『人生って、なかなかうまくいかないもんだな・・・・・』

忍にとって、作戦失敗は命の危機に繋がる。
だが、今回の作戦失敗は別に任務ではないので、命の危機はない。
・・・けれど、命の危機こそないものの、別な危機に繋がった気がする。


『今回の場合危機なのは、俺の貞操・・・・・・・・か?』


イルカは、室内なのに遠い目をして天を仰いだ―――




・ この腕に花を ・ <14 >




あの後、結局カカシの家に同行する嵌めになった。
『中忍寮とは雲泥の差の豪華な造りだ』と噂の上忍寮に住んでいるのだと思っていたイルカだったが・・・予想とは違って、彼の家は里の中心から少し離れた一軒家だった。

「ここ・・・ですか?」
「そうですよ。どうぞ入って?」

そう言って中に招きいれられて、きょろきょろと周りを見回す。
年月を経た家ではあったが、立派な造りの趣のある家だ。
庭も広く、ちゃんと手入れしてあるようだ。

「立派なお宅ですね・・・」
「古いですけどね」

そう言って、カカシは家の中を案内してくれた。
古い家ではあるが、居間やキッチンは使いやすく改良したらしく、いうなれば和風モダンと言った感じ。
男の一人暮らしにしては、綺麗に片付いているなと思った。

「こっちは風呂です」
「う、わ・・・!」

思わず感嘆の声をあげてしまう。
何故なら、そこには足を伸ばしてゆったり入れる大きさの檜風呂があった。
窓から中庭が見えるところも、素晴らしい。
風呂好きなイルカにとっては堪らなく魅力的で、つい『うらやましい!』と、言ってしまったが。

「今日から入り放題ですよ?広いから二人でも余裕で入れます」

・・・などと、流し目を寄越され、青くなった。
慌てて、『え、遠慮します!』と答えて、足早に風呂を出る。

「遠慮しなくていいのに・・・」

追いかけてきたカカシが笑いながらそう言ってから、ある一室へとイルカを案内した。

「ここ、使ってください」
「ここ・・・ですか?」

案内されたのは、綺麗に片付いた一室。
カカシは『布団、持ってきますから』と言って、部屋を出て行った。
カカシが出て行った後―――イルカは畳の上にぺたりと座って、溜息を吐く。

「なんでこんなとこまで来ちゃったんだろうなぁ・・・」

交際を了承したわけではない。彼と一緒に住む義理はない。
・・・・・ただ、勢いに押し切られてしまった。
イヤだとも、ダメだとも、ちゃんと言った。
それでも、彼は懇願し続けて・・・最後には泣き落としに出た。
『俺の事、そんなに嫌いですか・・・?』
さっきまで、押せ押せムードが一変。しゅんと寂しそうに頭を垂れる姿は、さながら捨て犬のようで。
その姿に、抵抗する腕が緩んでしまった。

「・・・なんか、弱いんだよなぁ」

力ずくで来る輩などには、どんな目にあっても屈服するつもりはない。
確かに階級が違えば遠慮もするが・・・どうしても承服できない事には、相手が上忍だろうと、毅然とした態度で臨む覚悟もある。
・・・だが、あんな風に下手に出られると、弱い。

「母性をくすぐられるっていうか、なんていうか・・・」

女になったとはいえ、自分に母性などあるかどうかは甚だ疑問だが・・・男の時から、イルカは寂しさを耐える姿に弱かった。
孤独による寂しさからか、悪戯ばかりしていたナルトしかり。
一族を失った辛さを押し隠し、強がるサスケしかり。
自分もそんな経験がある所為か、孤独や寂しさ・・・そんなものを抱えている人間に敏感で。
そして、そういう人物にとことん弱い。

「でもなぁ・・・あの人がそれに当てはまるかどうかは疑問なんだけど」

ビンゴブックに載るほどの凄腕の上忍で、里の誉れとまで呼ばれているあの人。
里の忍達からも尊敬と信頼を受けていると聞いた。
若く実力のある彼は女性達からの支持も絶大で、アカデミーの中でさえあんなに『ファン』がいる程だ。男も女も、彼と親しくなりたい人は相当数いることだろう。
―――とても、孤独とは結びつかない。

『それでも・・・』

それでも、何故か彼の手を無碍に払えない自分がいる。
寂しい気持ちを感じ取ってしまう自分のセンサーに、どうしてか彼は触れるのだ。

『上忍だから演技も完璧で・・・俺のセンサー、騙されたりしてんのかな?』

どちらかというと、完璧どころか寂しそうに頭を垂れる姿はわざとらしくもあるんだけれど。
それでも、彼の腕を突き放す事が出来なかった。

「どうしよう・・・」

そう呟いた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「イルカ先生、入っていい?」
「カカシさん?・・・どうぞ」

了承の返事をすると、カカシが扉を開けて顔を覗かせた。

「これ使ってください」
「えっ・・・あの」

ドンと置かれた布団に『やっぱり今日はここに泊まることに決定なのか!?』と、顔色を悪くする。
イルカが返事を躊躇していると・・・カカシはこちらをじっと見つめた後、イルカの向かいに腰を下ろすと、困ったように笑った。

「・・・ごめんね、イルカ先生」
「え?」
「俺、困らせちゃってますよね・・・」
「えーと・・・」

どう答えていいかわからず曖昧に返事をすると、カカシは視線を落として、呟くように話し出した。

「アナタが困っているの、分かってます・・・強引な事してすみません」

さっきの見たら、アナタを一人にするのが心配になっちゃって。
そう言って、カカシはくしゃりと自分の髪をかき混ぜた。
―――そんなカカシに、イルカは苦笑する。

「どんな心配してるんだかしりませんけど・・・あなたから見れば頼りないかもしれませんが、俺、これでも中忍なんですけど?」
「別にアナタを侮っている訳じゃないです・・・俺がアナタを心配するのは、アナタが好きだからです」

アナタを他の誰かに取られてしまうんじゃないかと思うと、心配なんです。
そう言って、カカシは切なげに溜息を吐いて・・・そして、再び懇願してきた。

「お願いです・・・本当に無体な事はしませんから、ここにいてくれませんか?」
「でも・・・俺、あなたとお付き合いするとは・・・・・」
「分かってます。・・・なるべく好きになってほしいけど、もちろん無理強いはしません。しばらくして、どうしても俺をそういう風に見られないと思ったら、出て行っても構いません」

アナタに『嫌い』だと告げられたら、その時はきっぱりと諦めます。
その後も無理を言って困らせたりはしません。

「だから・・・俺にチャンスをくれませんか?」

アナタに好きになってもらえるように、努力しますから。
ここにいて、俺という人間を知ってもらえませんか?
そう言ってこちらを見つめるカカシを、困惑の表情で見上げた。

「なんで、俺なんかをそんなに・・・」

あなたを好きな人な女性、沢山いますよ?
皆俺より綺麗で、スタイル良くて、女らしくて、あなたを好きな人・・・沢山知ってます。
だから余計に分からない。

「俺には・・・何故あなたが俺に好意を向けるのかわかりません」

自分の心の内を伝えると、カカシは困ったように笑った。

「言葉で伝えるのは難しいですね・・・伝えても、伝えた言葉をアナタが信じてくれなければ意味がないですし。・・・だからそれも含めて、ここにいてくれませんか?」

俺の事を嫌いでないなら、ここに一緒にいて、俺の気持ちが真剣だと言う事を見極めてもらえませんか?
何度言っても引かない彼。 その瞳を見つめ返して―――小さく溜息を吐いたのち、イルカはとうとう頷いた。

「わかりました」
「・・・!イルカ先生!!」
「ただし!何度も言いますけど、恋人になることを了承した訳じゃありませんからね!」
「はい!」
「ここに住むのも、同棲じゃなくて、あくまでも同居です。・・・イヤになったら出て行きますから・・・うわっ!」

根負けしたものの、予防線を張っておかなければ!と、色々条件を挙げていたいたイルカだったが、途中で抱きすくめられた。
慌てて、彼の背中を叩く。

「ちょ!カカシさん、本当にあなた俺の話きいてたんですかっ!?」
「はい、聞いてます!イルカ先生大好きです!!」
「・・・・・」


本当に大丈夫なんだろうか・・・。


了承した直後なのに、もう後悔し始めたイルカだった―――






めでたく同居v・・・あんまり進んでなくてすみません;


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