イチャパラのような恋ってないのかね?
そう肩を竦めると、『先生って意外に純情!』などと笑われた。ほっといてよ。
そんな二人の会話を聞きながら、ナルトがぶすくれた声を出した。
「なんか、おもしろくないってばよ。顔、顔ってー」
男は顔じゃなくって、心意気だってばよ!!
そう鼻息を荒くするナルトに、なんだかいつもやたらライバル意識を燃やしてくる同僚を思い出す。
やれやれ・・・と言った感じで、カカシはナルトの頭を撫でた。
「ハイハイ、ナルト君。ヒガマないの!・・・先生、この顔で結構苦労してんだから」
「へ?・・・苦労って?」
「確かに女の子は寄ってくるけどね、トラブルも多いって事」
勝手に人の事取り合って喧嘩されるのも煩くて参るけど、もっと困るのは顔を見られたのが依頼人とかの時だよ。
大名の奥方なんかに見初められちゃったりしたら、不幸のどん底。
勝手に熱上げて言い寄られて・・・お客だからね、無下に出来ないし。
そう思って少し優しくすると、旦那が怒鳴り込んでくるし。
依頼人と揉めたって事で、帰ってから上司に怒られるし―――もう、踏んだり蹴ったり。
「しかもね・・・その奥方が綺麗な若妻ってならまだしも、オバさんーよ?」
――――そう泣きまねをすると、ナルトもさすがに同情したようだった。
「そ、それは結構大変そうだな・・・」
「でしょ?だから、顔は隠しといた方が楽なの」
「なんか、美形過ぎるのも大変なのね」
肩を竦めるサクラに、カカシは片頬に人差し指を当てて。
「まーね、ほら『美しさは罪』っていうでしょ?」
茶化す様にポーズをとってみせると、サクラは『やーだ、先生ったら!』と、ケラケラ笑う。
ナルトは『気持ちワリ〜』とげらげら笑い、サスケはバカにした様に『ふっ』と口の端で笑った。
ひとしきり笑った後、サクラはふと気になったといったふうに、首を傾げた。
「・・・じゃあ、先生って自分から好きになった人の前でも、マスク外さないでアプローチするの?」
「そーだね。まずは顔隠しててもちゃんと好きになってくれるか、試しちゃうよね〜」
「・・・・・・成功、するの?」
「ん?変な人だと思われて、振られる」
「なにそれ」
なんだか宝の持ち腐れ〜。
眉を寄せてそう言うサクラに、苦笑を返す。
「言ったでしょ、俺ワリと純情なのよー?」
まぁね。言い寄ってくる女で面倒がなさそーだと、とりあえず恋愛感情無しで食っちゃったりはするけどさ。もちろん、あんまり顔見えないよう、暗闇で。
・・・とは、声に出さない。女の子にはコレ言うと絶対引かれるからね(苦笑)
「んじゃ、たとえ付き合いだしても、まずは『アヤシイ先生』を好きになってからじゃないとマスクの下は見れないのねー?」
「まぁね。気持ちも通じ合ってないのに自分から外すなんて有り得ないねぇ。・・・もし自分で外すとしたら」
カカシはうーんと首を傾げて考えて。
「ポリシー変えてこの顔使ってでも、落としたい人ができた時―――とかかなぁ?」
そう言ってカカシはクスリと笑った。
そして、思いついたように後を歩いていたサスケに振向く。
「サスケ、お前ももう少し成長したら、依頼人が女の時はマスクつけた方がいいよー?」
「そ、そうだわっ!サスケくんっ、絶対そうするべきよ!!」
青くなって勢い込んでサスケに迫るサクラの横で、ナルトも腕組をして深く頷く。
「だよなー、俺もお年頃になったらつけなきゃだってばよ」
「・・・・・ウスラトンカチには必要ないだろ」
「なんだと、クソサスケー!!」
「うん、ナルトには必要ないわよ」
「ぐわ〜!サクラちゃんたら酷いってば!」
「そーね、お前はいらないでしょ」
「なんだよ〜!カカシ先生までっ」
ぎゃーぎゃーと騒ぐナルトのうしろで、クスリと笑いが聞こえた。
「賑やかですね」
後から声をかけて来たのは、中忍のアカデミー教師・うみのイルカだった。
途端、今までむくれていたナルトの顔がぱあっと輝いて。
ナルトは、すぐにイルカの元に走っていく。
「イルカせんせー!!」
「ぐはっ!」
「ちょっと、ナルトぉ」
「・・・・・ウスラトンカチ」
腹に向ってダイブしてきたナルトを受けとめ、咳き込むイルカ。
そんなナルトを呆れ気味な顔で見ながら、サクラとサスケも近寄ってきた。
でも、ナルトはお構いなしでイルカの腰に抱きついたまま、子犬の様にほっぺを擦りつけている。
「イルカせんせーv」
「ゲホッ、お前なぁ・・・体大きくなってきたんだから、少し加減しろよ・・・」
「なぁなぁ、先生も一緒にかえろーってば?」
「んー?でも、お前達任務中なんじゃないのか?」
「違うってば!今日休みなんだ・・・自主トレの帰り!」
「そうか!自主トレしてるんだな。偉いぞ、ナルト!」
お前ちゃんと成長してるんだな!
イルカは目線を合わせて、ナルトの頭をワシワシと豪快に撫でてやる。
「サスケはどうだ、調子は?」
「・・・別に、変わりない」
「お前はなんでもそつなく出来ちゃうから、かえって無理しすぎるとこあるからなぁ」
怪我だけには気をつけるんだぞ?
そう言って優しい目で見つめて、ポンと軽く手を置き撫でる。
「サクラ、こいつら良く喧嘩するから、お前苦労してるだろ?」
「そーなんですよぉ、先生!ナルトがすーぐ、サスケ君につっかかるからぁ」
「やっぱりか。・・・でもお前はしっかり者だからな、お前がいると思うと先生、少し安心なんだ」
二人の面倒見てやってくれな?
彼女の苦労を労う様に笑うと、髪を崩さぬ様に気をつけなら優しく頭に手を置いた。
昔自分が与えられたのと似た、優しいまなざし―――――
イルカと子供達のやり取りを、カカシは瞬きもせず見つめて。
そして気がついた時には、カカシはその足を男の元に向けていた。